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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第5章 初めての町の外
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5-20 依頼品を渡す

 数日後。


 うん。あの日は、初めての町の外だったけど、何事もなく帰れて良かった。


 あの後カークの居室に戻って着替えた。夕飯はミランダさんがいない従魔食堂でミルマノと一緒に食べた。


 そういえば、魔鉱石採掘場場長のクリスティーノが言っていた、ミランダさんがわくわくして探している珍しい花って何だろう。気になる。


 いつものように、今日の担当の職員に連れられて、受付がある建物へと向かう。そして建物の中に入り、いつものように、受付にある端子に手をかざした。


 すると、受付の職員が魔道具の電子ペーパーのような画面を見て、別室に行って下さいと言う。


 ん。あれ。


 従魔長のゴンザ氏からは、今日はいつもの子守の仕事だと聞いたよ。


 担当の職員も少し驚いた顔をして、受付の職員に確認を取っていた。


 こちらもついでに、画面を覗く。


 あ。カークの名前。


 うん。納得をした。


 その担当の職員がこちらを別室へと誘導する。そして、扉にノックをした。


「あの。すみません。ラケルタちゃんを連れて参りました」


 そう。こちらの今日の担当職員は、若いけど地味で影の薄い感じの女性。初めて見る顔かもしれない。先程の画面で彼女の名前をコーディだと確認した。


 扉が開く。


「おう。すまん。む」


 カークが顔を出した。


 その穏やかだった表情が、にわかけわしくなった。


 そして静かな低い声を発する。


「新入りか。中に入ったら、ラケルタのそいつを外しとけ。いいな?」


「あ。はい。も。申し訳ございません」


 コーディさんは、か細い声を絞り出すようにして謝った。そしてブルブルと震えるその手で、引き手のフックを外してくれた。


 そう。こちらはいままで、引き手付きだった訳。この状態にはもう慣れたから、どうってこともないけどね。


 彼女を見ると恐縮しきっている。そりゃあ筋骨隆々のでかい体で見下ろすように睨まれたらね。これは慣れないと怖い。とはいえ、あの恐ろしい威圧は全くない。カークも加減をしているのだろう。


 カークは再び穏やかな表情に戻る。今度は、その眼差しも優しい。


「もう良い。この後は、俺が連れて行くから安心せい」


「あ。はい。あ。ありがとうございます。そ、それでは、失礼いたします」


 そう言うと、コーディさんは逃げるようにして、この場を去った。


 カークは、彼女の後ろ姿を見て、きょとんとしている。


「何だ、あいつ? ま。いいか」


 あれ。カークさん。もしかして先程のは、まるで自覚がないの?


 ふーん。だったら、たぶん彼女はカークが実直な性格だとは知らない。だから、変に勘ぐって一目散に逃げたんだろうね。


 そしてカークは穏やかな目で、こちらを見る。


「ふむ。俺がお前のとこに行ければ良かったのだがな。タイミングが悪い」


 開いた扉から中を覗く。そしたら、ごく普通の女性がいた。


 そう。ここの応接室のソファーに座っているのは、ベン君のお母さん。


 彼女には、ありふれたごく普通の人間という普通ではない特徴がある。普通も、ここまできわめれば、それがその人の特徴になるんだね。うん。


 彼女はカークの手紙を受け取り次第ここに来る日の返事の手紙を出したそうな。だけど、カークがそれを手にしたのは、今日の朝。そしてその時、彼女はすでに受付まで来ていたんだそうだ。明日がベン君の誕生日だとのこと。


 それで、ベン君のお母さんはカークの返事を待たずに直接ここに来たらしい。


 そう。ここは通信事情が悪い。直接話すか、人に頼んで言づけるか、手紙を送るくらいしかないようだ。


 この国ドイ王国では、王都とその諸侯の城下町周辺とその間を繋ぐ、郵便制度があるとのこと。この町はニサン伯爵の城下町。なので手紙が送れる。これは普通の個人でもできる。料金はそれなりに高いという。それでも個人で頼むよりは確実に届くし、安くなるそうだ。これは、ある意味凄い。


 さらにいえば、ここの受付の電子ペーパーのような画面付きの魔道具や町の門の水晶玉のような魔道具はある。これらはどうやら遠隔通信もできるようだ。


 だけどそんな魔道具は、そうあるものではないと思う。実際に店の手伝いとかで、室内限定で繁華街の状況も垣間見ているけど、それと同じような魔道具は見かけていないし、電話のような魔道具を使っている人間を見たことがない。


 ん。そういえば、この前の魔鉱石採掘場で見た拡声魔道具。そう。ナーガラ帝国では、マイクとスピーカーのような魔道具が開発されている。もしかすると、近いうちに電話のようなものも開発するかもしれない。


 そのように、つらつらと考えていると、ソファーに座っているベン君のお母さんと目が合った。


 彼女は、軽く会釈をしてにこりと笑う。


「あらまあ。ラケルタ君。おはよう。お久しぶりね」


 こちらは、慌てて姿勢を正した。


 うん。そう。彼女は、お客様だからね。


 あ。はい。おはようございます。今回は、数日ぶりで短いですけどね。


 そして、彼女と合わせて会釈をして、にこりと笑う。


「まあ。お利口さん。相変わらず可愛いわね」


 んー。またもや、可愛い発言。でも今回は、仕方がないかも。


 こちらが着ているのは、例のでかいチューリップのアップリケ入りのポンチョ。それもグレードアップして、黄色いチョウチョらしいものまで縫い込まれている。


 そう。これが今朝こちらの自室にある支給服の籠に入っていた。この服を広げて見た時は、ああ、ここにも、こんなに小さくて可愛い虫もいるんだなと思った。


 ベン君のお母さんはカークの勧められるままにソファーに再び座った。


 カークは彼女と対面になる方に座る。そして、この座るようにとこちらを呼ぶ。

 ひとしきり雑談をしたのち、彼女が話を切りだす。


「そうそう。お願いの石を探して下さったそうですね」


「おう。そうだな。手紙に書いた通りだ。先程も申した通り、返信を知ったのが今朝でな。すまんが、報告書がかなり簡単なものとなる」


「あらあら。いいのよ。簡単で。息子の誕生日プレゼントの依頼ですし」


「そう言ってもらえて助かる。では、依頼の石がこれだ」


 カークはそう言って宝石でも入っているような造りの良い箱をだす。


 クリスティーノが高品質魔鉱石用の箱をついでだからと渡してくれたものだ。


「素敵な箱ね。あら。これは認定魔鉱石の箱じゃないの?」


「うむ。そうなる。経緯いきさつ上な。ま。中を開けて見てくれ」


 彼女はカークの言われる通りに、その箱を開ける。


 うーん。満足をしてくれるだろうか。


 どきどきする。


◇ここに読みに来てくれてありがとうごさいます。とても嬉しいです。

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