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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第5章 初めての町の外
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5-08 魔鉱石採掘場

 街道を順調に進んでいた荷馬車は、突然、がしゃりと音がして、大きく揺れた。街道を外れて脇道に入ったようだ。


「ふむ。そろそろ、着くぞ。外を見ると良い。ラケルタ」


 カークにうながされて、ほろめくり、外を見てみる。すると、森が広がっていた。森といっても、その入り口付近なのか、ここら辺は、まだ木々のまばらで、日光が注ぐ明るく開けた場所だった。よく見ると、切り株となっている木が多い。この森が疎らなのは人の手が入っているからのようだ。


「この辺の森は開けておる。鉱山が近いのでな。あの森の入り口を、そのまま南へ進めば、南サガラだ」


 へえ。あの米を栽培しているという、南サガラか。森の入り口に通る道はある。だけど、その入り口からして、鬱蒼うっそうとした木々と下草したくさが茂っていた。


 とてもじゃないけど、この荷馬車では入れない。この荷馬車でかいから、というのもある。これが、小さくても、車輪が付いているものは、道に侵入している木の根やつたなどの障害物が多すぎて難しいだろうね。どうやら、南サガラに行く時は、徒歩でしか手段がなさそう。


「ま。これは、余談だな。ほれ。前方を見ると良い」


 言われるままに、前方をみると、岩山が接近していた。土がほとんどないため、露出しがちの木々の根がある、ごつごつとした岩場だ。高さはそれほどでもない。山というよりは、むしろ丘といったほうがいいかもしれない。


「おう。そうだ。そこに見える岩山が、魔鉱石が埋蔵されている魔鉱石鉱山だな。それと、ここは他では見られない、珍しい魔植物が多種存在する魔植物の宝庫だ」


 へえ。他と違う植生しょくせいなんだ。ここ。


「ふむ。ここの珍しい魔植物種と魔鉱石鉱山とは関係が深い。俺が知っているのは後世の写本だが、古代の書物にな。それによると、はるかな昔、今では考えられないほどの高い魔素含有量を誇る魔植物種がこの地に存在していたそうだ」


 ふーん。その魔植物って、どんなものだったんだろうね。


「ある時突然、土砂崩れか何かで、その魔植物が多量に埋まった。その埋まった魔植物の一部が腐らずに変性した。変性した魔植物体にもともと含有していた魔素粒子が空中へ逃げられずに時を超えて残った。それが魔鉱石だと記述されておる」


 あ。やっぱり。魔鉱石の成り立ちは石炭と似ているね。それと、この鉱山って古代から採掘されているんだ。うん。いいね。ロマンだね。


「それでも、これらの魔鉱石から漏れ出る魔素粒子が多量でな。この地域全体が、他所よりも空間魔素濃度が高くなっている。それで、魔植物だけではなく魔生物種全般の種類と生息数も多い」


 そうなんだ。


「この魔鉱石鉱山は、空間魔素濃度が特に高いことで有名でな。ラケルタ。お前のような魔動物にとっては、心地良い場所かもしれん。だが、魔術師でもない普通の人間の中には、気分が悪くなって倒れるやつが出ることもある」


 へえ。だから、ここで働くのは、従魔が多いのかな。


 この荷台にある、魔動物用の弁当と思われる、様々な大きさの包みが結構ある。昔、修学旅行か何かで行った、記念館とかで見た記憶がある、展示された炭鉱の話から、とても大変な仕事だろうなと想像はできるけど。


 そうこうとしている内に、荷馬車が停止した。


「旦那。無事着いたっす。何事もなくて良かったっすね」


 ピケルの声。前方の御者台ぎょしゃだいの方から聞こえた。


「おう。ありがとな。帰りも、よろしく頼むぞ」


「お任せください旦那。贔屓ひいきにしてくれてるっすから、もちろんっす!」


 へえ。カークって、従魔の魔動物だけでなく、人間にも懐かれているようだね。


 そして、荷馬車の荷台から降りた。


 うーん。気持ちがいいね。身体も軽くなったような気がする。これも、さっきの話にあった、空間魔素濃度が高いから、なのかな。


 ミルマノも、気持ちが良さそうだ。


 彼は、仕事で護衛だったから、荷台の中で、周囲の警戒をしていた。それって、何もなくても神経が磨り減りそう。うん。でも、ほんと。何事もなくて良かった。何もなくて無事なのが、一番だね。


 こちら側が、そうやって外でくつろいていた間、御者のピケルは、魔鉱石採掘場側の人間たちと従魔たちを呼びに行っていた。そして、何名かの屈強そうな人間と力強そうな、メセータとは異なるイヌ系の頭をしたルプスシエアン属の従魔たちと一緒に戻って来た。


 戻るなり、てきぱきと、荷台の中の弁当を建物の中に入れ、その代わりに大きな木の箱をいくつもその荷台に詰め込んでいた。あの木箱の中は採鉱した魔鉱石が入っているのだろう。


 その間、あのでかい6本肢の異馬いばは、荷馬車の馬装をかれて、のんびりと飼い葉をんでいた。


「それじゃ。あっしは町に戻るっす。帰りのは、ちゃんとしたのにすっから」


 ピケルはでかい馬に素早く荷馬車用の場装を整えて帰りの挨拶をする。


「おう。頼む」


 あのでかぶつ馬、なりはでかいけど大人しいのかな。あれはピケルだから大人しいだけかもしれないけど。


 メセータが、こちらに向かって、にこりと笑って挨拶をしてくれている。


『若造。またな。会える。楽しみにする』


 あ。メセータ。こちらは、ルークの自動意訳があるから、リザイア簡易語じゃなくても解るよ。


 といっても、こういうのはどう伝えたらいいのかな。簡易語で聞くメセータは、コヨーテのような頭部も手伝って、何か渋いネイティブ・インディアンのようで、かっこいい。


 そのことが伝えられないことを思い悩む間もなく、ピケルとメセータは御者台に乗り、6本肢の異馬を操って来た道を戻って行った。


「では、魔鉱石採掘場の長に会うぞ」


 え。あ。はい。

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