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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第4章 従魔候補のお仕事
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4-17 分室へ

◇サブタイトル再変更をしようとしましたが、どうもしっくりとしなかったので、元に戻しました。


子守の仕事が終わって。

 あ。職員さんだ。じゃあ、今日の仕事は終わりだね。


 子供たちも、赤い夕陽が傾く中、元気に嬉し気な声を立てて親元へ帰って行く。子守は大変だけど、こんな子供たちを見ていると、微笑ましい。


 こちらは、施設内の仕事場だけど、普通に受付に行って、ヒト型従魔の居住施設に戻る。もちろん、従魔候補は人間の職員と一緒で、引き手付き。


 今日は、カークから直々の呼び出しを受けた。


 それで、分室へと向かう。


 この分室というのは、ヒト型従魔の居住施設内にある、契約主のプライベートな応接室とのこと。


 こちらの自室では、扉はあるけど鍵がないので、誰でも入って来れる。一方で、カークの主室は、別棟べつむねにある。こちらは従魔候補。彼自身か人間の職員の誰かに、引き手で連れていってもらう必要がある。


 知的魔動物である従魔は、完全でなくても人間の言葉を理解するのが、前提条件となる。そう。皆、魔動物間の言葉が解らなくても、人間の言葉を理解する。


 全ての話が、中のものに聞かれていい話とは限らない。そのための部屋だと聞いている。魔道具で魔法的な結界もほどこされているとか。


 その応接室の場所は、前から聞いていた。だけど、行くのは今回が初めて。


 居住施設の石段を上る。この石段は勾配が緩やかな分、段数と折り返しが多い。いつもよりも、さらに上の階まで。そう。その分室は、最上階にある。


 その最上階の階段室にある、豪奢な扉を開けて廊下に出る。


 この時、むわんと軽い抵抗を感じた。それを振り切り廊下を歩く。ふっかふかな絨毯じゅうたん。だけど今、その絨毯を堪能たんのうする気分じゃない。


 あ。ここだ。


 草苺の葉と実のようなものを意匠とする彫り物が施された重厚な木の扉。


 うー。しかられに入るのには、立派すぎる扉だよ。


 その扉の前で、身繕いの確認をする。


 うん。おもに首飾りとポンチョの位置がずれていないかどうかだけどね。


 心音が高鳴る。流石に緊張するよ。


 とん。とん。とん。


 3回ゆっくりとノックをした。今までの経験上、たぶんこういうのは、こちら側の感覚と同じだと思う。4回の方が良かったかな。その辺は判らない。


「おう。来たか。入れ」


 落ち着いたカークの声がした。扉を開ける。


 カークは、テーブルの奥の机の方で、椅子に座っていた。


 どうやら、いままで書物を読んでいたようだ。古くて分厚い鍵付きで革のような質感がある表紙。とても立派な装丁の本。今は閉じられて、横に置いてある。


 一応、こちらも声を出しておこう。気持ちは、失礼します。のつもり。


「クツワーナウ ティアー」


 その後、お辞儀をする。


「随分と丁寧だな。ラケルタ。仕事先で習ったのか」


 え。あ。そうとも考えられるね。実際、従魔候補としての仕事で覚えたマナーも、いくつかある。


「ここで、堅苦しい人間の真似事をせんでも良い。なら、伯爵様の城に行くか? ま。城内でも、従魔候補は礼儀なんぞ必要ない。暴れんかったらそれで良い」


 その声は、いつものように、優しく穏やかだ。


 あれ?


「何、きょとんとしておる。こっちに来い。このソファーに座ると良い」


 彼は、立ち上がって移動し、ソファーに座って手招きをする。


 うながされるまま、対面の位置に座る。かなり造りの良いソファーだ。高級な家具によく見かける、優美な猫脚カブリオールレッグをしている。


「どうした? 表情が硬いぞ。む。そうか。お前は、この場所が初めてだったな。何。この部屋の造りは、例の見た目の件の影響だ。気にするな。ははは」


 カークが笑っている。それも、とても楽しそう。


 例の見た目の件の影響というのは、王国の偉いさんが、王の威信を示すには、見た目が必要とか言って、この居住施設を無駄に豪華にしたという話だ。


 あれ。こちら、叱られに来たんだよね? 何か、違うような気がする。


 少し余裕ができて、辺りを見渡せば、カークの言う、例の見た目の件に納得をする。この部屋は広くて、物凄く豪華。きらびやかともいう。


 いつかテレビでみたような、フランス・ロココを思い浮かべるような、優美な調度品が、一揃い置いてある。その中央に、同様の猫脚のソファーとローテーブル。高い天井には、きらきらしたとした、重そうなシャンデリアがぶら下がっている。


 そのシャンデリアをほうけるように眺めていたら、ごく近くで強い視線を感じた。


 え。


 見ると、カークが、こちらに近づくようにして、巨大な図体を乗り出していた。


 真剣な眼差しだ。


「ここに呼び出したのはな、ラケルタ。お前、文字が書けるだろ?」


 え。あ。そう来た。だけど、カークって、そういう性格だった?


「どこで覚えたと問うて答えられても、俺は解らん。だから問わんが……」


 カークが、近くの豪華な猫脚チェストから厚手の紙のようなものを取り出す。


「ここに書いてみろ。昼に地面に書いていたやつだ」


 その厚手の紙とインクと羽ペンをこちらの方へ寄こす。


 え。ええー?


「ほれ。遠慮はいらん。俺とお前の秘密にしといてやる。だから、書け」


 え。あ。うん。


 ……あんな出鱈目な文字。とても恥ずかしいけど。


 カークの睨みつけるような眼差しのもと、こちらは昼間の出鱈目な絵文字を書く羽目になった。


 でも、こうなったら、仕方がない。えいと腹をくくる。そして、昼間のと同じ絵文字崩しを書いた。


「うむ。ふむ。ほう。そうか」


 カークが、こちらの絵文字崩れを見て、何やら感心したようにうなっている。


「やはりか。これは、古代ドラコラン文字だな。書物では、幻とされている。だが、俺は、これと同じ文字を遺跡の壁画で見ている。しかもだ」


 そう言って彼は、何か所か羽ペンで書き足していく。


「どれ。試してみるか」


 そしては、懐の革袋から、きらきらとした、砂粒のような赤い小石を取り出す。


 あ。この色の感じは、魔鉱石。


「ここだ」


 カークが、ぽとりと絵文字崩れの中央に赤い砂粒を落とす。すると、その紙から、あの独特な周波数が発生した。同時に、赤い砂粒から魔素流が動き出す。


 そして、その赤い砂粒から、青白い炎が縦に長く現れては消えた。


「ほう。やはり、これは魔法紋だな。ラケルタ。他も書けるか?」


 彼は、紙のようなものをさらに差し出す。こちらは、促されるまま書いていく。何も考えなくても、すらすらと出てくる。


「ふむ。これは興味深い。幻とされる古代ドラコラン文字。しかも、不完全ながら魔法紋が描けるとはな」


 カークが、こちらに満面の笑みを浮かべる。


「ラケルタ。次のお前の休日は、町の外に出るぞ。面白いものを見せてやろう」


◇次話から章が変わります。次章は、町の外にも出る予定です。

 ここに読みに来てくれてありがとうごさいます。とても嬉しいです。

 ご感想やご意見なども歓迎します。今後とも、よろしくお願いします。


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