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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第6章 草原と森の入り口
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6-08 黒い津波

 ドドドド……。


 長い。


 そう。地の底から湧きでるような、くぐもった轟音。


 それと共に、まだ地面が揺れている。


 ここに来て、それなりの時が経つ。地震の体験は今回が初めて。


 いや、何。元の世界の地面は、それなりに結構揺れていた。なので、この程度の揺れは、そんなに怖いと感じていない。それでも安全のためにと揺れと共に地面に伏せていた。


 でも、流石にこれは、地震ではないと思う。


 立ち上がり、辺りを見渡してみる。


 あ。向こうで土煙が立っている。


 さらに、その場所をよく見てみる。


 牛?


 そこに見えるのは、黒い牛のような生き物の群れ。その群れの塊が、うなるような勢いで直線上を延々と走っている。


 いつの間にか、その牛に似た黒い生き物たちの怒涛のように押し寄せる黒い塊を見つめていた。その唸るような流れは、輝く生命いのちの波動そのもの。


 そう。それは、とても美しい。


 そして、その流れを、拡大視でつぶさに追う。


 突然、くらりと眩暈めまいがして、酔いそうになる。


 うー。余りにも見過ぎた。


 地響きと共に押し寄せる、めくるめくような唸る動きの牛に似た生き物の塊。


 そう。あれは美しい。だけど、あの量に圧倒される。そして、とても怖い。


 これはもう、黒い津波といっていい。


 幸い、あれが走っている場所は、それなりに遠い。そして、あれの進行方向は、こちらから平行となる。なので、あれがこちらに向かって来ないのは明らか。


 ほっと、胸をで下ろす。


 それなら、この地響きも怖くない。


 なので、魔鳩麦まはとむぎの採集作業を続けることにした。


 この魔鳩麦は、採れるだけ採って欲しいとジュライさんに言われている。


 彼女はこの班の野外訓練の指導をしている施設の人間の職員。魔動物召喚魔術師でもある。魔術師。特異体質の人間。


 彼女も、その魔術師だからこそ、この草原でも普段通りで何ともない。


 この草原はあの魔鉱石採掘場に近い。それで、他所よりもかなり空間魔素濃度が高くなっている。普通の人間は、この草原にそう長くいることができない。これは命に係わる訳ではないけれど、とても気分が悪くなるんだそうだ。


 おっと。魔鳩麦の収穫だよね。


 これはたくさん採れたら、よく干して粉にし保存をするそうな。良い香りがするので、香辛料としても重宝する人間用の食料だとのこと。


 殻を剥き胚芽を取り除いた魔鳩麦の胚乳部分を、持って来た頭陀袋ずだぶくろに取り合えず放り込む。そして、時々その魔素含有量が多いという胚芽部分を口に含む。


 うん。いいね。これは旨い!


 この胚芽は、食べなくても比較的すぐに溶けてなくなる。だから、気兼ねなく、食べることができる。そう。これは、とても良い役得だよ!


 なので、この魔鳩麦の採集は、こちらとしても、嬉しいし楽しい。


 だけど、ジュライさんが言うには、ほぼ全ての従魔や従魔候補が、この魔鳩麦の採集作業をとても嫌がるんだそうだ。そういえば、エンタ先輩も魔鳩麦そのものを嫌がっていたような気がする。


 ん?


 頭陀袋に、魔鳩麦の胚乳部分を入れた時、ポトリと何かが落ちた。


 魔鳩麦の細くて長い葉の隙間に入ったようだ。


 何だろ? 


 気になったので、採集作業の手を休めて探してみることにした。


 その底の方で、正八面体の一面がきらりと光る。


 あ。魔独楽石まこまいし。頭陀袋に入っていたんだ。


 へえ。この番号はあの時採取した魔独楽石の一つだね。


 少し前のことだけど何か懐かしい感じがする。そういえば、ベン君はあれからも相変わらず、魔独楽石投げに夢中だとのこと。さらに鉱物収集そのものにも興味を持ち始めたらしい。そう。どうやらそのように、カークがそそのかしたようだよ。


 それから、魔鉱石採掘場長のクリスティーノさんは元気にしてるのかな。そこの監督員のデトルさんに、この魔独楽石の投げ方を教えてもらったんだったけ。


 こちらも久しぶりに魔独楽石を投げて遊んでみたいな。しばらく前まで、休み時間といえば、魔独楽石で遊んでいた。それで想いを浮かべて結構自由に移動させることもできるようになったんだよね。


 あ。そうだ。この野外訓練にも昼休みがある。


 これでエンタ先輩を驚かしてやろ。


 高速回転をしながら空中を自由に動く魔独楽石。それ見つめるエンタ先輩。そのびっくりした栗鼠りすのような可愛い顔を想像する。


 うん。いいね。ほんと、これは楽しみ。はは。


 声にまでは出ないけど、とてもほくほくとした気分になった。


 今、羽織っているゴンザ氏の恰好のいいマント。このマントに丁度この石が入る大きさの内ポケットがあるんだよね。この魔独楽石をすぐに取り出せるようにこの内ポケットの中に入れておこう。


 そしてまた、採集作業にいそしむ。この作業にも慣れて来たので、作業をしながら思索にふける。


 この地響きの主。あの牛のような生き物たち。あれは確か走魔牛そうまうしとか言っていた。カークの言葉をルークの意訳を通して聞いたからね。意味がそのままなのは、そういうこと。


 それはそれとして。あの走魔牛。あれらの好物である、牛魔草うしまぐさを求めて草原を駆ける牛だとか。


 普段は、ある程度の範囲でぱらぱらと広がって草原に豊富にある牛魔草を食んでは寝ていたりしている。そんな感じで、のんびりと暮らしている大人しい生き物。


 だけど、その食べ物の牛魔草が一定量未満になると、散り散りにいた走魔牛が集まる。そして、ひとつの生き物の塊のような集団となっていく。それがある程度の規模になると、突然、狂ったように一直線に走るとのこと。


 走魔牛が狂ったように走るきっかけとか、その方向を決めているのは何なのかは、まだ解明されていない謎なんだとか。


 解明されていない謎。だけど、それがどうであれ、あれを見ると思うよ。


 あの走魔牛たちも、生きるのに必死なんだろうなと。


 実際、駆ける塊から弱りはぐれて死んでいく走魔牛がいる。そして、それを狙う、野生肉食魔動物の姿が見えた。


 これは、生き物の生きるが為の摂理せつり。悲しいけど、これが現実。


 こちらも肉を好んで食べる。狩りはその肉を得る為に、他の命をいただく。


 肉だけではない。今、こちらが好んで食べている胚芽。これも命の素。


 いつだったかな。‘繋ぐものは去るもの全てに感謝を捧ぐ’という言葉。これが、こちらの心の奥底に刺さっている。


 そうだね。食べることで命をいただいている。そのことに感謝をしないとね。


 ん。あれ?


 え。地響きが大きくなっている?


 そう思った刹那せつな


『おい、ラケルタ! 避けろ! そっちに来るぞ! うわああ』


 ジュライさんの従魔であるフェリスアン属種、ひょうのような頭をしたゴトラン氏の叫び声が聞こえた。


 そして同時に、ドン! と何かに、ぶつかった音。


 え。ええ? 何?


ここに読みに来てくれて、ありがとうございます。

とても嬉しいです。

よろしければ、これからも、この作品に読みに来てくださいね。

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