21.Luna Diveの夜2 出会い
◆Luna Diveの夜2 出会い◆
ダッダッダ!
スネアの音がフロアを叩いた瞬間、空気が変わった。
FROST RAINのリハーサルがスタートした。
ステージもフロアも一気に活気づく。
ドラム、ベース、ギター、ボーカルと、メンバー全員が短い時間で手際よく、サウンドチェックを行っていく。
その様子を、遥たちLUMINOUSとCANVASLAYは、フロアから見学させてもらった。
全員が少しでも先輩たちから学ぼうと真剣な眼差しでステージを見つめる。
Glass Crowは、自分たちのリハーサルの準備を始めていた。
(先輩たち、ちゃんと一音で違いがわかってる。さすがだ!)
遥は、持ってきていたメモ帳に素早くメモを取った。
(ベースの時は……、なるほど! 言葉で聞いていたことが、音になるとわかる)
フロストレインが終わるとGlass Crow、CANVASLAYとリハーサルが進み、ついにLUMINOUSの番になった。
遥はついにステージに立った。まだお客さんはいないし、照明も落ちたまま。それでもフロアから見上げていた場所だ。
本当はゆっくりとこの場所を味わいたかったが、リハーサルはすぐさま始まった。
立ち位置と順番に音を合わせ、短く曲を演奏して中音のチェック。
遥は、指示されるがままに音を出して、自分ではいいのかわからないままリハーサルは終了した。
(ふー、リハーサル緊張した……)
一旦楽器を片付けて、楽屋の隅で一息ついた。もうすぐ本番がついに始まる。ゴクッとペットボトルの水を飲んで、緊張でカラカラになっていた喉を潤す。だけど、緊張は消えない。
ペットボトルの蓋を閉めて顔を上げると、目の前に笑顔の茶髪の男の子が遥の顔を覗き込んできた。その後ろには、紫髪の人が立っていた。
「リハーサルお疲れ様!」
弾ける笑顔なのに羽が舞うようなふんわりとした表情は、なぜだか警戒心を抱かせない。
「リハ見たよ。ベースなんだね! 僕もベースなんだ」
「あ、うん。私ベースなの。えっと……」
「うふふ、名乗ってなかったや。僕、キャンバスレイの天野陣」
陣は、後ろを振り返って紫髪の人を自分の横に引っ張った。
「こっちは紫門ちゃん」
陣は目を細めて笑った。紫門は優しい表情で陣を見つめ、遥にもその表情のままあいさつした。
「ギターの紫門です。よろしくね。さっき目があったよね」
「はい。あまりに綺麗で見つめちゃって……。私、ルミナスの国東遥です! よろしくお願いします!」
「うん、紫門ちゃん綺麗だもんね!」
陣はまるで自分のことのように嬉しそうに紫門を見て微笑む。
紫門は紫の髪を指先にいじりながら、はにかんだ。
「はるちゃん! お互い初ライブ、楽しもうね!」
陣はまた目を細めて笑い、両手でピースを作ってみせた。
(は、はるちゃん――?)
「うん、私も楽しみたい」
遥も陣と紫門に笑顔でピースを向けた。
(あれ? 私、笑って、る?)
いきなりはるちゃんと呼ばれたのも嫌な気はしなかった。
「ありがとう、陣くん、紫門ちゃん」
「また後で話そうね」
陣と紫門は、笑顔で手を振ると自分たちの仲間の元へ戻っていった。
遥もユキたちと合流し、衣装に着替えた。
いよいよイベントLuna Diveが始まる。
LUMINOUSは、月に飛び込む。
――遥は、そう信じている。
◆Luna Diveの夜3 写真◆
震える指先で、遥は唇に黒いリップを伸ばした。
楽屋の鏡の中に、LUMINOUSの遥が映る。
(あと少しで、始まる)
ステージから響くMIDNIGHT PARADEのリハーサル音が、楽屋の壁をわずかに揺らして、遥の鳴りやまない鼓動を隠してくれた。
(私、ここにいて、大丈夫だよね……)
見上げた鏡越しに、ギターをいじるユキが見えた。いつもより指の動きが、どこか落ち着かない。
ピックを何度も持ち替えている。
「ちょっと、俺、緊張して、きた……」
晃はメイクが終わってから、ひたすら腰に付いたチェーンをいじっている。
チェーンを指に巻き付けた。金属同士がチャリッと、小さく鳴る。
「……晃、音」
動かないまま、哲央が低く言った。
「あ、わりい」
晃は笑って手を離したが、すぐにまた、無意識に指が動き出す。
遥は視線を落とした。
金属の冷たさが、なぜか自分の指先にも伝わってくる気がした。
「まあ、気持ちはわかるけど」
瞬は長い黒髪を整え終わると、鞄からカメラを取り出した。
「記念に一枚撮らない? ライブ前の方がメイク崩れてないし」
「あ、みんなで撮りたい!」
遥は、珍しく積極的に声を出した。
その声につられてLUMINOUSが楽屋の隅に集まった。
「僕が撮りますよ~!」
反対側で準備をしていた陣が、ふわりと割り込んできた。
「あ、CANVASLAYの。ありがとうございます」
瞬はカメラを陣に渡した。
「お互い様だよ」
(陣くん、すごい。すっと入ってくる)
陣はカメラを受け取ると、興味深げに瞬の衣装を見つめた。
「わぁ! 安全ピンの十字架、おしゃれ!」
「ありがとう」
瞬は嬉しそうにネクタイに付いた安全ピンの十字架を触った。
「これ、頑張って作ったんだ」
「わかる! あ、写真撮るね!」
陣はカメラを構える。
晃と遥を前に、その後ろにユキ、哲央、瞬が並んだ。
「撮るよー!」
――カシャッ。
フラッシュが白く弾けて、五人の影が壁に焼きついた。
遥は憧れの場所に、もう少しで立てることに胸が高鳴った。
――それでも指先は、まだ冷たい。
MIDNIGHT PARADEのリハーサルが終わり、ライブは開場した。
フロアからファンの声が聞こえてくる。
派手な衣装と明るいメイクで決めたMIDNIGHT PARADEが円陣を組んだ。
「おっし! Luna Diveのイベント、トッパー」
メンバー同士、肩を組む。
「俺たちの力、見せつけてやろうぜ!」
「いくぞー!」
ボーカルの掛け声に合わせて、全員が叫ぶ。
「おーー!!」
MIDNIGHT PARADEはステージに消えていった。
遥たちは、舞台袖からステージを覗いた。
照明が落ち、フロアの声が床を震わせる。
足元に伝わる振動。
(……始まる!)




