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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第四章 Luna Dive
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23.Luna Diveの夜5 優しさと卓越と矜持と

◆Luna Diveの夜5 優しさと卓越と矜持と◆


終わった。

楽屋に戻る前に幕の閉まったステージの内側で、スモークの匂いとわずかに残る自分たちの匂いを確かめるように、遥は大きく息を吸った。


早々にCANVASLAY(キャンバスレイ)が入れ替わりで、ステージにやって来た。


「お疲れ様! はるちゃんのベースの音良かったよ!」


陣はふわりとした白い衣装を着ていた。


「ありがとう! 陣くんも頑張って!」




楽屋に戻ると、晃が着替えているところだった。あちこちに衣装が転がっている。


「ちょっ、ちらかしすぎだぞ」


哲央が散らばった晃の衣装を拾い上げる。


「……イライラする気持ちもわかるけどな」


自分のギターをケースに戻しながら瞬は晃を見た。


「初めてなんだし、やっぱり先輩たちと同じとはいかないよ」


「でも、俺……」


タンクトップ一枚で俯く晃の肩が小刻みに震える。


「ボーカルはMCをする重圧もあるしな」


哲央は拾い集めた衣装を晃の鞄に詰め込むと、励ますように背中をさすった。


「次のバンドが楽屋を使うから早く着替えて出よう。他のバンドの演奏が観たい」


ユキはさっと準備を終え、みんなを待つ。

遥はメイクだけ落とすと、衣装の上からパーカーを着こんだ。


「晃、ほら、早く」


瞬と哲央にせかされ、晃もなんとか準備を終えた。


そこへGlass Crow(グラスクロウ)が、LUMINOUS(ルミナス)と入れ違いに楽屋へと入ってきた。


先頭を切って入ってきたのは、顔合わせの時に話していた赤髪の青年。

その後ろには、プラチナブロンドの長髪の青年、さらに身長が180センチを超えていそうな容姿端麗な茶髪の青年と残りのメンバー二人が続いた。


「お疲れ様」


赤髪の青年が声を掛けてきた。


「お疲れ様です」


「なあ、最後にやった曲、作ったのって君?」


ユキは、頷く。


「ふーん、そっか」


それだけ言うと赤髪の青年は、ユキの前を通り過ぎた。


プラチナブロンドの長髪の青年は、にこやかにあいさつして言葉を補う。


「みなさん、お疲れ様です。ゼラ、あ、あの赤髪ね。Luna Diveが良かったみたいで、気になったみたいなんだ」


「ありがとうございます」


ユキは頭を下げた。つられて遥も一緒にお辞儀をした。


「ぶっきらぼうでごめんね。でも音楽が大好きなやつなんだ」


プラチナブロンドの長髪の青年は、顔の前で両手を合わせて、軽く頭を下げた。


「いえ、俺たちフロアに出るんで楽屋使ってください」


みんな頭を下げあいさつすると、フロアへ向かった。



フロアはやはり、人はまばらだった。

MIDNIGHT(ミッドナイト) PARADEパレードFROST RAIN(フロストレイン)のファンは、フロア後方やロビーに散っていた。

タイムテーブルが不明のため、みんな幕の向こうから聞こえてくる音やフロアにいるメンバーたちで順番を予想している。


遥たちが、フロアの一番後ろに着いたところで、照明が落ち幕が開いた。


ステージに、CANVASLAYが立った。

数人が一番前に駆け寄る。


最初の音は、少しだけ頼りなかった。ドラムの音が軽い。

でも、不思議と嫌な感じはしない。


(あ……)


遥は、無意識に肩の力が抜けていることに気がついた。


ボーカルの声は、優しさの中に芯がある。柔らかく、でも決して弱くない。心の隙間に、足りない色を足してくれるような響き。音の一つひとつが、未完成のキャンバスに優しく色を置いていくようだった。


(歌声、とても好きだ)


ギターの紫門がライトを浴びる。

パープルシルバーの髪に着けた薄いベールが、ギターのリズムに合わせて揺れる。

派手な動きはない。

それなのに、目が離せなかった。


(私と紫門ちゃん、似てる気がする……)


ボーカルが後ろに下がり、陣と紫門が中央に出て演奏する。

二人が中央に出た時に見せたお互いを見る笑顔が、遥にはとても信頼し合っているように見えた。


音が、寄り添ってくる。

上手くはない。

でも、聴いていたい音。


(こういう音も、あるんだ)


幕が閉じる。遥は気づけば拍手していた。隣のユキも同じく拍手をしている。


「ボーカルうめーな」


恨めしそうな顔で晃が呟いた。


「女形もめっちゃきれー」


さらにさっきよりワン・トーン大きな声。チラリと遥を見た。

遥は、視線を感じながら、唇を噛みしめそのまま前を見続けた。


あと2バンドになりロビーにいたFROST RAINのファンたちが、戻りはじめた。フロアが自然と熱を帯び始める。



照明が落ち、幕が開いた。

そこに立つのは、漆黒の衣装に身を包んだGlass Crow。

フロアは静かになった。ざわつきが、消えた。


一音目が鳴った。

音と共に空気が揺れる。


(――!!)


何が起きたのか、分からなかった。

隣のユキが前かがみに身を乗り出した。


ゼラの挑発的なギターに、プラチナブロンドの髪の細やかなギターが重なる。ベースが絡み、ドラムが腹の底を震わせ、ボーカルの深みのある声が心をかき乱す。


揺れる空気がフロア全体を駆け抜け、竜巻のように人々を巻き込んだ。

他のバンド目当てのファンが前方へと詰めていく。


ボーカルが拳を掲げれば、フロアのみんなも拳を上げた。

ゼラが激しく頭を振りながらギターを鳴らせば、みんなもヘドバンした。


目が逸らせなかった。


(……なにこれ、息が詰まる)

胸が早鐘のように鳴る。


いつの間にかMIDNIGHT PARADEと、次に出番を控えるFROST RAINのメンバー全員がGlass Crowのライブを観ていた。


180センチを超えるだろう長身のボーカルが叫ぶ。


「いいかー! 俺たちがGlass Crowだ!!」


「おおお!!」


悲鳴に近い声援がフロアに響く。


ゼラが前に出る。

次の瞬間、ギターがかき鳴らされた。


「おおおっ!! Glass Crow!! 最高―!!」


歓声の中、幕は閉じた。


ざわつくフロアで、遥たちはあっけにとられていた。

近くでMIDNIGHT PARADEとFROST RAINのメンバーが話している。


「次なのに、目が離せなくて……」


「わかるよ。やばいやつら出てきたな」


「俺たち、すぐに抜かされるんじゃ……」


「いや、もう抜かされてるかもな」


FROST RAINのメンバーは、お互い視線を交わし頷く。


「それでも……、FROST RAINの力、見せてきます」


FROST RAINのメンバーたちは楽屋に消えていった。



いよいよFROST RAINのライブが始まった。

青いライトが彼らを包む。


フロアが飲み込まれた後のステージでも、彼らの音は綺麗だった。


「トリのFROST RAINです。熱いこの会場に、俺たちの雨を降らせましょう」


Glass Crowのような激しさはない。静かで、重くて、長く降る雨のような音。

蒼馬そうまの声は、霧のように広がっていく。

潰されることもなく、最後まで自分たちの世界を魅せた。

Glass Crowに浮かれたファンたちも、FROST RAINの降り注ぐ雨粒のような音に静かに打たれていた。


(ああ、音が染みる……)


こうして、

イベント「Luna Dive」。

最後の幕が閉じた。





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