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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第5章 初めての町の外
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5-18 依頼者に渡す石

おまたせしました。

 あれから少しして。


 監督員たちとは別れてクリスティーノの執務室に戻る。


 帰りの馬車が来るのには、まだ時間があるとのこと。


 先程の魔独楽石投げに飛び入りで参加をして勝った。だけど勝った嬉しさより、ベン君のお母さんの依頼の方が気になって仕方がない。


 それでも周りの監督員たちが祝ってくれたので、それに合わせて笑ってはみた。あれで良かったのかな。


 そして、こちらが魔独楽石投げに使用した石は、ローテーブルの上にある。


 魔独楽石の投げ方を教えてくれたトル3兄弟のデトルが、優勝祝いだと言って、個別用の木箱をくれた。


 箱の中を見ると、綿のような柔らかな繊維が入っていた。これは搬出する魔鉱石に使用する緩衝材かんしょうざいの余りだそうだ。


 その箱の中に優勝した黄色の針入りの魔独楽石がチンと収まっている。


 今は執務室にある品質の良い猫脚のローテーブルで、例のごとく、ミルマノがれた紅茶のような飲み物をいただいている。


 クリスティーノはその美しい目を細め、昔蜥蜴種トゥアタラティのリザドリアンであるミルマノが淹れたその茶を旨そうに飲んている。


 こちら側の茶請けには、すみれに近い紫色の何かの植物の小さな花を丸ごと砂糖漬けにして干したようなものが、皿に綺麗に盛り付けらていた。


 このきらきらと光る細かい結晶をまとう茶請けの菓子を、ひとつ指につまんで口に含む。しゃりっとした軽快な歯ざわり。


 だけどそれは、すぐに溶けてはかない。そして花の香りと甘みの他に爽やかな奥深い旨味がする。妙に旨い。後を引く味。次に手が出る。


 これをいくつか食べると、流石に口の中が甘くなる。それでティーカップに入っている紅茶のようなものに口をつける。


 お。これは旨い。花の優しい香りと茶のふくよかな香りとが合わさって、何ともいえない幸せな気分になる。そして、その茶の渋みが、次の花の菓子を誘う。


 一通り満足をしてミルマノを見る。昼と同じく向かい合わせに座っているので、顔を上げれば自然に視界に入る。


 ミルマノはとても嬉しそうにしていた。地下の採掘現場や魔独楽石投げの会場にいた時の感情が読み取れなかった無表情とは全く違う。


 これじゃあ、まるで違う生き物だよ。


 こちらは不思議に思って、そのまま、ミルマノを見つめる。


 それに気が付いたミルマノは優雅な仕草でティーカップを持ち、こちらを見る。そして、はにかみ、あのような騒がしい場は苦手だと言った。


 ミルマノは、この花の菓子が好物だとのこと。クリスティーノはミルマノが騒がしいのを嫌うことをよく知っていて、それのなぐさめとして、いつも来ると知った時はこの花の菓子を準備してくれているのだとか。


 その横を見ると、クリスティーノとカークの皿にも、同じような花の菓子が盛り付けられてあった。だけどそれは、べっこう飴のように、てかてかとしていた。


 カークは、その花の菓子をいくつか口に含み、そのまま紅茶のようなものを飲んでいた。あれも甘いものだろう。彼が甘党なのは周知の事実だからね。


 カークは、口をつけたティーカップを、ことりと受け皿の上に置いて言う。


「何だ。こっちのも欲しいのか? ラケルタ」


 え。あ。いらない。今回は、今食べている魔動物用の菓子だけでいいよ。


 こちらは、魔動物用の皿にある花の菓子をつまんで、にっこりと笑う。


「いらんのか。人間の食いもんに目がない、お前が珍しいな」


 それから、カークはあごに手を充て、少し考えるような仕草をして言う。


「意外なことに、こいつが勝ったな」


 クリスティーノは、茶請けの花の菓子を一つ口に含み、紅茶のようなものを飲んでから答える。


「まあ。ラケルタ君がいい結果になって、良かったじゃないか」


「だが、珍しい石を探す約束でな。ラケルタが使った石では、普通過ぎる」


「これは遊びの石だよ。それに石を探したという事実があるじゃないか。実際にたくさん採集をした魔独楽石がある。それじゃあ、だめなのかい」


「いや。遊びのもんとはいえ、通り一遍のもんではな。俺の流儀に合わん」


「カーク。君って、結構そういう頑固なとこがあるよね」


 クリスティーノはほほに、人差し指を折り曲げたたよやかな手を当てて、長いまつ毛のある形の良い目を閉じた。


 そして、ふと気が付いたかのように目を見開いて言う。


「あ。そうだ。いい方法があるよ」


 彼は、すくっと立ち上がって歩き、机上の呼び鈴をリンと鳴らす。


 すると、すぐに扉をノックする音がした。


「お呼びでしょうか」


 男性の声。


 クリスティーノ自身が扉に向かい、その扉を開けた。そして、扉の向こうにいる男性に何かを相談しているようだ。クリスティーノは、普段からこういうスタンスなんだろう。


 こちらも、ちょっとだけ聞き耳を立ててみる。


くつろいでいるところ悪いんだけど、さっきの試合のことなんだけどさ」


「うん。そう。できるかい」


「そう。じゃあ頼むよ。うん。僕の名前で」


 しばらくして、タタタと廊下を過ぎ去る音がした。


 クリスティーノが扉を閉めて振り返る。


 彼は、とても嬉しそうに笑う。


「カーク。君に、いいお土産が渡せそうだよ」


「む。何だ」


「フフフ。見てのお楽しみ」


「ま。お前のこった。そう言うわな」


 何故か、カークとクリスティーノはお互いを見て爆笑をしている。


 しばらくして、再び扉にノックの音がする。


「お待たせいたしました」


 先程の男性の声。


 そそくさと扉の方に向かう、クリスティーノ。そしてすぐに扉を開ける。


 2、3その男性と話したあと、再びこちら側に振り向く。


 クリスティーノは、何か厚手の紙の束のようなものを手に持っている。


 今度は扉を開けたまま。扉の向こうの男性もそのままいるようだ。


「む。魔鉱石の報告用記録紙か」


「そうだよ。この記録紙は昼に魔独楽石の採取場所と時間を書いたものでね」


 クリスティーノはローテーブルに置いてあった石を取り出し、近くに寄せて何かを調べている。


「んと。53番。ここか。報告用記録紙とこの冊子に、ラケルタ君が今回の試合で優勝したことを書き足す」


 そう言いながら、文字を書いていくクリスティーノ。


「そして、この魔独楽石と冊子を重ねてにニサン伯立魔鉱石採掘場場長である僕の印璽いんじを押す」


 彼は左手に付けている指輪を判子はんこのようにして押した。この指輪は魔道具なのかな。彼が指輪を押した時、明らかな魔素流の動きが見えた。


「はい。これで強さを証明した魔独楽石ができた。こんなことをするのは初めてだからね。とても珍しい魔独楽石になったよ。これならいいだろ? カーク」


 にっこりと笑うクリスティーノ。


 だけどこれは、いたずらっ子がしてやった時の表情ともいえる。


ここに読みに来てくれてありがとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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