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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第四章 Luna Dive
27/45

25.風に舞う

◆風に舞う◆


涙が落ち着いた頃、遥はユキと二人で駅に向かって歩いていた。


「ありがとう。ユキくん。哲央くんたちとご飯に行ってよかったのに」


「俺が、遥と話したかったから」


ライブの疲れと晃のことで、いつも以上にベースケースの肩紐が肩に食い込む。

俯きそうになる心を奮い立たせてくれているのは、ユキの暖かい手の感触と今日の出会いだ。


「……話?」


ドキリとして、一瞬硬直する。


「そんな不安そうな顔しないで。今日のライブ、頑張ってた。良い音、出してたよ」


「でも出だし遅れちゃったし、あとは緊張でよく覚えてないの……」


「そっか、同じだね。俺も緊張した」


(やっぱりユキくん、緊張してたんだ)


ユキの冷たかった手を思い出す。


「MCしたユキくん、立派だった」


「ありがとう」


(ユキくんと話すのって、いつも帰り道だな)


「今日は、他のバンドから、とても刺激をもらえた。自分の足りないところが、見えた気がする」


「そんな、足りないって……」


いつの間にか、改札の前まで来ていた。


「もう駅、着いちゃった」


「そうだね。またスタジオで」


「晃くん、来る、よね……?」


ユキは困った顔で微笑んで、そのまま改札をくぐっていった。



ユキと別れて家に帰った遥は、ベースケースを置くとすぐさま倒れ込む様に横になった。


(ああ~、疲れた……)


今日は目まぐるしい一日だった。もう何も考えられない。

泣いた後は疲れがどっと来て、みんなとご飯に行くことも出来なかった。


遥は目を閉じた。

そのまま深い眠りについた。



翌日。

遥は、重い体を引きずってなんとか仕事に行った。

夜、みこと食事をするのが、この日の一番の楽しみだ。


(バンドとの両立はきついけど、仕事は辞められない……)


根性で仕事を終え、遥はみことの約束の場所に向かった。


「みこー! 疲れたよー」


遥はみこを見つけると、よたよたしながら駆け寄った。


「はるかー! 大丈夫? じゃないよね」


みこも駆け寄って、よろよろの遥を心配そうに見つめた。


「ライブの他にもちょっとあって、なんだか、どっと疲れちゃった」


二人はいつものファミレスに入った。


「それにして、遥がステージに立ってるの感動したよぅー!」


みこは、両手を握りしめて目を輝かせた。


「来てくれてありがとう! 嬉しかったし、心強かったよー」


「そりゃ、友達がムンボのステージに立つんだよ。見に行くよ」


興奮気味にみこは言うと、オレンジジュースをごくっと飲んだ。


「まさか最前で見てくれるとは思わなかった!」


「そりゃあね、私は遥のファン1号だもん。ちょっと緊張したけど、最前で見ちゃうよ!」


「わー、みこと出会えて良かった!!」


遥はみこの言葉に、涙が流れそうになって、慌てて手で目頭を押さえた。


「遥、そんな泣かないでよ。ご飯来たから食べよう」


みこは、すっと紙ナプキンを遥に差し出した。遥は、それで涙を拭った。

紙ナプキンは少し硬かったけれど、みこの優しさが嬉しかった。


「うん。食べる。本当にありがとう」


半分ぐらい食べたところで、遥が恐る恐る口を開いた。


「ねえ、みこ。LUMINOUS(ルミナス)のライブどうだった?」


「最後にやったLuna Dive(ルナダイブ)って曲、好きだな」


遥は、目を輝かせた。


「どの曲も好きだけど、私もあれが一番好き!」


「でもさ、歌が……」


みこは、ストローでオレンジジュースの氷をつんつんしながら、続けた。


「ボーカルの人の緊張が伝わってきて、見ているこっちもドキドキしちゃった」


「そっか。なんかね、あの曲とイベント名が同じだから、妙な期待があったんだ」


「そうだよね。わかるよ」


「だけどさ、実際は……閑散としてて。チケット売れてないから、予想はしてたけど」


遥はコーラを飲んだ。


「私も、不安で、でも夢中で弾いてた。みこがいてくれたから、頑張れた」


「もう、遥ってば! 今度は私が泣いちゃうよー」


遥は、みこに紙ナプキンを渡した。


「遥は、頑張って弾いてるの伝わったよ! また、ライブやったら絶対に見にいくね!」


「……うん。ありがとう!」


(さすがに晃くんのこと、みこに言えない……)


心に不安を残したまま、みことの楽しい時間は過ぎていった。



数日後。

今日は、ライブ後、初のスタジオ練習の日だ。

嫌な胸の鼓動を深呼吸でごまかしてから、遥はゆっくりと扉を開けた。


「お疲れ様……」


「お疲れ様」


ユキと哲央が同時に返事をしてくれた。


(まだ晃くん、来てない……)


遥は、狭いスタジオを念のため、見回した。

そんな遥の様子を見たユキは、少し考えてから口を開いた。


「遥。晃は来ないよ」


遥は、ユキの近くに駆け寄った。


「えっ! 本当に辞めちゃったの!?」


「ああ、次の日、本人に確認した」


「ああっ……」


その場に、遥はぺたりとしゃがみこんだ。

哲央は、既に聞いていたのか、顔色を変えなかった。


「念のために言っておくけど、遥のせいではないからね」


「そうだぞ、あんまり気にするなよ」


「……ありがとう。でも、これからLUMINOUSは、どうなっちゃうの?」


スタジオに、答えのない沈黙が落ちた。


――ガチャ。

スタジオの扉が開いて、瞬が入ってきた。


「悪い! 遅くなった」


哲央が驚いた顔で瞬の方を見つめる。ユキは表情こそ、変えてないがやはり瞬を見ている。それにつられて、遥も瞬を見た。


「瞬くん!」


「みんな驚き過ぎだって!」


瞬の長かった黒髪は、すっかり短く整えられていた。


「どう? 似合うかな?」


瞬は照れくさそうに短くなった髪を触った。


「すごいすっきりしたな! いいんじゃないか!」


哲央は頷きながら、親指を立てて見せた。


「……瞬。ああ、似合ってる」


ユキは、何かを悟ったように言った。

その表情を見て、遥も悟った。


「えっ、あ、やだ……」


瞬は、みんなのところに来て、そのまま腰を下ろした。

みんなで輪になって座った。スタジオの床の冷たさが、遥を冷やす。


「俺さ、もともとこのバンドが最後って決めていたんだ」


瞬は、ユキ、遥、哲央と一人ずつ顔を見渡した。


「この間のライブで、Glass Crow(グラスクロウ)を見て、俺は踏ん切りがついたんだ」


「そんな! これからみんなで頑張ればっ!」


「そうだね。だけど、俺は……」


遥の目から涙が溢れる。


(バラバラになっちゃう)


「ダメなのか、もう少し、頑張れないのか?」


哲央が躊躇いがちに聞いた。


「みんなに迷惑をかけたくないんだ。だからこそ、ここで降りる。……俺は、自分の限界をわかっているから」


「そうか。……今までありがとう。瞬」


ユキは、まっすぐに瞬を見て頭を下げた。


「こっちこそ、ありがとう。ユキの作る音に興奮したよ」


瞬は、ユキと握手した。


「哲央、みんなを頼む」


哲央の背中を軽く叩いた。


「遥、君が誰より頑張ってるの知ってる。音を鳴らし続けて」


泣いてる遥の頭に軽く手を置いた。


「しゅ、瞬くん……」


「あ、そうだ。これ、持ってきたんだ」


瞬はショルダーバッグから、封筒を取り出して、3人に渡した。


「なんだこれ?」


哲央が封筒を覗く。


「写真だよ。この間のライブでみんなで撮ったやつと、プロフィール用に撮ったやつ」


泣きながら遥は、封筒から写真を取り出した。


緊張した面持ちの自分、そして、ついこの間、ライブハウスの楽屋でのLUMINOUS。


どれを見ても、晃や瞬、みんなを思い出す。また涙が溢れてくる。


「さらに泣かせてしまったか……」


少しばつが悪そうな顔をしながら、瞬は立ち上がった。


「さて、俺は行くよ」


瞬はギターを持っていなかった。


「ああ、じゃあな」


ユキが、その場から言った。

遥と哲央は、扉まで瞬を見送った。


扉が、開く。

外からの風が一陣、吹いた。

瞬の短くなった髪が、揺れる。瞬の髪が一本、風に乗りどこかへ飛んで行くのを、遥の視界は捉えた。


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