5-06 外出手続きと町の門
◇追加修正をしました。
受付の別室で、訪れた客とちょっとしたお茶会をしていた。
和やかな時間が過ぎる。甘いものを食べたカークは、機嫌が良くなり、ベン君のお母さんと打ち解けて、魔独楽石の依頼を快諾していた。
だけど、ミルマノが茶を次々と注したものだから、皆、腹の中が茶で、たぽたぽになる。それで、少し休憩をしてから、ベン君のお母さんと別れた。
受付で、外出手続きをする。特に変わりはなかった。いつもと同じく受付の端子に手かざすだけだった。
ついでに、画面を見る。もちろん、ルークの自動意訳。
[魔動物召喚魔術師(主):カーク・フェアフィールド]
[外出・外出先:ニサン伯立魔鉱石採掘場]
[付記:特殊任務あり]
[従魔:ラ・プリメーラ・エストレーリャ‐ミル・マノ]
[通称:ミルマノ]
[伴外出:護衛]
[従魔(従魔候補):‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’]
[通称:ラケルタ]
[伴外出:野外実習・特例]
ん。あれ。ミルマノの契約名のラ・プリメーラ・エストレーリャって何だろう。そのように、注目をしていたら、ルークの自動意訳で[一番星]となった。
へえ。ルークの自動意訳は、再変換もできるんだ。
ついでに、こちらの契約名、‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’の再変換を試みたけど、どうやらこれは、できないらしい。
これはすでに‘陽気な古トカゲ’と知っている。だから、いいよ。他を読もう。
えと。こちらの外出の名目が、野外実習で特例なんだね。それに、カークの項に行き先が魔鉱石採掘場と明記してある。
ん。あれ。カークの項の付記に、特殊任務とある。これは魔独楽石のことかな。確かに、別室での依頼だけど、何か大げさだね。
「何だ。解りもせんのに、覗くのか」
え。
「この文字を解する、現生の知的魔動物はおらんだろうに」
あ。そゆこと。じゃあ、絵文字崩れも、単にコピー機のように書けるだけと思われているのかな。
ある意味、それは当たっている。朧げに何を書きたいかと思うことで、文字列が変わる位なんだ。書き上がったのを見ても、その文字の意味が解る訳ではない。ルークの自動意訳でも変換されない。
こちらは今でも、文字が全く解らないことに、なっているようだね。厳密に言えば、その通り。文字は自動意訳で変換しているだけなのだから。
外出の手続きが終わり、この建物の客が出入りする方の扉から、外に出る。
うん。晴れている。とてもすがすがしくて、気持ちがいい。そう。今日の朝飯は早かったので、昼というよりは、まだ朝のほうに近い。
……だけど。
はい。そうです。従魔候補のこちらは、引き手付き。
うーん。間近で、自由に歩くミルマノを見て、早く正式な従魔になりたいと思う自分がいる。もちろん、その前に、元の世界に帰ることができるんだったら、元の世界に帰りたいと、今でも思っている。
そして、見知った道を普通に歩き、町の中心の繁華街に着く。この先に町の門があると聞いている。
その繁華街の真っすぐに通った幅広い道を、太陽が差す方向、南へと進む。
昼前だからだろう。数多くの人間が行き交い、いたるところで食べ物の良い香りが漂う。あの[ぐりる・まるべりー]の看板も目にした。
この繁華街の道は、何度も通ったので知っている。だけど、通るのは、朝早くと、夜近くの夕方のみ。だから、ほぼ店が開いてない時間帯でしか、こちらは通らない。
基本的に、従魔候補は建物の外での仕事はできない。なので、日中の繁華街を出歩いたことがない。
そう。今は、様々な店が開いている。そして、凄い人込み。とても賑やかだよ。日中のニサンの繁華街は、文字通り華やいでいる。
あ。屋台もあるんだ。へえ。買い食いとか、楽しそう。
カークにねだろうかな。できたら、ゆっくりと見たいよ。
だけど、今は町の外に出る途中。カークは少し急いでいるようで、足早に歩いている。なので、少し引っ張られがち。
うん。こちらも、よそ見をせずに歩こう。ちらちらと、こちらに向ける目線も気になるしね。
最近は、施設外の人間や依頼者はもちろん、この場所でも、朝夕の時間帯の人間たちには、そんな奇異な目で見られなくなっている。だから、余計に気になる。
そんなこんなで、町の門に着く。町といってもニサンは城下町。なので、この町の門は、とても立派だ。
門は石造りの建造物で、門そのものに厚みがある。そこに詰め所のようなものが備わっていた。門を通過しようとすれば、必ずそこを通る造りになっている。その詰め所の中には、兵士のような恰好をした人間が数人いた。門番だ。
「ふん。ま。こんなもんか」
門前では、数人の人間が並んでいた。町の外に出る人たちの列。カークはその列の後ろに並ぶ。
そう。ファンタジーでお馴染みの門での検査。それの順番待ちだった。
ほどなくして、詰め所のほうに呼ばれた。
「あ。これは、カークさん。お久しぶりです」
門番の一人が、カークに声をかけた。
「おう。キーエン。久しぶりだな」
キーエンと呼ばれた、人当たりが良さそうな門番は、カークの返答に笑みを湛えていた。だけど、こちらを見て驚く。まじまじと見る。そして、何事もなかったかのように、微笑む。
「従魔候補のラケルタ君ですか。噂はかねがね聞いていますよ。子守が得意な擬態魔動物だとか。その恰好ですと、人間と見間違えそうですね」
「ま。町の外に出るのだ。それなりの恰好をさせんとな」
「そうですか。それでは、恐れ入りますが、こちらに手をかざして下さい。お付きの従魔たちも同じく」
キーエンと呼ばれた門番は、受付口にある、施設の受付にある端子と同じようなものを示す。だけど、ここには、あの電子ペーパーのようなものは見当たらない。その代わり、占い師が占う水晶玉のようなものが設置してあった。
この詰め所の受付口はこぢんまりとしている。だけど、内部はそれなりの広さがありそう。そして奥に扉があり、その隙間から上り階段が覗いていた。
「ほれ。次は、お前の番だぞ。ラケルタ」
え。あ。はい。
カークに促されて、端子に手をかざす。
「はい。従魔たちも問題なしですね。カークさん、お疲れ様でした。それでは、道中お気をつけて」
門番のキーエンは、そう言って、穏やかな笑みを浮かべた。
そして門を出る。そう。町の外。その視界の中央には、日に照らされた幅の広い整備された石畳の道。その両端は、平らな草原が広がる。
そして、その先には、鬱蒼とした森が広がっていた。
いよいよ、町の外です。




