4-06 店での応対
開店してすぐの、がらんとした、店の中。
今、ぐりる・まるべりーという、店にいる。
そう。客としてではなく、働き手の従魔候補として。
……だけど。どうする?
テーブルの準備ができた。
これから、お客様の対応をしないといけないらしい。
ここに、魔動物が一体、ぽつねんと居る。
そう。こちらは、配膳給仕はできる。だけど、受けた注文が伝えられない。
あ。シェリーさんが、手招きをしている。
どうやら、こちらを呼んでいるようだ。それで、今居る場所から、シェリーさんが居るカウンターへと移動をした。
「あ。そうそう。注文は、この用紙にチェックしてもらってね。これをここに渡してくれたらいいからね。」
シェリーさんは、厨房からカウンター越しに顔を出して、[メニュー]と書かれた高級紙の束と共に、羽根つきペンとインク壺を出す。
あ。そういうこと。なるほどね。はーい。承りました。
良かったと思う安心感から、自然と口角が上がり、笑みが零れる。
それを見たシェリーさんも、にっこりと笑ってくれた。
あ。笑顔が素敵だな。
だけど、彼女は、店を経営しているんだ。ある意味、当然か。
それから、こちらの手元を見る。
へえ。こんな高級な紙もあるんだ。ここ。
そう思って、渡された紙束をよく見る。
すると、それは紙というよりは、何かの葉を、丸ごと干したもののようだった。
そのまま、葉の細かい繊維が、よく漉いた、しなやかな和紙のような感じになっている。こんな感じのものも、趣があっていいね。
ん。入り口の扉の方から、足音がする。
からん、ころん。
何だか、昭和の香りがするような、ベルの音。
あ。客が入って来たようだ。笑顔、笑顔っと。
「こんにちは。あら。シェリーさんいないの?」
ごく普通の、ありふれた女性の声。
最初の客は、常連客のようだ。これなら、大丈夫かな。
いそいそと、入口の扉まで行き、その客を出迎える。
そこには、聞こえた声と、さほど雰囲気が変わわらない、ご婦人が居た。
「まあ。可愛い坊やね。どうしたの。アルバイト?」
「違うよ。ママ。見て。彼の首飾り。従魔候補のだよ」
彼女の横に、小さな男の子が居る。4から5歳児といったところか。言葉を操るのが楽しくて仕方がない年頃なのだろう。
んー。何だろ。この子は、変に小憎らしくて、気に入らない。
「あら。ほんと。こんな可愛い魔動物さんもいるのね。お店のお手伝いなの?」
可愛いと、何度も言われるのに、引っ掛かりを感じた。
今は、気にしてもね。気にしない、気にしない。
気持ちを、ぐっと堪えて、にこやかに頷く。そして、その親子の客に、テーブルまで手の平でその先を示しながら誘導をする。
この場合、どちらが先かな?
ここは形式ばらないのだから、どちらを先にしても咎められないだろう。それで、とりあえずレディファーストということで、ご婦人に椅子を勧めた。
彼女は、本当に公爵や侯爵とかのご婦人ではないとは思うけれど。たぶん。
ここは、ドイ王国だというから、実際に存在はするのだろう。でも雲の上の人間だろうから、こちらは関係ないけどね。
引いた椅子に、彼女が座ったら、その椅子をテーブルへ。
ん。あれ。重い。動かない。
え? これって、こちらが、力なしってこと?
「あらあら。いいのよ。お気遣いなく」
「魔動物のくせに、弱いんだー」
「ベン。だめでしょ。従魔候補も人語を理解すると聞いていますわよ」
「ごめんなさいね。気を悪くされたかしら」
彼女は自分で、椅子をテーブルに近づけた。
ちょっと、自らの非力に傷ついたけど、こちらこそ申し訳ない。
それで、大丈夫だという意味として、笑顔を作り、ゆっくりと首を振った。
そて、メニューの紙を2部、羽ペン、インク壺を、ご婦人の近くのテーブルに置き、手の平で示した。
これで解ってくれるかな。
それから坊主。お前は自分で座れ。先程の言葉のお返しだ。
「じゃあ、いつもの、これとこれにするわ。はい。お願いね」
彼女はすんなりと理解してくれた。
そして、メニューの紙にペンでチェックを入れたものを1部、渡してくれた。ベン坊主の分も記入されているようだ。残りの1部は、確認用の控えになる。
彼女から紙を受け取り、礼をする。そして、シェリーさんが待つカウンターに、この用紙を持って行った。
カウンターでは、シェリーさんが待ち構えていた。
待っているのなら、助けに来て欲しかった。様子を見ていたのは、解るけど。
「はい。お利口さん。良くできました。だけど、ベンくんにした仕打ちは、頂けないわ。気持ちは解るけど、彼も、お客様なのよ。以後、気を付けてね」
あれ。解ってたの。これ。はい。今後、気を付けます。
うーん。何だか、学生アルバイトを思い出すよ。
あの時も、よく叱られていたっけ。
シェリーさんが、こちらの思いを吹っ切らせるかのように、明るい笑顔で言う。
「そんな暗い顔をしない。笑顔でいてね。さあ、これから、忙しくなるわよ。覚悟をしてね」
シェリーさんは、人差し指で、こちらの鼻頭を、つんと軽く突く。
あ。はい。頑張ります。
こちらは、シェリーさんに精一杯の笑顔で返した。
笑顔っていいですね。




