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1-04 擬態系魔動物

魔動物。魔物の動物版です。

 先程の魔法使いの男が、短杖をこちらに向けながら近づき、話しかけてくる。


「お前、人語が話せんようだな。ヒト化魔動物かと思って慌てて損したよ。ふん、近くにこれしか無かったとは言え、お前には過ぎた保定魔道具だな。ま、なぜか登録出来ちまったし、仕方がないか」


 その男が、さらに近づいて来た。


「お前は、擬態系の魔動物だな。系統は鳥? いや、その目はトカゲか。擬態でも機能する目は化けられんと聞く。しかし驚いたな。ヒト化したドラコーによく化けていやがる。野生魔動物はそのほうが生き残れるか」


 しまいには、目と鼻の先まで近づいて来た。じろじろと、こちらを見ている。


 暫くすると、男は、徐に目を上に向け宙を睨んだ。そして再び、その鋭い視線をこちらに向けた。


「ふん。それなりに、利発そうな個体のようだな。人語は話せんにしても、理解はできるか? できるなら、上を向いて3回鳴いてみろ」


 本当に嫌な感じがする夢だ。早く醒めてくれないかな。


 そう思って黙っていると、男はこちらの目をじっと見つめる。やがて不敵そうににやりと笑う。


「おう。理解できないか。できないなら処分するぞ。何、楽に殺してやる」


 男から、むわりと放たれた鬼気迫る殺気に押される。


 え、ええ? 殺される? 夢でも殺されるのは嫌だ。


 分かった。分かったよ。鳴く。鳴くから殺すのはやめて。だけど何だか、改めて鳴くのは恥ずかしい。だけど、そうとは言ってはいられない。


 えい、と気力を振り絞る。


 顎を上げて、「チ、チ、チ」と短く3回鳴いてみせた。


 うー。鳴くというより、泣きそうだ。


 男はこちらの様子を見て、満足そうに頷く。


「ほぉ。人語の理解のみでなく、そのような感情も持ち合わせているか。リザドリスク科の擬態魔動物にしては、知性が高そうだな。ドラコロイドに擬態する程の変種なら、人語理解の可能性もあるかと踏んではいたが」


 半ば訝しげにしていた彼のその鋭い目は、俄に柔和な眼差しへと変化した。


「ははは。その状態だから、知性の欠片もない相当下等な野生魔動物かと思ったぞ。ほれ。とりあえず、これが必要なのは解るだろ」


 彼はそう言って、少しごわついた、薄茶色の大きな布を差し出した。


 布? それを差し出している男の顔を見る。彼はこちらを見て、にやにやとした目をしている。え。その男の視線の先を確認する。


 あ。野生動物ね。


 なぜか、それぞれの手首と胴とを鎖で繋ぐ黒い帯以外は、身に何も着けていなかった。


 倦怠感があり、全身が鉛のように重く感じるが、そうとも言っていられない。慌てて、差し出された布を受け取り、前を隠す。


 幸い布を腰に巻くのに、手首と胴とを繋ぐ鎖は邪魔にならなかった。


 ……だけど、どう言う夢だよ。起きて覚えていたら夢判断でも見てみようか。


 男は、ふんふんと頷きながら、再び話し始める。


「そうか。それが解るのだな。では、完全に中身だけのパターンか。だが、リザドリスク科の下位魔動物のくせに、ドラコロイドなぞ、大それたものを擬態対象に選ぶとはな。一体、どこの森の出身だ……う。おま」


 男は、そのような独り言のような言葉を発していた。そして、見慣れたはずのこちらの目を見るなり、驚愕した表情に変わる。


 すぐさま、短杖を突きつけ、こちらをじっと睨みつける。


 緊迫した時間が流れる。


 実に心臓に悪い。


 どのくらい経っただろう。


 やがて、魔法使いの男は目の力を緩めて笑い出した。


「ははは! たとえ本物だとしても、この古代遺跡から出土した保定魔道具でコントロールできるといわれている。どのみち、今のお前は危険ではない」


 こちらは、だるくて、できれば何もしたくない。ぺたりと座ったままだ。それでも、気にはなる。それで気だるく彼を見つめた。


 すると、男はこちらの何かがとてもおかしかったのか、さらに高らかに笑う。彼は一通り笑い終えると、呼吸を整えていた。


「ふん。なら大丈夫か。お前には、内容が分からんかも知れんが、規定だ。告知をするぞ」


 徐に男は、取り澄ました事務的な顔になる。


「当該魔動物の従魔候補該当の可否は、明後日開催予定の検め事の審議で決定される。審議で該当すると認定された当該魔動物は当該魔動物の魔動物召喚術者と従魔契約を行うものとする。当契約は締結後即時履行される」


 ここで男は一息、継いた。


「ただし、リーン協定法により、当該魔動物は本契約のみでは正式な従魔とはならない。当該魔動物は従魔候補として扱う。従魔契約履行開始日を1日とし、1年と1日後に当該魔動物は正式な従魔となる。なお、従魔候補は従魔と等しく従魔保護法が適用される」


 男は、ふっと息をつき、表情を和らげた。


「以上だ。ま。精々頑張るのだな」


 男はそう言い終わると、先程とはまるで異なる、きりりとした表情に変わる。


「ようこそ、人間界へ。不幸にも人間の町ニサンに召喚されられし愚かなる古の魔動物、‘愉快な古トカゲ’、‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’よ」


 そう言って、男は演劇にあるような古式の慇懃な礼をしてみせた。


 彼の額に、うっすらと汗が滲んでいるのが見えた。



リザドリスクはオリジナル造語(少なくとも作者はそう思っていますが、大丈夫でしょうか)で、トカゲのような魔物です。ドラコーはそのままラテン語のドラゴンです。どちらにせよ、おもっきし爬虫類の魔物です。ドラコロイドは人間形態のドラゴン(こっちの造語は有名どころが多いようで、ないのを探すのに苦労をしますよね。ざっと見、検索にかからなかったので、これなら大丈夫なのかな)を指します。これらは、後の話の作中に説明を入れるようにしようと思います。

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