5-05 受付の別室と依頼
受付にある別室。
ほとんどの依頼主は、受付で依頼を済ます。だけど、込み入った話がある場合、この部屋で相談をするとのこと。
こちらは、もちろん、この部屋に入ったことはない。今回が初めて。
この部屋は普通と言っていい。居住施設にある分室のように無駄に華美で豪華な装飾のある空間ではない、適度にデザインされた応接室。
この部屋は、あの分室と比ぶべくもなく小さい。調度品のランクも下だ。でも、その種類と按排は似たような雰囲気がある。
そう。それなりの装飾が施されたチェストがあり、部屋の中央に質の良さそうなソファーとローテーブルがある。もちろん、シャンデリアはない。代わりに、白い貝殻ようなもの模した品のよい照明器具らしいものが壁にあった。これは、魔道具なのだろう。
ん。あれ。お客様?
普通とか、ありふれたとしか言いようがない、ご婦人が一人、応接室のソファーに座っていた。
「おう。入れて良かったのか? ミルマノとラケルタは、人語を解するぞ」
カークが問う。
「いいのよ。むしろ、聞いていて欲しいの。よろしくお願いします」
彼女は立ち上がって答え、会釈をした。
んー。この女性は、どこかで見かけたような気がする。
あ。[ぐりる・まるべりー]で働いた時の最初のお客様、ベン君のお母さんだ。
う。ぐ。あの時は、ごめんなさい。いろいろと、粗相をしてしまいました。ベン君は、元気にしていますか。今なら、子守で鍛えられたので、もっと優しくしてあげれると思います。
「む。どうした? 項垂れおって」
「あらあら。いいのよ。あの時のことを気にしてくれているのね」
彼女の方が解ってくれているよ。何か、微妙な気分。
「む。ん。ささ、ご婦人。どうぞ楽にして、ご着席下さい」
何かを含めたカークが、彼女にソファーに座るようにと勧める。
「ありがとうございます。それでは遠慮なく」
ご婦人が会釈をして、ソファーに座る。
「ミルマノ。茶を頼む。お客様用のだ」
「まあ。お気遣いなく」
ミルマノは、丁寧にお辞儀をして、部屋から出ていった。
カークが、ご婦人と向かい合わせに座る。こちらは後ろに立つ。
「ふむ。して、折り入っての話とは、どうされた」
「いえ。実は……私の息子、ベンの件でね」
ご婦人は、そう言って、こちらを見る。
え。あ。いや、カークさん。こちらは酷いことをしていないって。ほんとだよ。だから、振り向いて、そんな目で睨まないで。お願い。恐いよ。
「あらあら、違うのよ。そういうことじゃなくて」
ご婦人が、慌てるように間に入ってくれた。
「そうではない? では、何だな」
いつもの調子のカークに戻った。ふう。
「もうすぐ、ベンの誕生日ですの。それでね」
彼女は、また、こちらを見る。え。何なの。
「ラケルタ君位の年の子だったら、まだ解ると思いますわ。ベンの気持ち」
「む。擬態魔動物の実年齢は、見かけと異なるのが多いぞ」
「あら。そうなの。だけど、子守で有名ですよね」
「ま。そうだな。で。それと関係があるのか」
カークさん。膠もないよ。いいの? 彼女、お客様でしょ?
「ええ。あるわよ。解ってくれて、ちゃんと探してくれるわ」
彼女は、熱意を込めて語ってくれた。だけど、ちゃんと探す? 大切なものでも失くしたの? こちらは、この世界の物品って、まだよく知らないよ。買い物なんてしないし、私物も持っていないのと同然だからね。
「そうね。じゃあ、これを見てくださいな」
彼女は、数個の小石を、麻のような袋から、ころころとテーブルに出していく。正8面体をした石だ。手で握って隠れるほどの大きさ。透明で、それぞれ色が違うけど、どれもやや白く濁り平べったい感じの輝きを発している。
これは、劈開面で割った、蛍石に近いかもしれない。だけど、知らない石だよ。それに、あまり魅力を感じるような石でもない。
「魔独楽石か。ずいぶんとマイナーだな。何。お前の坊主は、鉱物のコレクションでもしているのか」
あ。カークが乗る気になっている。好きなんだね。鉱物コレクション。
「あら。どう答えましょ。この石の収集は、しているわ。だけど違うのよ」
それもそうだね。ベン君はまだ小さい。今、そんなディープな鉱物コレクションをしていたら、末恐ろしいよ。楽しみでもあるけど。
「そうか。で。何だな」
こんなにがっかりしたカークも珍しい。それだけ期待をしていたのかな。
カークが横に招くので、そこに座って、一緒に彼女の話を聞いた。
それによれば、子供たちの間で流行っている、魔独楽石投げという遊びがあり、それ用の魔独楽石を探して欲しいとのこと。
ベン君の誕生日プレゼントのサプライズに、変わった魔独楽石が欲しいとか。
魔独楽石は、魔鉱石と同じ鉱床から産出される鉱物だとのこと。魔独楽石自体の産業的価値は全くない。だけど、うまく飛ばすと空中で良く回る。
それで、魔鉱石採掘場の監督員たちの間で、空中で魔独楽石を投げ合い、先に落ちるか、空中で回るのが止まるか、割れた方が負けという、昼休みの暇つぶしから始まった遊びがあるそうな。
その監督員たちが、魔独楽石を家に持ち帰って、その子供たちの間で広まった。今では、町の他の子供たちの間でも、流行っている遊びだそうだ。それを商機と見て、魔独楽石を売っている店もあるとのこと。
だけど販売をしている石では、誰でも持っているから、サプライズにならない。
たまたま今日、受付で、前に出会った従魔候補が、日帰りで魔鉱石採掘場に行くということを漏れ聞いて、依頼を思い立ったとのこと。
へえ。今日行くとこって、魔鉱石採掘場なんだ。
あれ。カークが渋い顔をしている。
あ。そうか。カークも、今日の行き先が、サプライズのつもりだったんだ。
ん。ミルマノがお茶を持ってきたようだ。随分と時間がかかってたね。
え。ワゴン? あ。
自らのを含めて4杯分、紅茶のようなものを淹れたようだ。それに、菓子を入れたタワーのような入れ物まである。人間用のと、魔動物用のも。
カークが、呆れたような顔をしている。
だけど、持って来たのは仕方がないということで、カークはベン君のお母さんに許諾を請うていた。そして、軽いお茶会のようなものを一緒にすることになった。
うーん。いい香りだね。いいんじゃない?
ミルマノも、こんなところがあるって判って、安心をしたよ。
プレゼントを決めるのは、結構大変ですよね。




