4-08 今日の仕事が終わって
久しぶりに、伸びをします。
うーん、っと。
伸びをする。
いつものように、手を下にして。
今、こちらは、制御休止状態。だけど、この状態で保定魔道具がどうなるのかは知らない。
あの嫌な倦怠感が襲ってきたらと思うと、身震いがする。
だから、調べたくもない。
今は、特にね。
そう。今回の仕事は、ほんとに大変だったよ。
その仕事が終わって、ほっとしているところだ。
「ラケルタくん。たいへん良くできました。ありがとう。助かったわ」
扉のほうから戻って来た、シェリーさんが微笑みながら、こちらを褒めて労ってくれた。
お役に立てれたようで、何よりです。
そんな感じの気持ちを込めて、にっこりと微笑んで返す。
何か、彼女の顔を見ていると、自然な笑顔になれる。
「そうね。下手に人間のアルバイトを雇うより、何倍も良かったわ」
それは、苦労した甲斐があるってもんだよ。うん。
「今日は、単純な力仕事をお願いする予定だったのよ」
力仕事じゃなくて良かったよ。
悲しいけど、こちらは、力なしのようだからね。
「だけど、あなたは可愛くて見栄えがするわ」
えー。やっぱり、シェリーさんも、可愛く見えているのか。
うーん。この身体は若いけど、幼くはないよ。
何で、かっこ良く見えないの?
あ。もっと酷かった。女の子と間違えられたんだった。だけど、何故?
「それに、人間語の理解力が高い擬態魔動物って、どれくらいできるか試してみようと思ってね。配膳だけではなくて、給仕全般をお任せしてみたの。まさか、言語の理解力が、一般成人並みか、それ以上だなんて、思ってもみなかったわ。無理をさせちゃって、ごめんなさいね」
そうか。普通は、こんなことをしないんだね。それで納得をした。
「そうそう。お口に合うかどうか判らないけれど、賄いは、いかがかしら。リザドリスク系の魔動物は、人間の食べ物も大丈夫だと聞いているけれど」
こちらは、リザドリスク科じゃなくて、ドラコ―科らしいけどね。どちらにしても、人間の食べ物を食べても大丈夫だよ。
あー。でも、久しぶりに食べたい。人間が食べる食事。
施設の食堂では、ミランダさんを最近見かけていない。そして、リザイア用の保存食ばかりになった。それも悪くはないけど、何か物足りなかったんだよ。
給仕をしていた時は、仕事だと割り切っていて、気にしていなかった。だけど、食事を勧められた今は、食べたくて、たまらない。
はい。頂きます。是非とも、食べさせてください。
精一杯、笑顔を振り撒いて、こくこくと頷く。
「あら。随分と嬉しそうね。それじゃあ、どうぞ召し上がっていってくださいな。ねえ、あなた。ラケルタくんの分も、お願いね」
厨房の奥から「うーす」と言う返答があった。ハンクさんだろう。
しばらくすると、旨そうな香りが厨房から漂って来た。
「そろそろ、できた頃合いよ。さあ、ラケルタくん、行きましょ」
シェリーさんと共に厨房に入る。すると、ハンクさんが深皿に料理を取り分け終わったところだった。
その深皿の中を見ると、野菜たっぷりのスープに入った、煮込みハンバーグのようなものが入っている。
とても旨そうな香りが、鼻腔を擽る。
ごくりと、喉が鳴る。
「ふふ。お預けは辛いわね。ささ、この椅子に座って。このスプーンを使ってね」
カウンターに、3人横並びに、座る。
こちらは、その中央に居る。
何だか、この夫婦の子供だったかと、錯覚をしそうだ。
「あら。勧められるのを待っているの? 可愛いのね。ふふ。さあ、召し上がれ」
はい。待っていました。それでは、頂きます。
軽く手を合わせて、スプーンを手に取った。まずは、気になっていた煮込みハンバーグを口に含む。
お。旨い。想像していたよりも深い味だ。
魔素系の旨味は存在しない。複雑なアミノ酸系の、とても懐かしい旨味だ。魔素系でなくても、こんなに深い味が出せるのか。
ハンクさんの腕って、半端ないかも。この店が人気なのもよく解る。
スープには、葉物をはじめ、豆、茎か根のようなものまでが入っている。賄いだからそう言うものか。スープを口に含む。
うん。これも、味わいが深いよ。
メインの煮込みハンバーグとは違って、淡泊でどこまでも優しい味だ。この濃淡のコントラストがたまらない。
旨いな。
何故か、声は出ていないけど、じんわりとした幸せな味に、満足をした。
今日は、大変だったけど、これでいいよ。ほんと。
「まあ。ラケルタくんは、本当に美味しそうに召し上がるのね」
「そうだな。種族を超えた旨い料理の探索もいいな」
「ふふ。あなた、頑張ってくださいな。応援しますわよ」
出された賄いを全部食べて、腹一杯になった。
そんなタイミングで、ダリアさんが迎えに来た。
その時、ちょっとゲップをしてしまったら、ダリアさんに嫌がられた。
う。ごめんなさい。
ダリアさんとシェリーさんとで、また何か、ビジネスライクな会話をしている。
うとうととしていたら、シェリーさんが話しを中断して、別室にと勧めてくれた。それで、勧められるまま別室に行き、着替えを済ませて少し寝た。
シェリーさんに、優しく起こされて、起きた。
すぐにダリアさんが、こちらへの確認もなく、従魔候補の首飾りの金具に引き手のフックを留めた。
何故かダリアさんは、とても冷たい声で、施設まで戻りますよと言って、こちらの引き手を引っ張って来る。
そうか。もう帰るのか。何だか、とても名残惜しい気分だ。
精神的に後ろ髪を引かれながら、物理的に引き手で引かれて、町中の夜道を歩いて施設まで戻った。
施設の夕飯を抜いたら、オメエがメシを食わんとは、体調でも悪いのかと従魔長のゴンザ氏が心配をしてくれた。
ありがとうございます。ただ、満腹なだけですよ。
お暇の挨拶で、お辞儀をしたら、少し、げっぷが出てしまった。
うん。ほんと。たくさん食べたからね。
そして、自分の部屋へと戻った。
食べ過ぎ。




