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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第3章 検め事の本番と審議結果
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3-15 古の盟約

花茶の姫君。

 コアトリクエの涙という花茶を飲んでいる。


 濃厚で優しい甘い香り。そして、かすかに刺すような苦味を伴う深い旨味。


 綺麗で可愛い妹王女様。これはロマンだ。うん。


「む。続きを催促しているのか。ま。それなら良い」


 良かった。解ってもらえたようだ。


「‘古の盟約’の発端。それは、ドラコラン帝国終焉(しゅうえん)の物語と根を同じくする。当時、大変仲の良い、若い王子とその妹がいた。その王子が‘ウィリディス マリスの魔王’と恐れられた、帝国最後の皇帝だともいわれている。そして、その妹の名が、コアトリクエ。この花茶の姫君だな」


 終焉を迎える国の姫君ね。そりゃあ、悲しい話になるよ。これ。


「ドラコラン帝国は、知的魔動物の国だ。もちろん、彼も彼女も、知的魔動物だ。神話や伝説では、原初のドラコロイドだと伝わる。見た目は人間そっくり。むしろ、双方とも、とても整った容姿だったそうだ。王子の背格好や見た目の年齢は、そうだな。丁度、お前みたいな感じだろ」


 へえ。そうなんだ。王子様か。この身体は、結構かっこいいもんね。


「だが、その本態は、原初の青緑ヴェルデ・マラキーテドラコーだ。力ある上期古代語で‘ウィリディス マリス’という。北方伝説では、たわむれに多くの人間を殺戮さつりくする巨大で邪悪な怪物だといわれていてな。そこで、人間の勇者様御一行の登場だ。剣使いと槍使い、そして女魔術師の3名だといわれている。俗にいう、勇者の魔王討伐だ。実際には、国ぐるみの全面戦争だったのだろな」


 うん。何となく、解るよ。利害関係があるものは、利のある物事を大きく美化するし、害のある物事を必要以上に悪くするよね。


「で、だ。様々な立ち回りの末、魔王たる皇帝は勇者に討伐されてしまう。そして、その王子が皇帝代理の権限を得るが、彼もすでに手負いの身。それで、いとしい妹のコアトリクエを逃そうと、巨大な原初の青緑ドラコーとなって、自ら勇者らの中に飛び込んだ。変身した王子は、勇者らによって満身創痍まんしんそういとなり、最後は勇者の聖なるつるぎで首をねられる」


 うわ。


 思わず、両手を喉元に当てる。


 うー。嫌な感じ。リアルに切られてしまったような気分だよ。


「皇族で残ったのが、王子によって隠されていた、妹のコアトリクエ、ただ一人。その場所を見つけた勇者らは、彼女にもやいばを向けようとした。しかし、姿形はうら若き可憐な姫君。さらに命乞いをし、涙を浮かべるその姿を見て、剣のしずくとするのには惜しいと思った勇者ら。改心するなら許す。その印として、知的魔動物を人間の従魔として使役することを許可せよと、せまる」


 あれ? カークさん。


 何か、勇者側が悪者みたいな感じだけど。


「泣きはらした姫君は、私にそんな権限はありません。どうか、刎ねたという兄君の首に会わせて下さいと言った。そして、彼女の願いは勇者らに聞き入れられた。だが、それは巨大な原初の青緑ヴェルデ・マラキーテドラコーの頭部だ。持って来るのは困難。それで、彼女をその場に連れて行った。かたわらに来た彼女は、その怪物の首に口づけをする。すると、その怪物の首が人間形態の王子の頭部に変化して、血濡れたまま、宙に浮いた。そして、勇者らとその王子の頭部とで従魔契約の盟約がわされた」


 凄い。ファンタジー真っただ中だね。これ。


「皇帝の代理たる王子は、1契約に付き1つ人間の目玉を所望しょもうした。そして、双方にまことの合意がなければ、許可しない。我の臣下を託すのだから、これはゆずれないと言う。さらに、従魔となる知的魔動物に刻印をさずける。ドラコラン帝国の紋章の一つである翼蛇よくだの目。我の臣下であった時の誇りを捨てないで欲しいと言ったと伝わる。その後、王子の首は忽然こつぜんと消えた。そして、時空の狭間、どこでもないところといわれる空間に、その王子の頭部が今も浮いているとされている」


 へえ。何か、悲劇的だけど、かっこいい王子様だね。


「ま。この物語は、神話側のはなしまじえている。俺は、これでも神話側の国の人間だ。心情的に、姫君や王子らを悪いように言うことができん。それに、お前がその王子に見えてかなわん。まるで、本人に話して聞かせているような錯覚があるぞ」


 え? あ。そうか。こちらの中に、当事者とおぼしき該当者がいとうしゃが、約1名いるよ。


 実際のところは、どうなの。ルーク?


 意識の表層を覗く。


 一面真っ白。例の、嫌がっていた時と同じ感じ。


 んー。思えば、内容が内容だけに、返事ができないよね。これ。


 ルークは、現在日本の知識を持ち合わせているみたい。だから、これがどのように映るものなのかも、知っていると思う。なので……。


 あの中で、もだえているよね。うん。可哀そうに。


 こちらが、ルークの立場だったら、そうなるよ。


「それでな、北方の伝説では、姫君のコアトリクエは、勇者らに連れられた旅の途中で亡くなったとされている。神話側では、現在のナーガラ帝国の神殿がある場所で人間と交わり、子をしたとされている。ま。こんなところだ」


 へえ。その子孫がナーガラ帝国の皇族、という訳ね。


「俺は、そう遠くない未来にナーガラ帝国に行く用事がある。その時は、お前を一緒に連れて行ってやろう。だがその前に、ここに慣れてもらわんとな。ふむ。そうだな。従魔長に話をつけておくから、俺のがひと段落したら、行ってこい」


 へえ。従魔長っているんだ。ここ。


 ん。入り口の方で、がやがやと大勢の声がくする。


「む。そろそろ、騒がしくなりそうだな。移動をするか」


 カークは立ち上がり、花茶の残りを飲み干した。


 こちらも、それにならい、花茶を飲み終えて立ち上がった。


 その後、カークはこちらの居住場所の案内をしてくれた。かなり良い空間だ。確かに、あの仮の住居ほどの広さはないけど、住むのに、あの広さはいらないよ。


 それから、室内のさまざまな魔道具の登録をした。魔素流の表面波長が変調したままのようで、魔素流放出紋が変化したようだった。


 だけど、従魔契約をしたら、たまにそういうことが起こるとのこと。なので、何事もなく登録をし直した。


 波長の変調って、このような問題があったんだ。このタイミングで良かったよ。これは幸運だったね。


 あ。え。確か。波長を変調したままって、良くないんじゃ。


 ルーク、今更だけど、大丈夫なの?


 ルークの意識の表層は、覗けるようになっていた。


 そして、そこで見る限りでは、とても気持ちよく眠っているだけのように見えた。



次話から章が変わります。

今後ともよろしくお願いします。


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