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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第6章 草原と森の入り口
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6-15 野外での昼食

サブタイトル修正(番号抜け……やっちゃった)

 ジジジ。ジュー。 


 ポトリ。


 ボッ。


 目の前には、長い串に刺した肉が見える。


 その串は、丈夫な金属のようなものでできている。


 その串に刺した肉から吹き出た油が玉のようにできては、れ落ちる。その落下した油に赤い火がともっては、燃えていく。そして、この辺りに白い煙がもくもくと漂う。それと共に、得も言われぬふくよかな香りが匂い立つ。


 んー。いい香り。これはたまらないね。


 真っ白でたいら岩盤がんばん。そのかたわらに、その白くてでかい岩をごそりとえぐったのような形の泉がある。その泉には満々と清らかな水がたたえられている。


 この平らな岩盤上に、周辺に転がっている石を積み囲って作った、簡易なかまどのようなものを設置。その囲いの中に、乾いた木の枝や枯れ草を入れ、火をともした。


 徐々に太い木の枝をたきぎとしてべていく。勢いが付く火。その火の最盛期には、赤と黄色の炎が天をも突くかのようにうねる。これには煌々(こうこう)とした華やかな明るさと外へと弾けて跳ね出る勢いがあった。


 だけど今や、その華やいだ勢いは見る影もない。時折、ちろりと赤い舌を出す、白と黒色のまだらとなった熾火おきび


 そう。肉を焼くには、この状態が丁度良い。


 じんわりと奥まで、熱が伝わっていく。勢いがある火であぶると、表面だけが変に焦げて、真っ黒な炭となる。


 ジュライさんの説明を聞きながら、皆で肉を焼く作業をする。


 それとこの火は、乾いたもぐさのようなものを火口ほくちに、金属の板のようなものを石で打ち付け火花を散らして点した。火の魔法はもちろん、魔道具も使わない。この物理的な原理の火起こしの道具でも、火口を工夫すれば普通に火が点る。


 というか、この野外訓練は、そういう趣旨の訓練のようだ。


 ニサンの町は、採掘をした魔鉱石で町全体が潤っている。そして、他の場所では考えられないほどの安価な魔鉱石が町の住民限定で販売をしている。


 さらに、魔道具開発が活発なナーガラ帝国の国境線と隣接をしている。その帝国はニサンの町があるドイ王国の宗主国でもある。それで、何の障害もなく、便利なナーガラ帝国製の魔道具が、ニサンの町にいろいろと入って来る。


 そう。ニサンの町は、ある意味、高度な文明化をしているのかもしれない。


 他所では、そういう訳にはいかない。特に外の街道にでて、他の場所へと移動をする時には。


 魔道具は、魔素流を発生させる魔鉱石がなければ、ただの道具となる。そして、人間の魔法使い。その使い手の数は少ない。その使い手がはなつ魔法には、使用限界というものがある。


 魔動物の特殊能力も、その根本は同じ。限界まで能力を使って、走魔牛そうまうしの解体をしてみせたエンタ先輩の状態を見れば解る。魔動物の能力を限界を超えて使うと、全くといっていいほどに、動けなくなる。


 安全な町の中や、強い者たちに守られた訓練の中なら、それでもいい。だけど、実戦だったらどうなる? そのまま殺されてしまう可能性がある。魔力は温存して置くに越したことはない。


『おー。とても良い香りだな。俺は最初、何でこんな面倒くさいことをするのかと思っていた。だが、こうやって焼いて食うのも旨というのを知ってしまってな。今では、よほど旨いものでないかぎり、生の肉は食えなくなってしまった』


 ゴトラン氏は焼けてきた肉に濡れた黒い鼻を近づけてひくひくとひくつかせ、舌なめずりをした。そして豪快にかかかと笑う。


 今、彼はこちらの横で中腰になって肉をひっくり返し焼き加減を調べている。


『これでいいだろう。俺らの肉は焼けてきたぞ。ほれ、ラケルタ。これを食え』


 そう言って、でかい肉の塊が刺さった串をこちらにぐいと差し出す。


 ぶ厚い脂身の層に、焼き上がってもなお赤色が強い肉。これは、魔野猪まのじしあばら肉。骨付き。そう。スペアリブだね。魔野猪は、体内魔素含有量が多いといわれている魔動物。この肋肉のように骨の近い場所は、特に魔素含有量が多いんだとか。


 この魔野猪は、それなりの大きさがある魔動物。といっても、そうでかい生き物でもない。こちらが知っている普通の大きさの猪と同じか、それよりも少しでかいくらい。


 この魔野猪は、数頭狩っていたようだけど、その内の一頭は、パラ先輩とオルト先輩が誘導をして、エンタ先輩が仕留めていたのを見た。


 焼いた魔野猪の厚い脂身が、溶けた油があぶくのように吹き出して、ジュージューといっている。その落ちた油で火の勢いが戻ってこの肉の表面を焦がした。だけどそのいぶしたような匂いも含めて、とても旨そうだ。


 目の前の泉。大きなひとつの岩を穿うがったように、ぽっかりと開いている大きな穴。この穴の表面まで満たされた、透明で綺麗な水。泉の底が深くて水の色がとても青く見えている。


 泉のほとりの昼食会。


 そりゃあ、この昼飯はそんな優雅なものではない。


 だけど、これはこれで、乙なものだよ。


 野外で野趣に溢れた調理と食事。これはキャンプの一種だよね。


『ほれ、どうした? 言葉が解らんでも、これの意味することは判るだろ?』


 ゴトラン氏は肉を刺した串をこちらの目の前にかざして、ほれほれと言う。


 あ。そか。肝心なのを忘れてた。


『んー。お前は、魔爬虫類(マギア・レプティリア)のリザイア目リザドリスク科ミネティティ属の変種だったよな。ミネティティ属がどうかは知らんが、多くのリザドリアン属は、魔虫類マギア・インセクタリアを好んで食うからなあ。お前は、魔哺乳類(マギア・マンマーリア)の肉はダメなのか?』


 え。ええ。そんな。違うよ。この魔野猪肉すっごく好きだよ! 


 ゴトラン氏の手から、半ばかっぱらうような感じで、でかい肉塊の付いた串を受け取る。そして、あわててその肉片の端をかじる。


 う。あっちい。でも旨い!


 熱いので、ハフハフしながら、食べる。脂身が濃厚で甘くて旨い。でもこれには、あの深い旨味はほとんどない。


 少し冷めた頃合いを見て、肉の実質のところをガブリと齧り取って咀嚼そしゃくする。


 おお。これは、旨い。ほんとに。


 肉そのものの濃厚な旨味に加えて、この魔野猪が好むといわれる柑橘系の香りと共に、例の独特な深い旨味がした。この深い旨味は、魔素とその配糖体に似た担体が複合した味なんだとルークが言っていたと思う。


 ふう。うん。これはとてもいいね。


 昔、テレビの紹介番組とか見て、あこがれていたんだよ。こういうの。


 だけど、いままで機会がなかった。


 せいぜい、キャンプ気分を味わうバーベキュー会場で、小ぶりな肉と野菜の串焼きとかを食べたくらいじゃないかな。


 このように、でっかい骨付きの塊肉にかぶり付いてみたかったんだ。


 これは元の世界でも、あるんだろうね。


 だけど、こちらにとっては、はじめての体験なんだ。


 うん。今、とても幸せ。


まったり。だけど、ここは森の入り口なんだよね。

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