3-14 花茶の姫君
サブタイトルを変更しました。
食後のひととき。
居住施設内の従魔食堂、ジャルディーノ デ ファミリア。
この食堂の名前は、家族の庭という意味になるそうだ。
知的魔動物好きのミランダさんが、その知的魔動物である、従魔たちが楽しくゆったりと過ごせる場所をという思いが込められているとか。
ここで早めの夕飯を終えた。
今も、ここにいる。
この従魔食堂を切り盛りしているのが、そのミランダさんという女性。
彼女は、従魔たちの夕飯の支度で、とても忙しそうだ。
あ。カークが、飲み物を載せたトレーを持って来た。
「ふむ。食い終わって、そろそろ落ち着いたろ。なら改めて従魔の刻印について話そうか」
ん。これ? 自らの襟ぐりを広げて、中を覗く。
胸の中央にある、きらりと光る小さな丸いレンズ。これは、どうもルークが関与しているらしい。だから、機会を見つけて本人から聞こうと思っていた。
当の本人は、あの、ふんわりとした場所で、深く眠っている。
とても気持ちがよさそう。
さらに、入ってくるなとばかりに、内側から弾力のある強力な膜のようなものが張られている。なので、現状はルークの意識の表層が覗ける。
ただ、それだけ。だけど、少なくとも無事は確認できた。
とりあえず、今は、これでよしとしよう。うん。
「おう。それだ。どうだ、俺の言葉が以前よりも理解しやすくなったか?」
え。どうだろう。前と全然、変わらないと思う。
あ。もしかすると、意識の表層が覗けるかもしれない。
カークを見つめる。
うーん。何だ。覗けないじゃないか。ルークが特殊なんだろうね。
「その様子だと、何も変わらんようだな。ま。以前と同じでも、お前の場合は、実質的に困らんだろ」
そうかも。だけど、たまに齟齬があるから、何ともいえないよ。
「ほれ、この花茶を飲んでみろ。旨いぞ」
湯気の立ったティーカップが2個、ことりとテーブルの上に置かれた。
そのティーカップの一つを手に取り、顔を近づける。
むふっ。何これ。
むせ返るような甘い花の香り。やはりカークは甘党なのかな。
「これはな、コアトリクエの涙という、小さな花の茶だ。古の激しい戦で散った若い王子を偲ぶ、美貌を誇る可憐な妹王女の名を取ったものといわれている」
コアトリクエ。綺麗で可愛い王女様か。何かいいね。
「そうだな。この花が実を結んだ蛇魔苺の実も旨いぞ。それは魔苺の一種だが、魔素含有量が少ないのでな、俺にも普通に食える」
んー。カークさんは、情緒というのがないのかな。
でも、気になってしまった。蛇魔苺の実って、蛇のように長いの?
あ。イメージが送られて来た。とても小さな苺。草苺の蛇苺に近いか。
え。あ。ルーク、起きたの?
あれ。返事がない。
あと、何だろ。
恥ずかしいという感情を微かに感じ取れたのだけど。気のせいかな。
「ま。とにかく、これを飲んでみろ」
カークに促されて、その花茶を飲んでみる。その花茶からは、濃厚で優しい甘い香りの中から、微かに刺すような苦味を伴う深い旨味を感じた。
綺麗で可愛い王女の身上を想像して飲んだからか、後悔と幸せだった頃を偲ぶ悲しみを表しているようで、切ない。
「何だ。妙に沈んだ顔をしているな。旨くなかったか。うむ。人間と魔動物とは味覚が異なると聞くからな。仕方がないか」
旨いけどね。何か、やるせないよ。この味。
うーん。これは伝わらないね。
「ま。それはそれとしてだ。この花の名の由来になった物語と、従魔の刻印の由来とは関係がある。‘古の盟約’の発端だ」
へえ。盟約に理由なんてあったの。言葉の綾の一種だと思っていた。
「相当古い話だ。それに俺が知っているのは学生の頃に読んだやつだ。魔動物召喚魔術教書の補足に書かれていた伝説だな。それが史実かどうかは、知らん」
カークは花茶を一口含み、喉を潤してから、言葉を続けた。
「その昔、お前ら、知的魔動物の国があったという。その国は、古代の書物においてもすでに滅んでいてな。争いのない地上の楽園だとも、恐怖に満ちた地獄だともいわれている。その国の名は、ドラコラン帝国。そう、周辺諸国を従える帝王がいた国だ。当地域に伝わる神話の‘黄金竜帝’または、北方の伝説の‘ウィリディス マリスの魔王’とも呼ばれ、1万年以上も治めていたといわれる。」
神話と伝説か。だけど、ずいぶんと両極端な評価だね。
「で、だ。こいつは、お前にとって辛いかもしれん。恐ろしい魔王としての話になる。勇者伝説を支持する北方では、これが標準でな。俺らがいるドイ王国とその周辺諸国は、楽園の黄金竜帝を支持している。なにせ、盟主国であるナーガラ帝国の皇族が、その末裔だといわれているからな」
へえ。あの便利トイレ開発国だよね。
「今、何か、不謹慎なことを思わんかったか?」
あれ。通じているの? だったら、もっと解って。今は、話の続きを聞きたいよ。
花茶を飲んで、カークを見る。
これなら、どうして欲しいか理解してもらえるよね。
この花茶に関連する昔話があるそうです。




