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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第6章 草原と森の入り口
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6-05 草原へ

◇後半の表現を少し変えてみました。

「おまいら、何を騒いでおる。そろそろ行くぞ?」


 静かに響く、少しドスの効いた低い女性の声。


 そして、筋肉質だけど、とてもすらりとした四肢をした、赤毛の女性。


 あ。ジュライさん。


 耳たぶにきらりと光る赤いイアリング。白い肌にえて、とても魅力的。


 いつの間にか、ごつい戦士の恰好をしたその彼女が、そこにすっと立っていた。


 そう。ジュライさんは今回の野外訓練に随行をしてくれる人間の女性。


 そして主に、森林魔猫科マギ・フェリス・シルヴェトリスのフェリスアン属種を率いている魔動物召喚魔術師でもある。


 今日の野外訓練、ほんとはカークがこの班を率いる予定だったそうな。


 うん。それはそうだ。


 こちらを含め、他の従魔候補4体とも、契約主はカークだからね。


 カークは、どうやら何か急な用事ができたらしい。


 今は従魔候補を持っていないジュライさん。それで、ピンチヒッターとしてこの班の野外訓練の指導者としてやって来たという訳。


「ああ。そうだな。パラとオルトを馬車まで頼む。私はラケルタを持とう」


 ジュライさんは厩舎の出入り口で待っていた、羽毛種(ペンナティ)の両先輩の専属担当の男性職員に言う。


 そう。従魔候補は普通、専属の担当職員が付く。


 こちらは訳あっていないけど……。


 それはとにもかく。


 馬車の方へ歩いて行く。


 そう。馬車は町の門のすぐそこに横付けされてあるのが見えていた。


 馬車では、エンタ先輩とイエン先輩が彼らの担当職員らと共に待っていた。


『おーい。遅いぞ。待ちくたびれたぞ!』


 エンタ先輩。魔アルマジロ科マギア・ダシュポディダエ50歩(スインクエンタ・パソ)


 彼の外見は、栗鼠耳アルマジロ。こちらの背丈の半分ほどしかない小さな身体。それを補わんとばかりに、それこそ栗鼠りすのような、ふさふさの尾を揺らしながら、ぴょんぴょんと跳ねて叫ぶ。


 そう。彼のその姿は、はっきり言ってとても可愛い。馬房掃除でダウンとか聞いていたけど、大丈夫だったんだね。


『そうだ。遅い、遅い!』


 ひょうきんな仕草で、笑いを誘う、イエン先輩。


 うん。イエン先輩も元気そうで、何より。微笑ましくもある。


 イエン先輩は、その外見がひょろ長カッパ。背に甲羅を持つリザドリアン属亀種(テストゥードーティ)100歩(スィエン・パソ)という。だけどその細身から想像できないほどの力持ち。


 あれ?


 こちらの後ろにいるはずのオルト先輩とパラ先輩がするいつもの返しがない。


 どうしたのかな?


 変に思って、おもむろに後ろを振り返る。


『……何だよこれ』


 馬車のかたわらを凝視ぎょうししたオルト先輩が引きつった顔をしてつぶやいている。


『嫌。怖いわ』


 パラ先輩は、専属の男性職員の後ろに隠れて小刻みに震えている。


 その男性職員も、先の方をながめて困ったような顔をしているのが見えた。


 へ。どうしたの?


 向こうに見えているのは、エンタ先輩とイエン先輩だよ?


 それにここは、安全な町の中。


 そんな震えるほどの怖いものって?


 ん。あ。そうか。


 なるほどね。


 馬車にいる護衛。


 この野外訓練の護衛に就くのであろう正式な従魔たち。


 そう。ジュライさんの従魔。森林魔猫科マギ・フェリス・シルヴェトリスのフェリスアン属種。


 このフェリスアン属種の頭部は猫に似ている。だけど、愛らしくて可愛い家猫のそれではない。


 獰猛な虎とかひょうのような、大型の猫科の生き物の頭が付いている人型の魔動物。その毛だらけの口から覗く牙は太くて鋭い。


 このフェリスアン属種は、イヌ頭のルプスシエアン属種と同じく魔哺乳類(マギア・マンマーリア)カルニバルア目の肉食魔動物。


 ご多分に漏れず、野生のフェリスアン属種もリザドリアン属羽毛種(ペンナティ)の天敵だったりする。そう。羽毛種(ペンナティ)の肉が旨いらしい。


 これでは何か羽毛種(ペンナティ)がとても弱い種のように感じるけど、そういう訳でもない。あの鋭い歯を見れば判る。それ以上に、肉食の野生魔動物にとってリザドリアン属羽毛種(ペンナティ)は大変旨い肉だから狙われるとのこと。


 あ。え。野外訓練って、当然町の外だよ。


 野生の肉食魔動物に狙われるのでは? て大丈夫なのかな。


 ジュライさんは、不思議そうな顔をして当先輩たちの担当職員に問う。


「どうした?」


 その男性職員は少し困ったような顔をして答えた。


「いやあ。どうやら貴方のフェリスアンたちを見て怯えているようなのですよ」


 ジュライさんは、訳が分からないというような顔をして言う。


「何故?」


 今度は、男性職員の方が驚く。


 それはそうだろう。相手はカークと同じ魔動物召喚魔術師。それは知ってて当然の知識だと彼は認識をしているはずだ。


「え。何故って。フェリスアン属種はリザドリアン属羽毛種(ペンナティ)不倶戴天ふぐたいてんの天敵ですからね」


 男性職員は、両先輩を庇うように優しく腕を回して言う。


 へえ。何かいい感じ。あの最初の担当職員と天と地との開きがあるよ。


 ジュライさんは、しばらく首をかしげていた。


 そして、ようやく合点がいったというような顔をする。


「ああ。そうか。だが何だな。こいつらは私の正式な従魔たちだ。カークの大切な従魔候補を食らうようなことは、しないしさせない。安心せよ」


「それは……そうですが」


 男性職員はそれでも不安そうな顔をして、ジュライさんを見つめる。


 途端に彼女は大声で笑い声を上げた。


「ははは。何。そんな不安そうな顔をするでない。大丈夫だ。こいつらを無事に帰すことを約束する。今日の夕刻、ここで待っているように」


「はあ。あ。そうですね。それでは本日の夕刻、ここでお待ちしております」


 その男性職員は、でこぼこコンビ先輩の職員たちと共に施設の方へと戻っていった。


 そうこうして、こちらが属する野外訓練の班が合流をした。


 すでにほど近い門の出入り口。そこで、それぞれが例の水晶玉をかざして町の外に出る手続きを済ます。


 そう。こちらは、また町の外に出た。


 今は馬車の中。かたかたと揺られている。


 だけど、そんなにひどく揺れるものでもない。


 馬車の造りもそれなりに良いのだろう。


 だけどそれ以上に、この道の整備が行き届いている。


 今回の行き先である草原まで。


 この石畳でできた大きな街道はもちろん通っている。


 そして、この街道を道なりに行けば。


 そう。そのずっと先にあのナーガラ帝国があると聞いている。


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