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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第5章 初めての町の外
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5-07 荷馬車

「ふむ。では、行こうか」


 そのまま、この街道を歩いていくのかと思ったけど。


「おう。いた。あれだ」


 カークは、すぐに立ち止まった。そして指を差す。


 その先を見る。すると、一台の幌馬車と、それに連なった馬装された馬のような生き物が一頭いた。


「あれは、採掘場で採った魔鉱石を町まで運ぶもんだ。だから、今の荷台の中は、ほぼ空だな。向こうにいる監督員らと従魔ら用の弁当が積まれているくらいだろ。朝夕は、人員と従魔が乗る馬車も出る。だが昼は、この荷馬車のみだな」


 へえ。そうなの。


 だけど、これは馬なの? うーん。確かに馬のような感じはするけど。テレビで見た北海道の輓馬ばんばのようにバカでかい。それに、よく見ると、その見た目が凄い。全身に硬質な外皮が鱗状に覆っていて、鎧のようになってる。とても頑丈そうだ。荷物を運ぶ輓獣ばんじゅうにもってこいだね。


 さらに、よく見ると、幾分か胴長で、がっしりとした肢が、6本もある。そう。昆虫と同じ6本肢の異馬だった。これって、どんな足運びをするのだろう。


 それはともかく。


 何で、町の外でまっているの。これ?


「ま。今回は、徒歩という訳にはいかんだろ。融通ゆずうしてくれるよう頼んだ」


 そう言ってカークが、荷馬車のかたわらまで行く。もちろん、こちらも一緒。


 そこには、人間の男の御者ぎょしゃがいた。彼の他に、毛むくじゃらで、山犬のコヨーテに似た頭を持った人間と同じような服を着ている生き物がいた。そう。魔哺乳類(マギア・マンマ―リア)系の人型知的魔動物、ルプスシエアン。長い槍を手にしている。正式な従魔だ。


 山犬頭のルプスシエアン属は、居住施設の食堂でも、数体見かけたことがある。これらは、カルニバルア目だからか、肉系ばかりを、もりもりとたくさん食べて、かなり目立っていた。また、ルプスシエアン属は多種多様で、かなり幅が広い属種だとのこと。


 今いる、コヨーテ頭のルプスシエアンは、普通の人間と比べて体格は少し小柄。なので、ファンタジーでよく出るコボルトと呼んだほうが通りがいいかもしれない。だけど、弱そうには見えない。むしろ筋肉質で、とても強そう。


 人間の御者は、普通の体格だけど屈強そう。それに、肌の露出部が傷跡だらけ。額に向こう傷らしいものまで付いている。これでは、山賊だと言われても、納得をしてしまうと思う。


「おう。すまんな。遅れたか」


「いや、大丈夫っすよ。帝国のさかん様」


「む。その呼称はやめろ。誤解を招く」


「そうすっか。あっしは、本気で思ってるんすっけどねぇ」


「では、思うだけにせい。口にはするな」


「旦那がそう言うんだったら、そうすっすよ」


「ふむ。そうしろ。で、後ろに乗ればいいのだな」


「すいませんけど、そうなるっす。これは荷物用なんで、居心地がいいもんじゃないすっけど。帰りは、ちゃんと人員用を手配してるっすから」


「気にするな。無理を言ったのは俺のほうだ」


『なあ。そこの若造。魔動物か? リザドリスクの臭いがすっぞ』


 え。この言葉の雰囲気は、リザイア簡易語?


『何、驚いてやがる。やはり、リザドリスクで魔動物か』


 うん。そう。こちらは、リザイア目リザドリスク科ミネティティ属種ということになっているね。


『俺。お前らの言語で話している。そうだろ? 通じて、いるよな。若造の反応。なら、何故だんまりなのか。声が出ないのか?』


「メセータ、どうしたっす? 坊ちゃんを見て、変な吠え方をしてるっすよ」


「ははは。そいつは良く分かっておる。こいつは人間の坊主ではない。魔動物だ。ほれ。従魔候補の首飾りと引き手が見えんかったのか?」


「おや。だんなも人が悪いっすね。連絡をもらった時は、いかにも息子と一緒だというような話しかたじゃなかったすか? 隠し子かと思ってしまいやしたよ」


「む。いや、それはな」


「それと、あっしの変換器は、メセータ用だと渡されてるっす。だけど、何も変換されていないっすよ。今壊れると困るっす」


「ふむ。この魔道具はかなり丈夫でな。その可能性は低いが、確認をしてみるか。どれ。貸してみな。ピケル」


 ピケルと呼ばれた御者は、自らの耳に付けていた銀の粒をカークに渡す。カークはそれを、いつもの付けている数個の銀の粒と反対方向の耳に付ける。そして、メセータに命じた。


「メセータ。普通に経緯を話してみろ」


『はい。仰せのままに、主様。その横にいる彼が、リザドリスク科の魔動物だと思いました。幸い、私はリザイア簡易語を知る機会を得ていましたので、彼と直接会話することを試みました』


 うあ。ルークの自動意訳で、言葉の性格が全然違う。これでは、メセータ自身のイメージが掴めないよ。


「双方とも同じ意味の人語に変換されている。大丈夫だな。ほれ。返すぞ」


 カークはピケルに銀の粒を手渡した。


「へい。どうもっす。これで安心っす。じゃあ出発するんで、乗ってください」


 荷馬車の荷台に乗る。カークは、こちらを先に、自らをその次、ミルマノを最後にして、その幌のある荷台に乗り込ませた。


 荷台の内部は広い。だけど、ピケルという御者が言う通り、生き物が乗るようにできていないようだった。それでも、魔鉱石を運ぶだけあって、その丈夫さだけは折り紙付きと言ってもいい。


 その荷台の端の方に、色違いの弁当の包みらしいものが二手の山になって置いてあった。多分、人間用と魔動物用で色分けしてあるのだろう。結構な数だ。


 すぐに、馬のいななきと共に、かたりと音がして荷台が動く。


 かつかつと、あの馬のでかい体躯に似つかわしくない、リズミカルな軽いひづめの音がした。


 こちらの知る普通の馬の歩様ほようと、さほど変化がないようだ。常歩なみあしの4せつの音。うん。そう。これは、雑学として知っているだけ。そして、たぶん、中央の脚は、前後どちからの脚とそろえてあゆんでいるのだと思う。


 けど。そうだね。馬の蹄の音。今、荷台だとはいえ馬車に乗っている。ファンタジー世界の町の外に出たことを実感する。


 これも旅といってもいいのかな。


 町の外に出て、怖いという気持ちもあるけど、何だか、わくわくとする。


荷馬車に揺られていく。


◇荷馬車ってよく聞くけど、実際はどんな乗り心地なのでしょうね。


◇この物語とは別に、ジャンルの異なる童話で新規小説の執筆を始めました。小説家になろう内の童話ジャンル限定企画「冬の童話祭2019」[https://marchen2019.hinaproject.com/site/about/]用の物語です。

 その企画内イベント設定を用いた話を書いています。動物たちが話をするのは、当物語と似ていますが、童話なので、それなりに、ほんわかモードの予定です。

 といっても、今書いているのを見ると文体はこの物語とほとんど変わらないかもしれません。短い物語となる予定ですが、連載の形で投稿しました。どうぞ、よろしくお願いします。


 じゃあ、当物語も童話? いや。それにしては、ハードすぎるような気がする。


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