6-01 平和な日常
今話から章が変わります。
語句の修正と表現の方法を変更しました。
あれから、さらに日が過ぎる。
ごく普通の日常が続く。
そう。ここニサン伯立従魔施設院で従魔候補の仕事をしている。
やはりと言えばいいのか。施設内での子守の仕事が多いよ。
うん。あの後すぐ子供たちに魔独楽石を披露した。
出したのは、よくある黄色い魔独楽石のみをじゃらりと。
いや何。これは単純に珍しい石が無暗に壊されるのが気持ち的に嫌だったりするだけで。珍しい種類の魔独楽石をコレクションにしたいという訳ではない。
あう。
やはり魔独楽石投げで遊ぶには、年が若すぎたか。
結果。出した魔独楽石は積み木の一部となっている。
ま。これは予想通りだよね。
こうして今は、キャッキャと積み木に戯れる幼い子供たちをポケーっと見守っている。
そう。幸せそうな子供たちの歓声。とてものんびりとした平和な光景。
この状態が続くといいなと思う。
ん。あ。この状態が続くと、こちらが元の世界に戻れる可能性が低くなるか。
うーん。
ほんと。住めば都とは、よくいったもの。
なんだかんだで、ここだって悪くはない。
だから今すぐでなくてもいいよ。だけど、いつかは帰りたいな。
ただ……気になる問題というか。
この身体の使用期限というか、寿命ってどれくらいなんだろう。それと元に戻れるとしても、こちらの元の身体って存在しているのかなとか。
いやいや。
嫌な考えは、やめておこう。
いつか無事に帰ることができる。そう信じよう。結構状況というのはなるようになるものだから。
本気で良いようになると信じていれば、勝手に無意識が働いて実際にその方向に仕向けてくれる。そんなことを読んだり聞いたりしたことがある。
また逆も真だろうから、気を付けないとね。うん。
おっと。
そうそう。子守の仕事中だった。ちゃんと子供たちを見守らないとね。
慌てて、目の前の子供たちへと自らの視線を戻す。
幾人かの子供たちが集い、正8面体の魔独楽石をバランスよく積んでいる。次々と同じようにして重ねてソフトボール大の金平糖のような塊にしていた。それを見て手を叩いて喜んでいる子供たち。完成したのかな。
あ。
手を叩いて喜んでいる子供たちの中で、いつもツインテールで根本に可愛く結んだ大きなリボンをつけたミザちゃんと、ふと目が合う。
すると彼女は、活気があるもも色の両頬に小さなえくぼをつくり天使のような輝く笑顔でにこりと笑う。
地面に敷いた敷物の上に小さな手をつき、よいしょして。てこてこと近づき先程の魔独楽石の塊の方角へ目一杯小さな両手を広げて元気よく宣言。
「これ。トカゲの兄ちゃんに、あげるね!」
ん。これをくれるの?
常連だといってもいい位にここによく来てくれている彼女は、ここにいる子供たちの主導権を握っているようだ。
でも、この魔独楽石でできた丸い塊を不用意に崩しでもしたら。この子たちが、わんさと泣くかも。
うー。そんなことになったら、子守が形無しだよ。
なので子供たちが輪になって注視する中。他の積み木が散乱した敷物の中ほどにある、くれるという魔独楽石の塊まで慎重に近づき、そっと指の先で触る。
へ。何これ。
指先での感触では、触れた石が固定されていて、とてもしっかりとしている。
それではと、左人差し指でぐいと押す。どうやら重なり合った石が強く接着しているようで、かなり強く押しても崩れる気配が全くない。
それじゃあと、思い切ってこの塊を手に取ってみる。
あれ。びくともしない。その塊は何故か一つの物体となっていた。
どうやったら、こうなるの?
魔独楽石は、お互いが引っ付く性質の石ではない。
恐るべし。子供たち。
こちらが子供たちにと渡した、まとまった数の魔独楽石。これを塊にしたものをくれるというのはいいけど、どうしようかと思う。扱いに困る。
ま。こういうのは、どうであれ。
素直に受け取って、にっこりと笑うのに限る。
ミザちゃんは夕方の帰り際に、忘れたらだめよと母親じみた口調でいう。
なので例の大柄なアップリケのついたポケットに、彼女に見せながらこの石の塊を入れた。
このポンチョのポケットについているアップリケは、小さな集合花のようなものと尖った巻貝のようなものが付いている。これは紫陽花と蝸牛と同じようなものだと思う。たぶん。
こちらが魔独楽石の塊をポケットに入れるのを確認して満足そうに頷き、ぱあっと花が咲くかのように笑うミザちゃん。
夕日が映える中。いつもの通り、隣町までの行商が終わって迎えにきたご両親に連れられて、元気に手を振りながら帰っていった。
そんなある日の夕飯時。
未だにミランダさんがいない従魔食堂ジャルディーノ・デ・ファミリア。
中央のでかいテーブルに置いていある食べ物を各々好きに取って食べている。
食べ物の種類は大体魔動物の科目毎に分けられている。だけど、それも段々とばらけてきて適当になっているような感じ。食べ物の種類も目に見えて少なくなっているよ。ほんの最近ことだけど豊富な品揃えがあった頃が懐かしい。
ミランダさんの代理が、あの声の小さいめんどくさがりの人間の職員だからね。この事態が深刻化しない内にミランダさんが帰ってきて欲しいと切に願う。
そうしてこちらは、いつものように従魔長のゴンザ氏と一緒に食べている。
ゴンザ氏は、戦闘系の鰐種。
彼の姿は、筋肉質の肉体で力が強く肉食系の鋭い牙を持つ。なので、あちらに見えるイヌ頭のルプスシエアンのように、でっかい骨付き肉にむしゃぶりついて豪快に骨まで噛み砕く。そんなイメージが付きまとう。
だけど、これがオイラの好物だと言って照れながら大芋虫である魔真木虫の炒りものを手に持っている。そんなゴンザ氏の姿はとても可愛らしい。
そのゴンザ氏は、香ばしく飴色に炒り込んだ魔真木虫をとても旨そうな顔をして噛んでは飲み込む。そして徐に話を切りだした。
『なあ。オメエは、施設内とはいえ屋外で仕事してる。すでに町の外に出たから、そう驚かんだろうな』
施設内の保育所のようなもの。あそこの庭は屋外というなら屋外だね。
それと、こちらがすでに町の外に出たと言うのは、この前魔鉱石採掘場に行ったことを指すのだろう。これは、こちらの契約主であるカークが直々にこちらを連れ出したことによる。そういうことは、そうあることではないらしい。
彼はもう一つ炒り魔真木虫を幸せそうな顔をして手に取り、今度は大きな口を開けてパクリと飲み込むように食べて言葉を続けた。
『急な話だけんど、明日従魔候補の野外訓練があると聞いた』
へえ。従魔候補に野外訓練があるんだ。従魔候補は基本、屋内の仕事しかしないからね。野外で訓練って聞くと新鮮な感じがする。
うん。急だけど、突然どうのというのは比較的よくあることだからね。
要は、顔見知りの従魔候補数体と一緒に馬車に乗り、草原で食用植物などの採取をしたりするとのこと。
これは、町の外に出て野外の仕事に対応できるようにする訓練。そしてこれは、施設内の人間や魔動物用の食料確保も兼ねている。
これを聞いた時は、この町は狩猟採取で食料確保かと思った。だけど仕事先で、多収量の品種改良とかの話を聞いたことがあるので牧畜農耕もあると思う。
不足分の食料は、魔鉱石を交易物資として他の地域の物産で賄っているようだ。だけど、それでは日持ちがする保存食ばかりになってしまう。
どうしたって、趣向を変えた新鮮な食べ物が食べたい。そんな気持ちが、ここの施設の人間と従魔の双方にあると思う。
こちらも例外ではない。ぜひとも、目先の変わった旨いものを食べたい。
やはりそれには、いろいろとあるのがいいよね。
そう思うと、野外訓練に興味が湧いてきた。
ほんと。わくわくするよ。
◇この物語を読みに来ていただきまして、ありがとうございます。
おかげさまで、今話で20万文字を超えました。
ここまで書けたのも、読んでくれている方がいらしているからこそです。
ありがとうございます。
引き続き、この物語を読んでいただけると嬉しいです。




