表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第6章 草原と森の入り口
86/155

6-03 馬と一緒

 こちらの自室からゴンザ氏が出ていった。


 すぐに外出の準備を始める。


 ロビーで担当の職員がすでに待っているとのこと。


 あれ。んー。今日のこちらの担当職員は誰だったけ?


 あ。ゴンザ氏が担当職員の名前を伝えるのを忘れている。


 こちらも催促するのを忘れた。今日は、いつもと違うしね。


 それにしても、せっかちな職員だよ。時間は、まだたっぷりとあるのに。


 カークからの届け物の長靴ちょうかを履く。


 この前魔鉱石採掘場に行った時の脹脛ふくらはぎを覆うほどの黒い革の長靴。カークの言う古代ドラコラン文字で魔法紋が銀色の線で描かれている。


 その模様のある、きらきらとした石。この質感と独特な波動は魔鉱石だね。


 静止状態にある魔鉱石の微かな波動。こういった微弱な魔素の動きも判るようになってきた。そうとはいっても、手に触れて、それに集中をしないと判らない。


 よいしょ、と。


 硬い革の長靴ちょうかだかね。これは大きめだから、まだまし。それでも、履くのが結構大変だったりする。だから、気持ちだけの掛け声。そう。気分の問題。


 ん。掛け声のチョイスがおじさん臭い? 


 それは、そこに置いておいて。


 おー。前に履いた時と同じだ。


 この長靴は少しでかいサイズ。なのでそれなりにぶかつく。それが両足を入れると魔素流が動き出し、ぐんぐんと縮む。


 うん。いいね。丁度良い。皮膚に吸い付くような感じで、とても気持ちが良い。


 ほんと魔法の靴だよ。地味な魔法だけど、これはとても重要。何せ支給の靴は、足に全く合わないので、とてもじゃないけど履く気がしない。


 だから今でも、普段は裸足だよ。これが一番。


 だけど、この靴なら履いていける。


 次に、長靴と一緒に頭陀袋ずだぶくろに入っていた幾何学模様の白いポンチョに着替える。あとはそう。この頭陀袋も、持っていけとのこと。


 洗面台にある端子に触れて鏡を出す。そして、自らの姿の確認をする。


 この前の時は、じっくりと鏡で見る機会がなかったからね。


 お。いいね。恰好いい。


 これは、本当に良い。見た目の質感は厚手の革のようだけど、とても柔らかくて手触りがいい。そして両端が白い石の飾りボタンが留められている。それが袖口のようになっていて、鎖がついた手首でも楽に手が通せるし自由に動かせる。


 それに、何と言っても格好がいい。


 最近の支給品の服は、普段着まで大振りな花柄のアップリケが入ったポンチョになっているんだからね。ほんと。これはやりすぎだよ。やめて欲しい。


 天と地ほども違う。


 再び鏡に映る、自らの姿を見る。ひらりと舞う。


 だんだんと、気分が高揚して来る。


 かっかと身体が熱くなって来た。


 おっと。いけない。冷静にならないと。


 いつものように、従魔候補の首飾りを付ける。


 そしてゴンザ氏からの貰ったマントを、ばさりと格好よく羽織ってみた。


 気取るように頭陀袋を片方の肩に持ち、意気揚々とロビーへと向かう。


 さあ。いざ行かん。野外訓練へ!


 そう。ひさびさに、町の外に出る。


 ほんと。これはとても楽しみだ。


 ……。


 ふあ。


 うー。暇。


 いや。何ね。今は、馬と対面をしている。


 ここの馬はでかい。


 そして6本の肢。もちろん、6本肢の馬は異馬と認識している。だけどここでは、ごく普通にいる魔獣馬まじゅうばという生き物。あの時カークの横にいて聞いて知った。


 今居る場所は、町の門の前にある厩舎きゅうしゃ。何頭かの魔獣馬が馬房で休んでいる。そして、のんびりと飼い葉を旨そうにんでいる。


 ふーん。飼い葉ね。何か、豆の葉のような形をしているよ。旨いのかな、これ。


 こちらが気になって、その葉のひとつを手に取ろうとした時。


「おーい。ラケルタ。そいつは食うなよー!」


 遠くから、馬丁ばていさんの大声が聞こえた。


 え。いくらなんでも食べないよ。


 これがどんなものか、調べようとしただけ。暇だもんね。


 ん。あれ。ねちゃっとしている。


 ……あ。


 立ち上がると、魔獣馬の飼い桶の中身が見えた。恐ろしくねちゃついている。


 どうやらこれは、魔獣馬の唾液のようだ。


 うえ。ばっちい。


 手についた魔獣馬の唾液だと思われるものを、こすり取ろうとして、地面にある砂でこする。だけど、なかなか取れない。またこする。まだ取れない。うー。必死の形相ぎょうそうになってこする。こんにゃろ、取れろ!


 そう念じるのと同時に、くわっと、てのひらめるようにして、火がともる。これにびっくりして、思わず声が漏れる。


「キュグルルルル。ナワーラ!」


 うーん。生活魔法の着火だったか。それでも、小さな火を点すだけなら、訓練して何とかできていた。そう。こちらは火の魔法は苦手とする。


 これは、一体何だろう。火の勢いが思いがけずに出ていた。それにこの火は熱いけど、何故か火傷はしない。


 はー。熱。だけど、これでべたべたしたものが取れたよ。


 両手を扇のように、ぱたぱたと振る。


 こちらが騒いだからだろう。馬房の影から、先程の馬丁が顔を出す。


 長身で、ひょろりとした人間の男性。とても心配をしているような顔。


 彼は、ちろちろとこちらを見ている。そして、何事もないことを確認したというように、ほっとしたような表情になる。だけど、こちらを構うことなく、馬房の奥へとすぐに引っ込んだ。どうやら作業を中断して見に来てくれたようだ。


 彼も従魔施設院の職員。施設の受付でごくたまに見る。魔獣馬が関係する依頼がある時は、彼が中心になって手配をしているようだ。


 だけど何で、こちらだけここに居るのだろう。他の従魔候補の仲間は?


 今日の担当職員は、ダリアさんだった。


 彼女は、いつも早くロビーに来てくれる。だけど、どうしてか、こちらにきつく当たるんだよね。時間があるのだったら、自室でゆっくりとしていたかったよ。


 何をするでもなく。


 繋柱に繋がれている魔獣馬をぼぅと見ながら時間を潰した。


 ん? そうか。こちらと魔獣馬とは同じ図だよ。そう。こちらも引き手で繋柱に繋がっている。


 言っちゃえば、この魔獣馬と一緒。


 そんな、たわいもない考えを巡らせていた。


 ふあ。ほんと。暇。


ここに読みに来てくれてありがとうございます。

嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ