6-16 森の入り口にて
誤字脱字とかの修正をしました。
ジュライさんは、独特な低い声で皆に命じた。
「昼飯はそろそろ終わりとしよう。片付けるぞ」
手に持つ串の肉片を、その綺麗に並んだ白くて平らな歯でがぶりと齧って抜き取った。そして棒だけになった串を無造作にポンと投げ入れ、カランと筒が鳴る。
彼女は、草原魔野雉の腿肉を串に刺して焼いたのを食べていた。草原魔野雉は、でかくした雉のような生き物。魔鳥類になる。
もちろんこれも魔動物だけど、これの肉は魔素含有量が少ないので、人間でも普通に食べることができるそうだ。見た目、普通の焼き鳥。たぶん味も、そんな感じだろう。以前にミランダさんがカーク用に出していた草原魔野雉のソテーを食べたことがある。
こちらが良く知っている普通の動物。それはここにも少ないながらもいる。でもこの辺りの普通の動物は、比較的小型な生き物が多い。
特にこの近辺は環境魔素量が多い。なので普通の動物の割合よりも魔動物の割合の方がとても高い。この場所は、魔動物にとっては住みやすいけど、普通の動物である人間には住みにくい場所だろうね。
この深くて綺麗な水を湛えた泉がある白くてただ広い岩盤。この岩に伝ってその少し町の方角へと戻ったところに、森の入り口への道がある。そう。あの南サガラへと通じる道。
これから、あの森の入口の近くまで行くとのこと。だけど、今回はその森の奥へは入らない。信頼はしている。だけど命令の意を酌むのに不慣れな従魔候補の野外訓練をするには、危険性が高いんだそうだ。
魔獣馬とその馬車は一旦町に戻って、またここに来るという。あの走魔牛の肉塊だけでも、馬車内の保存庫が満杯で保管場所が逼迫している。それにその走魔牛の肉塊と鏃の精密検査が必要。
そのためだろう。ジュライさんはこちら側が後片付けをしている間に薄手の紙のようなものを取り出して手紙を認めていた。
彼女は、その手紙を書き終えると、革に似た丈夫そうな袋に入れた。そして蝋のようなものを熾火にかざして溶かし落とし、印を押して封をする。
「ノーマ。いるか?」
すると、どこからともなく、シャム猫頭のノーマ氏がジュライさんの傍らに傅くように、するりと現れた。
『は。ここに』
あれ。ノーマ氏は、さっきまで、魔獣馬の世話をしていなかった? どうやって来たんだろ。
「これを従魔施設院の検査部に渡して欲しい」
『御意』
ノーマ氏は、静かに丁寧な礼をする。そしてジュライさんから渡された手紙の革袋を恭しく受け取った。
こうして御者を担当するノーマ氏に、手紙を託した。
さらにジュライさんは、彼女の従魔フェリスアン属種のギトラン氏にノーマ氏を護衛することを命じた。
このギトラン氏は大型猫科の虎のような頭部を持ち、頑丈そうながっしりとして太い毛深い虎模様の手足をしている。頼もしい容姿。正しく護衛に持って来い。
同じくノーマ氏もジュライさんの従魔でフェリスアン属種だけど、家猫のシャム猫のような頭部で総じて線が細い。そして彼は、腰にレイピアのような細い剣を鞘に納めたものを携えている。
これでは、少なくとも見た目は、とてもじゃないけど実戦向きではない。
だけどその剣の柄から、僅かに魔素流の動きが感じられる。何か魔法的な付加がかかってるようだ。
ギトラン氏は、あの走魔牛の肉塊から、あの黒い鏃を見つけた従魔だ。ジュライさんは、走魔牛について施設院の誰かに何か質問された時、説明することができると判断したのだろう。
変換魔道具である銀の粒。もちろんフェリスアン属種を含む森林魔猫科用も施設には普通にある。だから従魔施設院にいる、ジュライさんではない他の人間の職員も、彼らの言葉を人語に変換して聞くことが可能だ。
正式の従魔は、今回の場合のように、命令の種類によっては、従魔たちだけでも行動をすることが可能。
従魔候補とは異なり、正式の従魔は信頼のされ方がまるで違う。
そして、昼飯前までに集めた食料をたんまりと詰めた魔獣馬の馬車は、町の方へと出発していった。
「さて。私たちも出発するか」
ジュライさんのその言葉を合図に、岩盤伝いに森の入口の傍まで歩いて行く。
森の入口はすぐそこにある。覗けば鬱蒼とした木々の狭間で、ところどころに草が生え苔むした石畳の道が垣間見ることができる。
だけど、注目をしても、暗くて物理的にも木々に阻まれているので、その道の先は見ることができない。そしてその場所は、なんか怖そうな雰囲気を醸し出していた。
幸いなことに、今回はそこよりも開けた手前側で森の恵みを採取する。今度は、みんなで主に魔植物の採取。ここでしか採取できないものも多いんだって。食用にはもちろん、薬用にもなるものがあるとのこと。
そうはいっても、猫科頭の森林魔猫科、フェリスアン属種のゴトラン氏たちは、森の中の魔動物の動きに敏感に反応する。そして、それらを瞬時に狩り獲っていく。森の周辺では魔動物も小型なものが多い。
栗鼠耳アルマジロのエンタ先輩も元気。解体処理の時、特殊能力を使いすぎて丸まっていたのが嘘のようだ。さっきたくさんの肉を食べたからかも。
魔アルマジロ科は草原で小型から中型の魔動物を狩るのが得意。それに加えて、森の中で木に登るのもそれなりに得意。その木に登る動作を見ると、アルマジロというよりかは、栗鼠のそれに近い。
『うあー。やっちまった』
だけど、それほど上手ということでもない。時々踏み外して落ちてしまう。そして丸まって地面に落ちる。そしてそれこそボールのようにバウンドしていた。その先があまりにもフカフカの腐葉土の上だったので、彼自身の重みで、スコッとその中へと入ってしまう。
そこへ、何やら小さな実がポタポタと落ちる。そして、その赤黒くて小さな実を、たんまりとその小さな手に持ち、得意げに掲げる。
『どうだ、凄いだろ。ラケルタ。魔山桃というものだ。甘酸っぱくてとても旨いんだぞ!』
エッヘンとばかりに胸をそらして、屈託なくこちらに笑いかける。そして魔山桃のいくつかをこちらにくれた。
これは何ていったらいいのかな。小さくて、ころっとしている、つぶつぶの突起がある丸い実。基本的な見た目は山桃そのものといってもいい。そして、山桃と違うところは、そのつぶつぶの突起の先にある細くて白い毛の様なもの。それがかなり長い。これが長すぎて渦を巻いている。
その白くて長い毛の渦が気になる。
だけど、エンタ先輩が、早くそのまま食えと言ってうるさい。
何かわからないけど、言われるままに魔山桃を口に含んだ。
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