4-05 ぐりる・まるべりーにて
シェリーさんが。
ん?
気が付くと、シェリーさんが、こちらの両肩に、優しく手を置いてくれていた。自然に、彼女の柔らかで、意外にも豊かな双丘が、こちらの背中に当たる。
偶然、そうなったみたいだけど、かなり嬉しい。
「気落ちをしているようだけど、大丈夫かしら?」
どうやら、にやけてしまった表情を、彼女に見られていないようだ。
ほっとする。
「ラ・ケルタちゃんで、良かったよね。その首飾り、従魔候補の魔動物さんなのでしょ? ふふ。ごめんなさい。人間語が解っても、しゃべれないのだったわね」
ラ・ケルタ……ね。
何となく、似ているけど、言葉に力を感じない。それに何か、女の子のような響きを感じる。これって、ルークの意訳ミス?
「変換魔道具は不要だと聞いたわよ。人間語の理解力が、高いんですって?」
うん。そうだね。普通に通じているよ。最近は、人間語にも、ルークの自動意訳が付いているので、さらに精度が高くなっている。
「だけど、リザドリスク系統を頼んだのに、こんな人間みたいな子が来るなんて、思ってもいなかったわ。お店の手伝いができるかしら。結構力仕事よ」
え。あ。こちらも、一応、リザドリスク科ということになっております。はい。
「そうね。ハンク、厨房は私が手伝いますわ。この子は見栄えが良いから配膳係を頼んでみては、どうかしら」
「シェリーがいいなら、俺は構わないが。しかし、こいつにできるのか。見た目は人間でも、魔動物だぞ」
ウエーターか。それなら若い頃、バイトでしたよ。勝手が解るかな。
「じゃあ。決まりね。大丈夫。教えてあげればできますわよ。ラ・ケルタちゃん、こっちに、いらっしゃいな。お洋服を着替えましょ」
え。着替え? ちょっと待った。
うー。ポンチョを、引っ張らないで。保定魔道具が見えるから。
わ。やめて「ギュゥーイ! キュグルルルルー」。
シェリーさんに、無理やり連れ去られてしまった。
うそでしょ。か弱そうな見た目と、全然違うよ。
彼女は、かなりの力持ちだった。
……。
ここは、従業員用の別室。
それより何か、私室のようなところだ。
こちらは、シェリーさんに強引に連れ去られて、ここに来た。
何か、違うかもしれないけど、そんな気分。
今、その別室で、応接室にあるような、ふかふかのソファーに座らされている。
そして、首飾りはあるけど、上半身を裸にされて、保定魔道具が露になってしまっている。
とても恥ずかしいよ。もう。そんなに、じろじろと見ないで。
「あら、この子。女の子と思っていたのだけど、男の子だったのね。そうすると、名前もラケルタくんになるのかしら。それじゃあ、お洋服も限定されるわね」
呼び名とかは、もう、どうでもいいよ。とにかく、こちらが着て来た、ポンチョを着させて。シェリーさん。
「何か、鎖付きの帯のようなものが填まっていますし。職員さんが保定用の魔道具とか言っていたのは、これのことね。でも、どうしましょ」
だから、こちらは上着のポンチョを返してくれたら、それでいいよ。
「あ。そうね。いいのがあったわ。お洋服は、これにしましょ。首飾りの色と髪の毛の色合いに、これは絶対、似合うはずよ」
彼女はドレッサーから、一着の服を取り出した。
アフリカかどこかの、民族衣装みたいな服だ。
丈は、踝くらいまでありそうな長さ。袖口は手首の太さくらいに絞られている。一方で、袖刳は、かなりゆったりと広がっている、さらさらとした生地の服。
極め付きは、赤色系の原色使いの、ど派手模様。派手さ加減は、従魔候補のエメラルドグリーンの首飾りとどっこいだ。
どうして、そんなに派手にしたいのか。理解に苦しむ。
「あら。逃げないで。派手な方が、目立っていいのよ。それにこの服でしたら、エプロンも付けられますよ。ほら、似合っているわ。これでいきましょ」
うー。無理やり着せられた。抵抗ができない。いや、抵抗をしたのだけど、力負けをした。どれだけ力持ちなの、シェリーさん。それとも、この世界の人間は、力が強いのか。
その後、配膳の方法を教えられた。「昼食がメインの形式ばらない食堂だから簡単よ」とシェリーさんは宣うが、それがどうして、高級ホテルの洋食ランチ並の品揃えだ。
幸い、こちらが仕事上の会食などで知っている、マナーと大差がない。ただし、知っているは、客としての知識だ。
何回かリハーサルをする。「上手、上手」と言って、シェリーさんは、拍手をする。「これなら大丈夫ね。じゃあ、お願いするわね」と、シェリーさんは、ハンクさんが待つ厨房へと回る。
厨房から、鍋やフライパンの音がした。
そして、しばらくすると、旨そうな良い香りが漂って来る。
こちらは、シェリーさんに言われた通りに、店の準備をした。
具体的には、店の床の掃き、各々の椅子やテーブルを拭いてテーブルクロスを敷いた。そして、カトラリーを並べ、ナプキンを折ってお皿に載せたりした。
「そろそろ時間ね。扉の表示を変えるから、お客様の対応をお願いするわよ」
シェリーさんは、そう言って、札を変えたら、すぐに厨房に戻ってしまった。
え。それで、いいの?
こちらは、魔動物だよ。
一般客が入る食堂に、魔動物を一体、ぽつねんと置く?
それはないよね。
何か、変。




