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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第四章 Luna Dive
24/45

22.Luna Diveの夜4 月に飛ぶ

◆Luna Diveの夜4 月に飛ぶ◆


ライトが落ちると、フロアから黄色い歓声が上がった。

MIDNIGHTミッドナイト PARADEパレードが、ステージに立つ。


幕が開いた瞬間、赤いライトが点いた。

その中心で、ショウタが客席を見下ろしていた。

フロア前方の密度が、一気に増す。


誰かが叫ぶ前に、腕が上がった。

気づけば、フロアが同じ動きをしている。


合わせたわけじゃない。

合わさせられている。


「ショウタ、ショウタ、ショウタ!」


「ユーマ!」



最初に鳴ったのは、コージのバスドラム。低い一発で、フロアの空気が沈む。

そこに、ユーマのギターが重なり、逃げ道を塞ぐみたいに、音が広がる。

カズのベースがお腹に響いた。立っている場所が、揺れた気がした。

最後に、ショウタの歌声がフロア中を包み込む。


遥は、降り注ぐ音のシャワーを浴びながら、舞台袖から、そっとステージを見つめていた。


(……ああ、こうやって勝つんだ)


そう思ってしまったことが、少し怖かった。




LUMINOUSルミナスは出番を次に控え、完成されすぎた音を背中に浴びながら楽屋に戻った。


「先輩たちの音どうだった?」


完璧に整えた髪とメイクでギターの最終確認をしながら、瞬が遥に聞いてきた。


「ステージに立った瞬間、空気が変わった」


隙がなくて、でも目が離せなかった。


「やっぱり人気があるバンドは違うよな。経験値も多いもんな」


「俺は、も、もっと空気を変えてやるよ!」


しどろもどろしながら晃が息巻く。腰の鎖をいじる手は止まらない。

哲央は、時折、晃の腰の鎖をいじる動きを見ながら、何度もすーはーと息を吸ったり、吐いたりを繰り返していた。


(ユキくんは……)


遥はユキが気になって、そっと目だけを動かし視界に捉えた。

白いギターを丁寧に拭き終えたユキは、顔を上げたところで遥と目があった。


心の中を見られた気がして遥は、思わず自分の手をぎゅっと握る。


ユキは、遥を見つめたまま口を開いた。


「あと少しでLUMINOUSの番だね」


「うん……ユキくんは緊張してる?」


「少し、ね。でも楽しみの方が勝ってるよ」


ユキの瞳の奥には煌めきが覗いている。遥は、その煌めきを自分にも灯したいと思いながら、本音を漏らした。


「私、緊張……してる」


わずかに震える指先をユキの前に出した。


「私の音、出せるかな?」


「自分のやりたかった気持ち、信じて」


遥の震える指先を、ユキの手が優しく包む。

その手は、遥の指先より冷たかった。


(本当にユキくんも……)



壁の向こうから、わずかに聞こえていた音が消えた。


遥は指先を包まれたまま、ユキを見上げた。


「ステージに行こうか。俺たちの番だ」


ユキは遥の指先をぎゅっと握ってから、そっと離した。



熱を帯びたMIDNIGHT PARADEと入れ替わり、遥たちLUMINOUSはステージに立った。

遥はベースをアンプに繋ぎ、冷たい指先で弦に触れた。低い音がわずかに響く。

斜め後ろの哲央は、軽くドラムを鳴らし音の確認をした。


全員が頷きユキが合図すると、SEが止んだ。

フロアのライトが落ち、黄色いライトが遥たちを照らした。


(眩しい……)


目を閉じ開けた刹那、幕は開いていた。

MIDNIGHT PARADEで温まったはずの熱はすでに冷め、閑散とした風景が広がる。

わずかに二、三人がフロア中央に立っている。

唯一、みこが最前で手を振ってくれていた。


(ああ、思った通り……)


ゴクリと唾を飲み込んで、1曲目『息吹』が始まった。

……入る。

そう思った瞬間、哲央のカウントより、指が一拍遅れた。

低い音が、わずかに遅れて鳴る。


(あっ……)


頭にあるのは、とにかく曲を弾き切ること。

憧れの場所で、赤に黄色に変わるライトを浴びながら、遥はただ前を見て一心不乱に演奏をした。


一曲目が終わった。


「る、LUMINOUSです。お、俺たち今日が初めてのライブで……」


誰も反応しない。いつもは言葉の荒い晃が丁寧語になっている。

みこすら、晃と遥の顔を交互に見つめて、少し困った顔をしていた。


「次いきます!」


誰も助け船を出せないまま、次の曲に進んだ。

景色は変わらない。後方で屯す別のバンドの冷ややかな視線が痛い。

時折、互いに耳元で何か話しているのが、すかすかなステージ上からよく見えた。


(私のこと、話してるのかな……)


ライトが熱かったけれど、背筋は冷たい気がした。


(……女がいるって)


それでも弾き続けた。止めるわけにはいかなかった。

もうステージの上だから。


4曲目が終わって2回目のMC。


「えっと、えっと、最後の曲は……」


晃は、言葉が出ないまま、ちらちらと左右の後ろを見た。

遥の右隣りに立つ瞬がマイクに近づくより早く、上手にいたユキが凛と前を見つめて、優しい口調で話し始めた。


「最後の曲は、Luna Dive(ルナダイブ)という曲です。偶然、今日のイベント名と重なりました。……俺たちは、そこに飛び込むのか落ちるのか……、どうぞ、聴いてください」


ユキのギターからLuna Diveが始まった。

そこに瞬のギターと遥のベースが彩りを添え、哲央のドラムが支える。


みこと、フロア中央にいた数人が、曲に合わせて体を揺らしてくれた。


(あの人たち、何かを感じてくれたのかな


晃は上ずりながらも、歌い切った。


歌い切った瞬間、晃は一人で早々に楽屋に戻っていった。

残った4人は、並んでお辞儀をした。

フロアに、まばらな拍手が響く。


「ありがとうございました。LUMINOUSでした」


瞬がフロアをゆっくりと見渡していた。

そして、幕は閉じた。


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