6-04 姉弟のパラとオルト
サブタイトル変更をしました。
うーん。
一体いつまで、ここにいなくては、いけないんだろう。
今日は、町の外での野外訓練だと聞いて、わくわくとしてた。
そう。出口の町の門は、すぐそこ。
なのに、ここで、じっとしてなさいと、ダリアさんに言いつけられている。
はあ。長閑だね。うー。ほんと、長閑過ぎる。暇。
相変わらず、目の前の魔獣馬はのんびりと、飼い葉を食んでいる。
もう。こんなの飽きる。それに、身体が凝る。
ぐいと、首を後ろに反らし背中を伸ばす。
うん。やっぱり伸びをするのは、気持ちがいい。
もちろん手は下。すでにこの形が癖のようになっている。
足元を見る。黒の長靴を履いている。おしゃれな幾何学模様のあるポンチョに、ゴンザ氏の格好の良い革のマント。
ほんと。外出にと、めかしこんでいると思う。これなら、従魔候補のエメラルドグリーンの派手な首飾りさえ、しっくりと似合うような気がしている。
……ん。あれ。
複数の軽快な足音。こちらの方に近づいているようだ。
窓はあるけど、それでも薄暗い厩舎の奥。
その中へ意識を集中する。そして、じっと見つめる。
お。顔見知りの従魔候補2体、発見!
え。でも、それだけ?
まずは、例のでこぼこコンビの先輩たちがいない。
今見えているのは、リザドリアン属羽毛種という属種。その2体は施設の職員にオルトとパラとよく呼ばれている。
そして、この2体は、よく一緒にいるところを見かける。姉弟だ。
魔動物召喚で近隣の魔動物がセットで召喚されることがあると、こちらの契約主であるカークが言っていた。
ほんと。これを見ると、実際に、こういうのもあるんだなと思った。
羽毛種。この属種の見た目は、体表や細長い尾にある鱗の狭間から羽毛のような毛が生えているので、トカゲというよりかは、鳥に近い。
だけど空を飛ぶための翼はない。嘴のように尖った口吻には獲物を切り裂かんとばかりの鋭い歯がずらりと並んでいる。
うん。もちろん、羽毛種はリザドリアン属なので、基本的な容姿は2足歩行のトカゲ。だけど、受ける印象はトカゲと鳥との合いの子。確か始祖鳥というのだったかな。それが人型しているというような感じといっていいだろう。
ん? 何か、話しているようだ。
だけど、そのまま聞くには、遠い。なので、聞き耳を立ててみる。
えと。なになに……。
『うあ。筋肉痛が。外に出かける前に、馬房掃除だなんて、ねえよなぁ』
え。オルト先輩、馬房掃除なんてしたの? 彼自身が言うように何で羽毛種が、出発前の朝から馬房掃除だなんていう力仕事をしたのだろう?
『そうねえ。私たちには体力があるといっても、これは酷い。腰が痛いわよ』
わ。パラ先輩までも。もちろん、羽毛種は、膂力があるといわれるリザドリアン属の一種。だけどこの種は、腕力自慢というよりは、足の速さと持久力を誇る種だったと思う。
『でも、仕方がないわ。私たちは、もうすぐ1年。それで正式な従魔となる大事なテストを兼ねた郵便配達訓練があったでしょ。でもそれ、遅配や誤配を重ねちゃったよね。それも、かなりたくさん』
あ。カークが、手紙の来るのが遅いとか、違うやつのが来たとかで困っていた。もしかして、これが原因だったのかな。
『むう。それもそうか。それと、馬丁のやつ、人間のくせに同じことを飄々とやってのけるんだもんな。文句が言えん』
へえ。あの馬丁さんは、随分とひょろっとした姿をしているのに。見かけによらずに力があるんだ。それとも、魔動物並みの魔力でもあるのかな。近くで見たことがないから、彼の魔素流の動きを知らないけどね。
『ほんと。あの細身でよくやるわよねぇ。彼は、コツさえ掴めば、苦もなく速くできるようになるとか言っていたわ。でも、あの従魔候補仲間はダウンよ』
『うえ。そうなのか。だけど、あいつらも、リザドリスク科だろ』
『そうね。ひょろ長い方は亀種よ。だけどもう一方は、甲冑と全身に鱗があるように見えるけれど、魔アルマジロ科の子。魔哺乳類よ』
あ。魔アルマジロ科。うん。これは、エンタ先輩でしかない。この従魔施設院に魔アルマジロ科は彼しかいないからね。
『け。何だ。弱っちいマギマンマかよ』
あれ。一般的に従魔となる知的魔動物としての魔爬虫類と魔哺乳類とは仲が悪いという話は聞いていない。これはオルト先輩自身に何かがあったのかもね。
『科種族を越えても、そんなことを言ったらだめよ。オルト』
うん。それが普通だよね。ただ、リザドリアン属羽毛種と野生の魔哺乳類カルニバルア目であるルプスシエアン属種とは相性が悪い。というか被捕食者と捕食者の関係となる。
うかうかしていると羽毛種は野生のルプスシエアン属種に食べられてしまう。
こちらに知り合いのルプスシエアン属種の従魔がいる。
彼が言うには、羽毛種の肉は、とても旨いんだそうだ。従魔としての禁忌がなければ、今でも食いたいと言っていた。野生にいるやつは禁忌の例外だから機会があれば食うとかも言っていた。知的魔動物と言っても、この辺はやはり魔動物というべきか?
『けっ。いいじゃんか。これは、俺の正規だ。だけど甲羅のひょろながいやつもダウンだって? あいつは、力があるのが自慢じゃなかったか?』
そうすると、この甲羅のひょろ長というのは、リザドリアン属亀種のイエン先輩だよね。
『彼は単純に、脱水症状を起こしただけよ。水を飲んですぐに回復していたわ』
脱水でダウンって。ほんと、イエン先輩はカッパみたいだよ。
『そうかい。なら、いいんだけどな。ん?』
オルト先輩は、こちらがいる方角を凝視した。
そして、こちらをビシリと指差し、嘆くように叫ぶ。
『向こうを見ろよ。パラ。のんびりと魔獣馬と一緒に、いかにも暇を持て余していましたというような顔をしているやつがいる。こんなの、ねえよなぁ。正規の正義はどこへ行った』
え? 確かに、こちらは暇をしていた。
そうはいっても、こちらはこちらで、何もできなくて辛かったんだよ。
この分だとオルト先輩は、信じてくれそうもないけどね。
だけど、正規の正義って何?
ここに読みに来てくれて、ありがとうございます。




