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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第4章 従魔候補のお仕事
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4-01 ゴンザ従魔長

従魔長に会う。

『よう、新入り。おやっさんから事情は聞いた。オメエ、ほんと珍しいやつだな。オイラは、ゴンザ。よろしくな』


 目の前にいるのは二足歩行のトカゲ。リザドリアン。


 マスコット系の従順種オペディエンティアティだというアイラちゃんとは、似ても似つかない、戦闘系の鰐種ココドゥリロティだ。


 ほんと、わにのように、厚い鱗状の上皮におおわれていて、見るからに丈夫そう。


 だけど、2本の足で直立したその形態は、すでに鰐ではない。そして、すらりとした筋肉質の身体。背後には、長い尻尾しっぽが生えていた。


 特に、先端がとげのようになっている、あの尻尾。あれでたたかれたら、痛いだけじゃすまないだろうね。


 もちろん、彼はリアル系トカゲ。目に黄緑色の虹彩と縦長の黒い瞳を持つ。


 でも。何だか、ひょうきん。愛嬌あいきょうがあるというのかな。そんな彼は、この居住施設のヒト型従魔を統べる従魔長。そう。彼は、今後お世話になる上司だよ。


 従魔長って、あのロビーでたたずんでいた、紳士のような生き物かなと思っていた。だけど、会ってみたら違ったね。うん。


 でも、カークから戦闘系の鰐種だと教えてもらった時、違うかなとも思った。


 ルークの意訳のおかげで、ゴンザ氏の言葉が理解できる。だけどこれは急ごしらえの自動翻訳みたいなものだから、精度があまり良くないと言っていた。


 そう。新しい部屋の設定が終わってカークが出て行ったら、入れ替わるように、ルークの言語化した意思が、ひょっこりと戻ってきたんだ。


 その時のルークの感情は、何事もなかった風だったけど、どこか不自然だったよ。だけど、それを指摘するほど、こちらも野暮じゃない。こちらも知らない風にして、これから、リザドリアンの従魔長に会うことをルークに伝えた。


 そうしたら、他種族の言語を理解する必要があるなと、意訳する自動翻訳みたいなものを用意してくれた。


 一方で、こちらの言葉はゴンザ氏に通じるのかな。


 ルークに確認をしたかった。だけど、ルークは、考えることがあるからと、あれから音沙汰おとさたがない。


『黙ってねぇで、挨拶あいさつくらいはせんかい。オメエ』


 あ。そうそう。挨拶をしなくては。


 ゴンザ氏は、カークから事情を聞いたと言っているから、こちらは声を出そう。気持ちを込めれば、その気持ちと同じ意味の言葉がつむげていそうなのは、いままでの経験で、何となく理解をしている。


 じゃあ、お願いしますとでも、挨拶をしよう。名前は、契約名でいいよね。


 よし。笑顔を作って、と。


「キュルウルルアラーラゥ。ルアークゥールァウーラ、‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’」


 いつもの鳥のような澄んだ鳴き声。


 自分で何を言っているのか解らない。


 それで、挨拶をしたつもり、でしかない。


 うー。肝心な言語が理解できないなんて。


 当然過ぎて、する気が起きないとか言っていた。


 それはないよ。ルークのばか。


 う。あ。ゴンザ氏が固まっているよ。


 彼の目にそなわっている、白い瞬膜しゅんまくのようなものが、半分だけ閉じたような感じになっている。何か、怒らせてしまったのだろうか。


『な。何なんだよ。オメエ。選ばれた神官が、必死に訓練して取得しゅとくする言語で喋るんだ? そんなもん、でけえ神殿の儀式でしか使わねぇ』


 思い出したかように、腰を抜かさんばかりに驚く、ゴンザ氏。それも一瞬のことで、すぐに、何事もなかった風になる。


 流石、長が付くのは打たれ強いね。立ち直りが早い。


『なあ。おやっさんの言う、オメエの変わった鳴き声って、これのことか? あ。オイラ、古ドラコロイド語で喋られても、解んねえからな』


 これ、古ドラコロイド語っていうんだ。


『んで、オメエは、オイラの言葉を理解できているんだよな? 銀の粒はいらねえのか? ほら、おやっさんが、いつも耳に付けているやつ。人語が解らなきゃ、この居住施設にいねえかんな。……んだな。オイラのリザドリスク語が解るのだったら、「チ」を3回いってくれねえか』


 え。ちょっと。それ。トラウマなんだけど。


 んー。この施設で良く使われる確認方法なのかも。


 仕方がない。


「チ、チ、チ」


『お。おう。そうか。オメエが、リザドリスク語を素で理解すんでも助かる。おやっさんの銀の粒、ありゃダメだね。変換はするんはするんだけど、ヘンテコでよ。オイラ、どれだけ表現を変えて、いい直しているか。そりゃあ、オイラの人語理解も限界があるでよ。おやっさんの得意な、知らない単語を矢継やつぎばやに並べられたら、お手上げだっつうの』


 んー。ゴンザ氏は、カークとの意思疎通に、とても苦労しているみたい。彼の場合、間に入るのだから切実だよね。


『オメエ。先程、挨拶をしてくれたんだよな。でもオイラ、オメエの名前が舌噛みそうで呼べないんだわ。あれは、古代ドラコラン帝国語の、力ある言の葉だろ。それも、さらに古い方の。オイラ、意味は解んねえけど、雰囲気で何の言葉かだけかは解るんだわ。何でおやっさんは、オメエの契約名をそんなややこしいのにしたんだろな』


 え。古代ドラコラン帝国語?


『何だ。オメエも良く解ってねえのか。おやっさんのことだからなあ。オイラも理解不能な時が度々あるわ。お互いにご愁傷様だんな。それはそうと、オメエをどう呼ぶかだ。対面だったらオメエをオメエと呼べば良いが、大勢の中だと、呼び名がないと困る。オイラは従魔長としてオメエのことをドラコロイドもどきの意味でドラコもどきと呼ぶぞ』


 う。ドラコもどき。何か酷い呼び名だな。でも、リザドリスク科の擬態魔動物ミネティティ種ということになっているから、妥当だとうな線なのかな。


 こちらは‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’という名を気に入っている。本来の意味をルークから教えてもらったら、これも、大概たいがいだったけどね。それでも気に入っている。


 何だったら、‘愉快な古トカゲ’でもいい。これも同じく、バカとか愚かなとかいう意味が含まれているとのこと。


 だけど、とても楽しそうじゃない? ルークもこの名前の意味を説明する時、まるで愛おしい自らの呼び名のように楽しそうに笑っていたしね。


 あ。はい。


 ゴンザ氏から、明日の朝、顔見せをするとか言われた。


これから、どのような生活が始まるのでしょうか。

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