5-21 意外な側面
サブタイトル変更を変更しました。
その表面がベルベットのような柔らかな風合をした、綺麗な黒い箱。
その箱を開けて中身を見るベン君のお母さん。
「あら。そう」
何とか取り繕って笑っているけど、落胆の色が隠せないでいる。
「あの。残念だけど、黄色の針入りの魔独楽石それほど珍しくは……あら、冊子に承認印の印影? まあ! これって最高級魔鉱石にある場長印よ!」
印影付きの冊子を見つけたベン君のお母さん。喜色満面の笑みを浮かべている。耳たぶを見ると、細い血管が膨らんで紅潮をしていた。相当興奮をしている。
カークが呵呵と笑い、それを面白がるようにして言う。
「おう。そうか。これが最高級魔鉱石か」
彼女はカークの笑い声で、はたと気が付いて冷静な顔つきに戻った。
「あら、そうね。これは魔独楽石よね。どういうことかしら?」
そうして、戸惑い不思議がっている。
カークは、慇懃無礼なほどの丁寧な礼をする。
そして、おどけるように答えた。
「ご婦人。ご高覧にあります通り、この冊子の印影は、本物のニサン伯立魔鉱石採掘場場長クリスティーノの印璽で押されてございまする」
どうやら、カークはこの状況を面白がっているようだ。
でも、いいの? ベン君のお母さんはお客様だよ?
彼女は、じっとその冊子の印影を見つめている。もう、それこそ冊子に穴が開くんじゃないかと思うほどに。
相当面を食らっているようだ。
「え。ええ。そうね。本物にしか見えないわ。こんなに複雑で特殊な印影なんて、他に見ないもの」
カークは、まるでなかったかのように先程のおどけたような表情を消して言う。
「実は先日、ニサン伯立魔鉱石採掘場の場内で、魔独楽石投げの催しがあってな。この石はその試合に勝ち残った。そして勝ち残った証明としてクリスティーノ場長が魔鉱石の報告用記録紙に記入し印璽を押したのだ」
「まあ。そうなの。でも、これは魔独楽石でしょう? 魔鉱石の報告用記録紙。それは嘘が書けないとかといって、とても貴重なものだと聞いているわ。わざわざそんなことに記述できるのかしら?」
「ふむ。そこの採掘現場では魔鉱石の報告用記録紙にすべての採取品の採取場所と時間を記録することになっておってな。魔独楽石も例外ではない」
「あらあら。記録が大変そう。それでも、魔鉱石でもない魔独楽石が特定なんてできないわよね」
「そうだな。この石のここをよく見てみると良い。番号と場長の印痕がある」
ベン君のお母さんは、カークの指差すところを目を凝らして見ている。
そして少し驚いたような顔をした。
「ええ。そうね。番号と特徴的な印痕も確かにあるわ」
次にと、カークは例の冊子を指差す。
「この印影がある冊子に、その写しが記載してあるぞ」
彼女は、ちょっと考えるような素振りをした。そして、示されたその冊子を広げた。ゆっくりとした口調で書いてある文字を辿るようにして読み上げ始めた。
「……当魔独楽石投げの試合に優勝した通称名ラケルタが用いた魔独楽石であることをここに証明する……って、ラケルタ君が優勝したの?」
そう言うなり、こちらを正面からしみじみと見つめた。
え。いやあ。そんなに見つめないで。恥ずかしいよ。
それに、これはビギナーズラックだからね。
「まだ嘘だと思われるのであれば、鑑定ができる人間に確認をさせるが良い」
「あら。そこまで言うの。カークさん。ふふ」
彼女は、明るく含み笑いをした。
これで信用をしてくれたかどうかは判らない。けど、納得はしてくれたようだ。
「それと、ちとがさついていてすまんが、採取したもので希少だと思われる石がこれになる」
カークは、色や模様で綺麗に並べた魔独楽石の箱を袋から取り出しローテーブルの上に置いた。
んー。この整理整頓された箱のどこが、がさついているのやら。
「まあ。凄い。珍しい石がたくさんあるのね。だけど息子の誕生日プレゼントでこんなに必要ないわ。そうね。いくつかは頂こうかしら。最初に見せて頂いたのでは、流石に勿体ないから、魔独楽石投げの遊びには使えないでしょうからね」
その後、受付に戻った。そしてカークに規定の報酬が支払われていた。
そう。ベン君のお母さんの依頼が達成したんだよ。
彼女はカークとこちらに、とても感謝をしてくれた。
そしてこちらは、従魔や従魔候補には金銭を渡せないから、今回の記念にと言われて残りの魔独楽石を頂いた。
うん。結構な量だ。どうしようかな。これ。
折角だから、魔独楽石投げの練習でもしておこうかな。
うーん。でも今日は、この後すぐに子守の仕事だよ。
こちらが今着ているポンチョ。そこにどてんと存在しているでかいチューリップのようなアップリケは、ポケット仕様になっている。
なので、そのポケットの中にいくつかの魔独楽石を放り込んだ。
うん。そう。子守をする子供たちに、これを見せてたら楽しいかも。
何だかんだ言っても、今回の成果だもんね。これ。
そう言えば、ベン君のお母さんは、ごく普通の女性かと思ったけれど、今回は、いろいろな側面がでてきたよね。
それに、ベン君のお母さんの家は結構裕福らしい。彼女の旦那さんはニサン伯立魔鉱石採掘場印の高品質魔鉱石の愛用者だとのこと。
特に高品質の魔鉱石は宝石のような輝きがある。それで高級な調度品の魔道具に使用するのに見た目が良いので重宝をするんだって。
また、見た目の話がでたね。
何か知らないけど、見た目を気にするのが多いよね。
うん。こちらも、綺麗なものが好きだよ。
◇次話から章が変わります。次章も町の外に出る予定です。
ここに読みに来てくれてありがとうごさいます。とても嬉しいです。
それから、黄金色のどんぐり(https://ncode.syosetu.com/n2889fe/)も、
読んでいただけると嬉しいです。
これは童話なのマイルドになっていますが、文体はほぼ同じような感じです。
(そこにこの物語の誰かさんがほっついでいるかも)




