4-13 力自慢と叱責
エンタが羨ましい。
こちらは、棘球形態になった、エンタを見つめている。
ほんと、特殊能力っていいよね。
背後に気配を感じた。
ん? 何だろ。
後ろを振り向くと、でこぼこコンビの片棒。そう。ひょろ長い方のリザドリアン属亀種のイエンがいた。
イエンは、何か萎びた胡瓜のようなものを、ぽりぽりと齧っている。その姿は、正に、服を着た河童だよ。
イエンも、こちらと同じく、棘玉になったエンタを見つめる。
『おい、相棒。食堂で丸まって、何してる。腹でも痛いのか』
エンタは、そのイエンの声を聞いて、その棘だらけの球体を解き、栗鼠のようなふさふさの尻尾がある、栗鼠耳アルマジロに戻った。
『こいつに、俺の先輩として凄いところを見せていたのだ』
『そうか。そりゃ、いいことだ。オラも一丁、お披露目するか』
ルーク。遊んでいるでしょ。
- ククク。ナオトのイメージに合わせた。実際も似たようなものだ -
がたごと、ずずず……。
何か、重いもが動く音する。
え。
今度は、イエンが、巨大な中央テーブルを、軽々と片手で持ち上げていた。
立派な装飾が施された重厚な石造りの白亜のテーブルだ。どう見積もっても、トン単位の重量がある。とてもじゃないけど、信じられない光景。
もう片方の手には、先程の、齧りかけの萎びた胡瓜のようなものを握っている。それも、時々その胡瓜のようなものを、ぽりぽりと齧っている。
力が強くて凄いのは判る。でも、何かが違う。
うん。これは嫌だ。格好悪いよ。
だけど、どうして、あの細身で、あんな力が出るの?
- 魔動物特有の付加魔法だね。リザドリアン属亀種特有の筋力増強魔法だ。だが、恐らく本人は魔法を使用してると思っていない。魔法を意識しなくても発動する。村の皆が生まれながらにして持っている能力だからね -
え。そうなの。
- 先程の魔アルマジロ科の50歩、君のいうエンタだがね。彼も基本は同じだよ。彼の場合、風の魔法が入っていたから、いたずらをしてやった。ククク -
あ。やっぱり。いたずらだったんだ。
だけど、その説明だったら、魔法の意識をしなくてもいいように取れるよ。
ねえ。臭覚識別の魔法を意識する訓練って、何の意味があるの?
- 生来的に保持している特殊能力としての魔法を発動するだけなら、魔素流の動態を知らなくても全く構わない。それでも、努力をすれば能力の向上は可能だ。だが、それでは、発展性を望めない -
へえ。じゃあ、魔法を意識する訓練って、魔素流の動きを知ることなんだ。
- その通り。それで君は、様々な魔法を使ってみたいと思わないかい? -
あ。そういうことか。だったら、魔法を意識する訓練をするよ。
うん。色んな魔法を使って、生き残る確率を上げたい。
- もう戻った方が良い。ナオト。身体の制御が、お留守になっているよ -
え。あ。うん。じゃあ、戻るよ。
いつの間にか、ルークの意識の表層にお邪魔をしていたようだ。
意識の表層に入るのも、魔法だとのこと。これも意識をしないとね。戻るのも、そうなのかな。うと。うん。そうみたい。
意識を身体の方に戻して、周囲を見渡す。
そしたら、周りの皆も、イエンの方を見て唖然としていた。
どうやら、イエンの大テーブルの重量挙げは、周りにとっても初めてらしい。
エンタがこれ幸いと、小さな体をちょこまかと動かして、雌性リザドリアンに近づいていった。そして、テーブルの方に釘付けになっている彼女たちのその手に、そっと口づけをしている。
そう。まるで、騎士が淑女にするような、恭しい仕草で。
へえ。本当に、お目当てだったんだ。
ここに、アイラちゃんはいない。何故か、ほっとする自分がいた。
え? ないない。それは、絶対にない。
アイラちゃんはマスコット系で、リザドリアンとしては、とても可愛らしい。
パステルカラーの青とピンクの組み紐のような“アイラちゃんファンクラブの腕章”を見る。ルークは、もう要らないとのこと。それでも、カークの手前、いつも左の腕に巻いてはいる。
だけど、こちらの好みじゃないって。これは、何かありそうだ。
先程のルークの説明からすると、魔動物は、特殊魔法を持つものが多いのかな。だとしたら、アイラちゃんのは、よくある誘惑の魔法かも。アイラちゃん自身も、それに気がついていない可能性がある。
でも、それでそうだったら、どうする? どうしよう。うーん。
アイラちゃん問題の原因解明の糸口が見つかった。だけど、対処方法がね。
そんな感じで、こちらが違うことを考えている間、イエンは、大テーブルを持ち上げたままだったようだ。
しばらくしたら、その大テーブルをちゃんと元に戻していた。
その後、イエンは、騒ぎに駆け付けた従魔長のゴンザ氏に食堂の個室に呼ばれた。その個室で、大騒ぎの原因を作ったということで、イエンはゴンザ氏から大目玉を食らっていた。
それを、食堂にいた皆と一緒に、そっと覗きにいった。
ゴンザ氏も、怒ると怖い。
威嚇をするように、あの先に棘のある尻尾を、ばっさばっさと振りながら、大口を開け、ずらりと並んだ鋭い牙を向けて、叱る。
あの鋭い牙のある口で齧られたら、骨まで砕けそうだ。
今回は、同じリザドリアン属同士。たぶん言葉もスムーズに通じているはず。
一方で、人間語は解るけど、簡易とされるリザイア簡易語も全く通じない科種の魔動物も、この居住施設にいる。だから、ああなってしまうんだろうね。
イエンのひょろ長い姿が、よけいに細くに見えた。
可哀そうだけど、彼がしたこと。
こちらも、叱られないように、ちゃんとしよう。
命には係わらないけど、あんな目には、遭いたくない。
ルークのいたずらがなかったら、こちらが拍手をしたエンタと一緒に、ゴンザ氏に叱られていたと思う。
うん。ラッキーだね。
何となく幸せな気分。




