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縁談2

蒼は、吉賀と自分の控えの間へと座っていた。

吉賀は、こうして見ると美しい顔立ちで、色合いが海青によく似ていて確かに那海も、親しみが持てそうな様だった。

蒼は、先に労って、そこから那海をどう思っているのか探って行こうと思い、口を開いた。

「吉賀、文ばかりですまないな。那海をよう世話してくれておるようで、助かっているのだ。こちらでは、なかなかに学ぶ気にもなれぬようで、困っておったのだ。そうしたら、佐夜子が連れて帰ってくれて、そちらでいろいろ教えてくれておるようで。月の宮では、あれも甘えておったのか、皆の言う事を素直に聞かぬでなあ。」

吉賀は、驚いた顔をして、蒼を見た。

「那海殿が?誠にこちらでは素直に我らの言葉に耳を傾けてくれておって、宮でも臣下達にまで書を教えてくれていて、助かっておるのですよ。我らを困らせるような事はありませぬ。」

蒼は、那海は案外うまくやっているのだとそれで思った。吉賀の言葉には、嘘はない。建前でもないのは、気を読めば蒼には難なく分かった。

なので、少し突っ込んだ事を言ってみよう、と思った。

「その…オレに遠慮は要らぬから、本当のところを教えてくれぬか。もし、主があれを面倒だと感じておるのなら、もうそろそろこちらへ迎え取っても良いかと思うておるのだ。心底どう思っているのか知りたいと、わざわざここへ呼んだのだからの。」

吉賀は、蒼がどう思っているのか分からなかったが、蒼は嘘のない王だ。

本当に吉賀が迷惑していないか気にしているように感じた。

なので、言った。

「…本当のところ、最初は困った事になったと思い申した。ご存知の通り我らの宮は、とても小さく他からの支援で成り立っておる宮。高貴なお方を迎えるような宮ではないので。ですが、那海殿と接しておるうちに、大変に素直で気立ての良い神だと思うたのです。臣下達も慕っておるし、我としてはまだお世話しておりたい心地でありまする。」

蒼は、じっと吉賀の本音を探ろうとその気を読んでいたが、吉賀が何の忖度もなく話しているのを知った。

吉賀がそういうつもりなら、と、蒼は思いきって言った。

「ならば、終生世話をしてくれまいか。」吉賀が驚いた顔をすると、蒼は乱暴な話だろうなと思いながら、続けた。「主は知らぬだろうな、那海は、主に嫁ぎたいとオレに言って来ておるのだ。主に頼んで欲しいと。こちらでは扱いに困っていたし、主はあれをうまく教育してくれている。それなら、任せてもと思っていて。もちろん、任せるのだからこちらから支援は送る。だが、あれの扱いづらさは分かっているので無理にとは思っていない。もし主が良ければ、の話なのだが。」

蒼は、吉賀が断れるように、言葉を選んで言った。

吉賀は、仰天していた…最上位の宮から、我の宮へ嫁がせると言うのか。

「…そんな…我で良いのですか。我が宮は大変に小さく、贅沢も出来ぬのに。」

蒼は、ずいと吉賀に身を乗り出して寄り、頷いた。

「主しか居らぬ。面倒なら返してくれて良いし、出来るところまでで良いのよ。乱暴な話ではあるが、主に娶ってもらいたいのだ。結納なども要らぬし、荷はこちらで準備するゆえ。どうか?」

吉賀は、そこまで言われるほど、那海は疎まれているのかと哀れになった。

那海は、確かに物を知らないが、それでも毎日覚えようと努めていた。月の宮では意地になって学んでいなかったのかも知れないが、 こちらでは違う。

本当の那海を知っているのは、きっとこちらの宮のもの達だけなのだ。

なので、頷いた。

「我で良ければ、那海殿を終生お世話致しまする。それで本当に、那海殿が良いとおっしゃるのなら、我にとっても夢のような縁でありますので。那海殿は美しく、気立ても良い女神。何の異存もございませぬ。」

蒼は、吉賀の心の真実を感じて、ホッと息をついた。

ならば、任せられる。

「ならば、ここで取り決めた。那海を主に嫁がせる。式などは良い、仰々しくなるゆえな。誠に助かるものよ。感謝する、吉賀。だが、何かあったら返してくれたら良いから。構える事はないゆえに。」

吉賀は、蒼に頭を下げた。

那海を、面倒だと思われている、月の宮へ帰したくない。

那海には、毎日笑って心安く過ごしてもらいたい…終生、我が世話をする。

そうして、那海は吉賀のもとへと嫁ぐ事が決まったのだった。


吉賀は、蒼と共に宴の席へと入ったが、最上位の蒼は上座に向かい、そこで別れた。

下位の王達が集う場所へといつものように向かうと、清、斉、佐久が既に座って待っていた。

そして、吉賀がそこへ座ると、開口一番清が言った。

「何事よ?蒼殿は何を主に?」

吉賀は、言っていいものかと一瞬悩んだが、どうせ知れる事だからと、言った。

「…あの、預かりものの女神ぞ。大変に美しく気立ての良い女神なので、我は懸想でもしたら大変だと気を付けておったのだが、蒼殿がの…その女神が、我に嫁いでも良いと言うてくれておるようで。夢のような話で、我としても驚く限りだが、受ける事にした。」

三人は、仰天した顔をした。

最上位の宮から、妃を娶る?!

「え…主、受けたのか?!」

清が言う。

斉は、頷いて言った。

「だが、願ってもないことではないか。これで佐夜子の稼ぎに頼らずとも良いし、あれは嫁げるようになろう。」

そうなのだ。

こちらの三人も佐夜子を娶りたいとは言うものの、吉賀の宮の現状を知っているので強くは言えなかった。

だが、これで正式に申し入れも出来るのだ。

「ならば、良い縁よ。」清が言った。「佳織には、諦めよと申す。そもそもそんな女神なら正妃扱いであろうし、比べられてはあれもたまらぬだろう。諦めるだろうしな。」

吉賀は、答えた。

「実は佐夜子の文字とて、那海殿が指南して格段にようなったのだ。誠に優れた女神でな。」

佐久が、言った。

「那海殿と申すか、その女神は。確かに最上位の縁者なら手も優れておろうな。見てみたいもの。」

言われて、ふと、吉賀は懐に手を入れた。

「そう言えば…」と、質の良い和紙を引き出した。「ここへ来る前にもらった文ぞ。最近では月の宮から和紙が山ほど送られて来ておるから、書き放題でよう文をくれるのだ。」

三人は、我先にとそれを開いて覗き込んだ。

そこには、こんなものがあるのかと言うほど美しく、しかし気取りのない文字で、恋歌が書き付けてあった。

「…なんと美しい。」斉が、食い入るようにそれを見つめながら言った。「この世にこのようなものがあったとは。それにこれは、恋歌ではないか。一見主の旅路の無事を祈る風だが、帰りを待っておるような。」

佐久も、興奮気味に頷く。

「こんなものをもらったら我ならそもそも会合にも来ぬわ。側を離れる気にならぬ。」

吉賀は、苦笑した。

「だから他意はないと思うぞ。最近では、恋歌の事を習っておって、このような歌ではどうかとよう我に見せに参るので、その一つだろう。指南なのだ、これは。」

とはいえ、吉賀もこれを見た時には心が騒いだものだった。

清は、ホッと熱を冷ますように息をついた。

「こんな女神が側に居るなら佳織など興味も湧かぬはずよ。そうか、仕方ない。ならば、佐夜子を我に嫁がせぬか。佳織は諦めるゆえ。」

それには、佐久が憤慨した顔をした。

「こら、それはそれ、これはこれぞ!」

吉賀は、文をまた懐にしまいながら言った。

「だから佐夜子次第ぞ。あれが嫁ぐという所へ行かせる。我には決められぬわ。」

そうして、何やらまだぎゃあぎゃあと言い合う三人を後目に、吉賀はため息をつきながら酒を口にしたのだった。

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