4-03 人間の店へ
サブタイトル変更しました。
新しい住処は快適のようです。
これから、どんな店へ行くのでしょうか。
受付の顔見せが、一段落した。
これが終わって、ほっとした。ある意味、地獄の日々だったよ。
今は、本当の意味での、従魔候補としての仕事をし始めている。
そんな、ある日のこと。
従魔長のゴンザ氏から、人間の店に行って来いとの指示があると言われた。
その話によると、規則だから送迎だけはするが、向こうに行ったら、一体だけでやって来いとのこと。今日は人手が足りないとか。
そんなものかなと思いながら、準備をした後、部屋から出て、ロビーに向かった。部屋には、鍵なんていうものはない。
そう。部屋に鍵をかけられることも、かけることもない。ただの扉。
だけど、扉はある。これで、ちょっとしたプライバシーは保てる。
それから、準備といっても、外出用の丈夫な生地のポンチョに着替えて、従魔候補の派手な首飾りを首にかける。そして、こちらの魔素流放出紋で、その首飾りに確認用の入力をするだけ。
この従魔候補の首飾り。鏡で見ると、肩から胸元までを覆っていて、無駄にキラキラと光る派手なエメラルドグリーンをしている。ほんと目立つよね。これ。
あ。鏡を見ても、今は何ともないよ。どうしちゃっていたのだろうね、あの時。やっぱり、不安が高まっていたからかな。
うん。室内には、ちゃんと洗面台と鏡、そして、例のトイレも完備している。
後ね、寝る場所が藁山じゃあないんだ。ベットなんだよ。これには、びっくりしたし、嬉しかったよ。あの、ちくちくは嫌だったからね。もちろん、クリーム色の毛布は、持って来ているよ。
目覚まし時計のような魔道具もある。といっても、かなりおおざっぱな時間を刻んでいるんだけどね。
そう。あの顔見せの日々の時は、連日無理やり起こされたから、この魔道具も必要がなかった。今は、それも、遠い昔のような気がする。
流石に、風呂は共同。だけど、共同でも、風呂があるのは凄い。
ここは、森林系の水好きなリザドリアンが多いから、水浴びに必要なんだって。湯も出るようになっているけど、あまり使われていないみたい。
こちらが、湯だといいなと思っていたら、ゴンザ氏が湯が好きな質で良かった。
うん。そう。今は、彼とは湯舟で裸での付き合い。こちらは、ゴンザ氏に保定魔道具を晒しても構わない間柄になったよ。
あと、いたるところに、観葉植物のようなものが植わっている。これは、癒し用の環境エンリッチメントとかいうものだとか。
ロビーで、しばらく待つ。
このロビーから先は、人間の職員と一緒じゃないと、出られない。何体かの従魔や従魔候補が職員に連れられて出ていく。
皆、何かしらの仕事を請け負っているのだろうね。
建物の外へと出ていく魔動物は、いろいろな顔をしている。楽しそうなもの、憂鬱そうなもの、何を考えているか解らないもの。
この居住施設は、ヒト型魔動物の場所。それでも様々な種類の魔動物が居る。
大体、哺乳類ベース、鳥類ベース、爬虫類ベース。たまに、魚類ベースや、軟体動物ベースらしいのが居る。
特に、軟体動物ベースらしいもの。あの表情では、何を考えているのか解らない。だけど、あれでも正式な従魔らしい。従魔候補の首飾りも、引き手も付けてない。職員の横で、悠々と、のっそり歩いている。
ほんと、何を考えているのだろうね。
心の奥で、軟体動物の思考は、解りたくもないとか言っているのがいる。
ん。あ。ルークの言語化した意思だ。ルーク。もういいなら、でてきてよ。
え。まだ、だめ? うー。もう。
あ。こちらのお迎えが来たようだ。
背は少し高め。だけど綺麗と言うより、可愛いというのが似合いそうな、妙齢の女性職員だ。それでも、この青年になりかけの少年の身体だったら、彼女をお姉さんと呼んでいいだろう。
彼女に伝わる声で呼べないのが、悲しいけれど。
彼女は「‘ラケルタ’おいで」と、こちらを呼んだ。うん。しっくりするかも。正式な契約名に近いしね。
施設の職員の人間は皆そう呼んでくれる。あ。でも、古代ドラコラン帝国語の古い方で[トカゲ]っていう意味らしいから、そのままか。
はぁい。行きますよ「チィーア、ツィアーラゥ」。
そう言って彼女に近づく。そして彼女は、こちらの首飾りの中央下にある金具に引き手のフックを留めた。
そう。ここからは引き手で引かれて行くということ。でも、これは形式上のものでしかない。逃げようと思えば、いくらでも逃げることができる。
従魔契約はお互いの信頼の上で成り立っているという。従魔候補は、その域にまだ達していないと見なされている魔動物だとのこと。
それを示すかのように、先程の軟体動物ベースのようなものと同様に、正式な従魔には引き手がない。職員が同行するだけだ。そして、職員に付いて行く従魔たちは、あの生き物は除いて、皆、とても楽しそうに見える。
彼女の身体から、ふわりと花の香りがする。
いいね。香水でも付けているのだろうか。
ん。妙齢の人間の女性とこんなに近くにいるのは初めてか?
はは。どっちでもいいや。今を楽しもう。
こちらも男性なのだ。
妙齢の女性が傍らいて、嬉しくないはずがない。
例え、引き手で引かれていても……なのか?
うー。だんだん、微妙な気分になって来た。
彼女の後ろ姿を見て、妄想モードに突入すれば現実逃避ができるか。
そんなこんなで、意識内で悶えているところで、受付まで来た。
お。アイラちゃんだ。彼女に小さく手を振る。アイラちゃんも、こちらの姿を認めてこくりと頷いてくれる。
ん。あれ。何か、気まずい気分だな。
アイラちゃんを正視できずに、少し目が宙を泳いでしまった。
アイラちゃんが気になる?




