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縁談3

蒼は、戻って早々皆に弾丸のような質問責めにあった。

どうやら那海のことが気になって仕方がないらしい。

どこまで言ってもいいものかと思ったが、どうせ神との婚姻となると皆に知れるので、蒼は素直に言った。

「吉賀が娶ってくれるみたいで。あちらでは素直に話を聞いていて、学んでいるみたいなんで、この際任せようかと。」

炎嘉が、目を丸くした。

「あの宮に押し付けるのか?主がそんなこと…さては誰かに入れ知恵されて、吉賀に頼んだのか?」

蒼が誰かに面倒を押し付けようとしないと信じているらしい。

蒼は、首を振った。

「いえ、押し付けるんならオレだってそんなことを決めたりしないんですけど、那海が吉賀がいいって言うし、吉賀も娶りたいと言ってくれたし。嘘がないのは気を見て分かってますし、だから決めて来たんです。面倒になったらいつでも帰していいからと。」

志心が、まだ納得がいっていないらしい炎嘉に言った。

「まあ、本人が良いと申すなら良いではないか。あちらも蒼が支援したら妹も嫁げるしの。ここは良かったということで。」

言われてみたらそうなのだが。

炎嘉は思ったが、黙っていた。

維心が言う。

「維月が那海と文通しておるが、確かにあれは学んでおるし、素直に言うことを聞いておるようよ。維月が書いて送る妃の心得なども学んでおるようで、段々に女神らしゅうなっておるそうな。我も毎回文を見るが、手も優れておる。面倒というよりはむしろ段々に艶も出て来て、幼さが抜けて来ておるのだ。考えが深くなって来ておるのではないかの。」

炎嘉は、それを聞いて維心を睨んだ。

「なんぞ、やはり主は維月を使って探っておるのではないか。知っておるなら申せ。吉賀は目を掛けておる王であるし、我も面倒を押し付けられると思うたら良い気はせぬのよ。」

世話好きな炎嘉は、下位の宮々の王達も気に掛けて、困っていたら助けようとしているのは知っている。

なのであの辺りの王も、軒並み炎嘉には相談しやすいようで、何かあったら炎嘉に問い合わせて来るらしい。

だが、炎嘉が何も知らないということは、今回、吉賀は炎嘉に助けを求めてはいないということで、やはり那海の事を、疎ましくは思っていないのだろう。

維心は、言った。

「主があれらを案じているのは分かる。だが、此度はどうやらどちらにとっても良い縁で、なんとかなりそうではないか。しばらく様子を見守ろうぞ。天黎だとて、己が連れてきた命のことであるから、見ておるのだろうし、那海はあのように力の小さな命。我らでも最悪なんとか出来ようぞ。」

炎嘉は頷いて、もうそれ以上何も言わなかった。

なので蒼は、話題を変えようと、言った。

「あの、来月の花見のことなんですけど。」

それには、維心がスッと眉を寄せる。

さっきその話で面倒だったからだ。

だが、蒼は知らないのだから仕方がない。

蒼は、続けた。

「今回は、上位の皆様も呼ぼうかと思っていて。というのも、天黎様がいちいち出掛けて行くのが面倒なので、この際まとめて会っておきたいって言うんですよ。それで、ご予定はどうかなと思って。」

それには、志心が言った。

「その事なのだがの、蒼よ。我らも行けるものなら行きたいのだが、我らがまとめて居る席で、何かあったらとさっき話しておったところなのだ。」

蒼は、目を丸くした。

「え、オレまだ皆様に連絡してませんでしたよね。」

維心が言った。

「焔が行きたいとか言い出して、蒼に聞けと言うておったところであったのだ。そうしたら、皆が皆行くと言い出しおって、また面倒があったらまずいので、そちらの天黎達が落ち着くまで待つということになったのだ。だが、主がそう言うということは、あやつらは問題ないのか?」

蒼は、頷いた。

「そうですね。問題の天媛様は高瑞と穏やかに過ごしていますし、最近ではおっとりと穏やかな気で。一番の懸念だった那海様も、吉賀のお陰で落ち着いて学び始めましたし。元々天黎様と海青様は、全く問題ない方々なので、今は何もありませんよ。落ち着いたといえば、今が一番落ち着いた感じです。」

上位の王達は、顔を見合わせた。

ならば、行くべきなのだろうか。

そもそも、出現してこのかた、維心から話を聞くばかりでどんな命なのか全く想像もつかないのだ。

一度どんなものか会っておきたいのが、本音だった。

「…ならば行こうぞ。」炎嘉が、答えた。「いきなり押し掛けられても困るばかりであるしな。皆とまとめて会うなら敷居も高くないし、願ったりよ。だが焔、子供は連れて来ぬ方が良いぞ。ない、とは思うが、何があるか分からぬからの。」

それには、焔も渋々頷いた。

「分かっておるわ。我が行くのにとうるそう言われそうだが、しようがない。あれはまた育ってからにする。」

志心が、頷いた。

「では、我も。時を空けようぞ。蒼、任せるゆえまた日程を知らせて参れ。」

蒼は、頷いた。

「はい。では、炎嘉様、志心様、焔様はご出席で。駿と翠明は?高湊はどうする?」

三人は顔を見合わせた。

「…我らも行くしかあるまいな。参る。」

駿が答える。

炎嘉が言った。

「ならば箔炎も来いと伝えておくわ。あれも椿が出産だとかで来ておらぬが、来月なら落ち着いておろうし。」

維心は、そういえば、と炎嘉を見た。

「そうか生まれたか。どちらであったのだ。」

炎嘉は、答えた。

「皇女。名は(あやめ)。ゆえに公表されておらぬのよ。皇子なら大騒ぎであったろうがの。」

皇子なら跡取りなので、顔見世やら何やらで大騒ぎになるからだ。

蒼が、焦って言った。

「知りませんでした。祝いを送らなきゃならないのに。」

炎嘉は、笑って手を振った。

「ああよいよい。一年もしたら公表されるゆえ、その時での。最近ではどこも皇女でも皇子でも早いが、昔は皇女なら一年は公表されなんだものよ。生まれた傍からもう政略のために婚姻だのと話が来たからの。箔炎は昔の考えが抜けぬから、恐らく聞かねば言わぬわ。」

そうなのか。

蒼は、驚いた。言われてみたら、昔からの記憶を持つ王達は、皇女誕生を公表するのが遅かった気がする。

維心は、維月が産んだらどっちでもすぐ公表するが、昔はそんな理由で皇女は公表が遅かったのだ。

「…知りませんでした。こんなに長い間神世に居るのに、未だに知らない事があるんですね。」

維心は、言った。

「昔の考えなど今は適用されぬわ。各宮の王が好きな時に公表するので良いのだ。炎嘉が知っておる時点で、こうやって皆に知られる事になるのだしな。ま、そういう事で箔炎が皆に公表した時点で正式に祝いを遣わせたら良いぞ。主も、那海の輿入れの準備を進めねばならぬから面倒であろう。他神の祝い事は後で良いわ。」

蒼は、苦笑した。

「まあ、ですけど式はしなくて良いと言いましたし、こっちから婚姻の荷を送るだけで済ませようと思っています。あんまり大きくやると、あちらも結納とかしなきゃならなくて大変でしょう。別にオレは、結納とか要らないし。そもそも那海様は、うちの身内ってわけじゃないんですからね。」

焔が、難しい顔をした。

「主も大変だの。いきなりあんな大きな力の命が現れて、身内だと言われるのだからの。誠によう考えたら主らの身内ではないからな。それでも、事情を知らぬ外から見たら、全て主らと同じ眷属と言われるわけであるし。」

蒼は、また困ったように笑った。

「でも、まあ同じ眷属と言われたらそうなので。天黎様が碧黎様の親なんだし、そこから、十六夜、オレなんで。ただ、海青様と那海様は天黎様の友ってだけで、そういう繋がりはないんですけど、外から見たら同じなんでしょう。」

維心は、心ならずもそういう命達と近しい関係になってしまっている自分に、大概疲れていた。

とはいえ、維月以外を娶るなど考えられないし、維月を妃から下す事も考えられない。

なので、それらと否応なしに付き合っていくことを覚悟して、蒼が話しているのを見ていた。

維月を望む限り、着いて回る試練だと言うのなら、それは受けねばならないのだ。

炎嘉が、維心を突いた。

「主も。地上の王というだけでも大概面倒なのに、維月を娶っておるから月の眷族と嫌でも近くて大変だの。我では無理だったわ。ゆえ、主が維月を妃としておるのも道理なのだろうの。」

維心は、言われて炎嘉を見て、頷いた。

「我だって、維月でなければとっくに放り出しておったところ。面倒は抱え込みとうないからの。だが、これも試練ぞ。何年あれらがこの地上に居るのか知らぬが、まあ上手くやる。」

何しろ気の長い種族だからなあ。

蒼は、それを聞いて思っていた。

天黎達があちらへ帰ろうと言い出した時、いったいここに居る何人の神が生きて地上に居るのだろうと、蒼は思いながら皆を眺めていた。

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