4-04 ダリアさんとシェリーさん
受付の画面を見て、気が紛れたようです。
ん。あ。はい。
アイラちゃんの横の受付で、外出手続きをする。
こちらの手続きは、端子に手をかざすだけで完了。職員の彼女も同じ。
彼女は画面の内容を確認していた。
うん。チェックは重要だね。
チラリと画面を見る。
へ。紙? 電子ペーパーのようなもの? まさか、ね。
それは、紙のようなものに、印刷をしているような感じになっていた。
うー。だけど、変わった文字。カラフルで、ぎゅう詰めにされた絵文字だ。
ん。あれ。
違和感を覚えたので、よく見てみる。
もやっとぼやけて、文字が変わる。
[外出:ダリア ドラン]
[被送迎従魔(従魔候補):‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’]
お。文字が読める。
彼女の名前は、ダリアさんか。
やったね。ルーク。いい仕事しているよ。
いつの間にか、文字も解るようにしてくれていたようだ。
ただ、これも意訳をしているようで、元の文字が見えなくなる。だけど、見えたところで、こんな複雑な文字、書ける訳がないから、必要ない。
施設の外に出る。
一度だけ、外に出たことがあるけど、やはり緊張する。
前回は、男性職員だったけど、今回は、女性のダリアさんだからかもしれない。
行き先の人間の店は、近くの食堂とのこと。
近いといっても、それなりの距離がある。施設は町はずれにあり、目指す店は、メインストリートの繁華街の中。
この町ニサンは、ドイ王国の最南端で辺境。だけど、ここに住んでいる人間の数は、とても多い。
この近辺は、人間が住む場所としては、かなり珍しく、環境魔素粒子量の比較的高い場所になるとか。
そのため、町のすぐ近くで交易物資となる多量の良質の魔鉱石が産出し、栄えているという。
その魔鉱石は、魔生物の残骸が、長い時間を経て濃縮して変化したものだといわれているとのこと。
んー。これは、何だろう。何に近いかな。
あ。石炭だ。
ん。そう。石炭はその有用性から、黒いダイヤと呼ばれた時代があったと聞く。
へえ。面白い。
仮の住処の湯船にあった、色とりどりの綺麗な石が魔鉱石。ほんとに綺麗な宝石のようだよ。
この町の話は、契約主である、魔動物召喚魔術師のカークが、時々、様子を見に来てくれている。その時に聞いたものだ。
そうそう。それで、顔見せの朝の出来事を知ったカークが、静かな怒りと共に、あの恐ろしい威圧を纏って、あの男の職員を叱ってくれた。
これは、嬉しかったよ。
そして、あの男はこちらの担当から外された。
従魔候補には担当職員が付くとのこと。
だけど、あのカークの威圧のせいで、後任になりたがる者は、いなかった。
人間の担当がいなくても、大丈夫なようだし、従魔長のゴンザと仲が良さそうだから、従魔長に連絡させればいいということになった。
なので、最近は朝までぐっすり眠れている。あの目覚まし時計のような魔道具のお世話にもなっているよ。
そうこうしている内に、繁華街に入る。
朝が早いのに、道行く人間の奇異なものを見る視線が多くて、痛い。
そりゃあ、こちらの存在は、まだまだ浸透していないよね。
ダリアさんは、素知らぬ顔で引いて来る。
カークだったら、この時、外部制御をしてくれるのだろうか。
いやいや、ないものねだりだ。ここは我慢しなければ。今は、制御休止状態。そう。自らの意思で進むのが大切だ。
ようやく、目的の店の前に着いた。
看板をよく見る。看板に[ぐりる・まるべりー]と書かれているのを確認した。
そういえば、いままで文字を意識して見ていなかったよ。文字を意識して見てみると意訳されるようだ。
ダリアさんは、店の扉を軽く叩いた。
うん。扉に[準備中]の札がかかっているよ。
「おはようございます。ニサン伯立従魔施設院職員のダリア ドランです。ハンクさんとシェリーさんはいらっしゃいますか。ご依頼の手伝い用の従魔候補をお届けに上がりました」
前回も思ったけど、物っぽい扱いだよね。どうも、ルークの意訳のせいではなさそうだ。ちょっと引っかかるけど、魔動物って、そんなものなのだろうね。
すぐに扉が開き、2人の人間が顔を出す。夫婦っぽい。ダリアさんが呼んでいたハンクさんとシェリーさんなのだろう。
ハンクさんと思われる男性は、たっぷりとしたお腹の、いかにも旨そうな料理を作りそうなコック然としている。
他方、シェリーさんと思われる女性は、柔和な笑みを湛えていて、一見か弱くて優しそうに見えるけど、彼女の目を見ると、芯が強い女将さんのような印象を受けた。たぶん、この男性は彼女の尻に敷かれていると思う。
「お待ちしておりました。わざわざこの店まで、ご足労をして頂きましてありがとうございます。私がシェリーで、こちらが主人のハンクになります。ささ、どうぞ中にお入り下さい」
シェリーさんは凛とした声で言う。そして、手を差し伸べ店の中へと誘った。
「はい。私は、規則でこちらまで参りました次第ですので、お気遣いなくお願い致します。それでは、お言葉に甘えまして、お邪魔させて頂きます」
と、にこやかに返答するダリアさん。
ルーク、本当にそういう会話なの? 男性職員は、もっとフランクだったよ。
当然、ルークからの応答はない。
期待はしていなかったけど、ちょっと寂しい。
店の中に入ったダリアさんとシェリーさんは、相変わらずのビジネストーク。
凄いな。メモを取って今後の参考としたい。
だけど、凄すぎて全く敵わない。
もう、理解の範疇外だ。仕舞には、半ば、ぼぅと彼女たちの会話を聞いていた。
あ。そろそろ、会話は終盤のようだ。
「それでは、再度、夕刻にお伺い致しますので、よろしくお願い致します。くれぐれも、当該従魔候補を店の外にお出しになさいませんよう、重ねて、お願い申し上げます」
ダリアさんは、そう言って丁寧にお辞儀をして店を出ていった。
本当に、こちらを置いて行ってしまった。
何か、急に心細くなる。
この店で何をするのでしょうか。




