3-13 ミランダさんの料理(4)
それぞれに持っている、懐かしい味。
鳥の焼き物の赤いソースがけと、茸のクリーム和え。
うん。ほんと見た目が同じだよ。
草原魔野雉の焼き物に魔真木花托のソースがけだという。
皮がこんがりと飴色をしているので、表面の見た目は同じ。だけど、その皮と脂肪層が薄い。肉質も鶏に似ていて、幾分か白っぽい。
赤いソースには、中央が大きく凹んだ、種のない赤いさくらんぼのようなものが入っている。これが、魔真木花托なのだろう。
そういえば、この部分は魔素含有量が少ないからお勧めしないとか、ルークが言っていたっけ。ほんと、逆なんだね。
一口大に切り分けてくれたものを、赤いソースと共にフォークに載せ口に運ぶ。
歯を当てると、この肉にも弾力があった。それでも、森林魔鴨と比べれば、かなり柔らかい。
さらに噛みしめると、懐かしい香りが、ふわりと口腔内に漂う。少しぴりっとした辛さのある甘いソースが、心地よく舌に馴染む。酸味を補ったのだろう、別途に柑橘系の爽やかな香りがした。
これを咀嚼していくと、まさに焼いた鶏肉。これに甘辛いソースが絡み合う。これは、タイのスイートチリソースに通じる味だ。
うん。よく会社帰りに寄った、焼き鳥屋の名物だという軍鶏のエスニック風ソテーに近い。お馴染みの味に近いからかな。とても安心できる。
その後味に、微かに酸っぱさと甘さを伴う、深い旨味を感じた。
深い旨味。
あ。そうか。これは、異郷の食べ物なんだ。
……うん。いつか、帰ることができるよね。それまで、あの店のおやじは元気に商売をしているかな。
「おい。大丈夫か。何やら、しんみりとしおって。旨くないのか? 嫌なら、無理して食わんでもいいぞ」
え。
カークを見る。
んー。郷愁に浸る間もないか。
それじゃあ、料理に集中しよう。
こちらは、この料理を味わいたい。
にっこりと笑って、次をすぐに口に放り込んだ。よく咀嚼して、この草原魔野雉のソテーを味わう。
えーと。付け合わせは、瑠璃茸もどき、か。
表面を見た限りは、綺麗な青色をしている。瑠璃茸と全く区別がつかない。とりあえず、ナイフで切ってみる。
お。白い。
ひだも含めて、色が抜けたみたいに真っ白。青色の表面とのコントラストが凄い。これもどうかと思うけど、白色だったら、大丈夫だよね。切り口から滲出してる液も透明で、香りも良い。
切り取った瑠璃茸もどきを、フォークに載せ、口に放り込んで齧ってみる。
うん。これは、ハラタケ科のツクリタケ。マッシュルームみたいな味だね。
普通にアミノ酸系の旨味。最後まで、ごく普通に旨い茸だった。
ふーん。瑠璃茸もどきのほうが、安心して食べられるじゃない? 深い旨味が全くないのは、物足りないけど。
泡草のホイップ。これは、胡麻の香りとほろ苦い菜花の味がするホイップクリームで、僅かに甘さを伴う深い旨味がした。
最後の森林偽魔胡桃は、よく知っている胡桃そのもの。深い旨味も全くない。
何だか、もどきとか偽とかの方が、まともな味がするような気がする。
ん。でも。森林魔鴨は旨いよ。
森林魔鴨は、それなりに時間が経ったけれど、暖かいまま頂けた。この鳥の肉は濃厚な味で油が多めだけど、ソースの甘酸っぱさがそれを補っている。
うん。これは旨い。後味の、清涼感を主とした酸味、甘味までを伴う複雑な深い旨味もいいね。これは、完全にお気に入りだね。
んー。まだ肉汁やソースが皿に残ってはいる。だけど、それを浸けるパンとかが手元にない。指で掬って舐めたい衝動に駆られたが、躊躇した。もったいないけど、これで食べ終わることにした。
あ。ここは、そうするの。
カークを真似て、皿の中央にナイフとフォークを平行に揃えた。
からころと音がする。ミランダさんが。台車を押してこちらに来た。
「もう終わったかしら。あらぁ、‘ラケルタ’ちゃん。終わりの方法まで教えてもらったの。カークさん、そこまでなさらなくても」
「いや、こいつが勝手にだな。俺が食っているのを見て、すぐに方法をマスターしたようだ。良く知らんが、これが擬態魔動物の特技なんだろ」
「あら、そうなの。それでも凄いわ。今後が楽しみね。じゃあ、お皿を片付けますよ。後は、お楽しみの甘いのがあるわ」
そう言って、ミランダさんは皿を片付けて、また奥へ戻っていった。
彼女の姿が見えなくなると、カークが、まじまじとこちらを見る。
「おう。‘ラケルタ’、どこで知った? ミランダには、あのように言ったが、どうも、それだけでは説明が付かん」
うん? どこって、「キュグルルルル。ティーア、ティルカァルーアカ……」。
「む、もう良い。お前の澄んだ鳴き声は、この言語変換魔道具で変換できん。愚問だったな。ま。できんよりは良い。お前は、よく俺を楽しませてくれる。ははは」
カークがとても楽しそうに笑う。何で?
あ。ミランダさんだ。小さな柄付きカップを2個、トレーに入れて持って来た。
「はい。おまたせ。魔プラムと太陽実の果汁のシャーベットよ。カークさんの分は太陽実の果汁のシャーベットのみにしましたわ」
「む。そうか。だが、シャーベットとは豪勢だな。魔鉱石もただじゃないぞ」
「ご心配なく。私の瞬間冷凍魔法ですの。他の子の分はゼリーよ」
「何。魔力の無駄使いをしよって」
「あらぁ。私の心配をして下さるの? いいのよ。あなたの分は、‘ラケルタ’ちゃんのおまけなのだから」
「ふん。勝手にせい」
あれ。まただ。
ミランダさんは、カップをそれぞれの前に置くと、他の子たちの用意があるからと、すぐに戻って行った。
へえ。瞬間冷凍魔法でシャーベットね。そんなこともできるんだ、ここ。
冷蔵庫は普通にあるのかな。最初の冷製スープは、結構冷えていたけど。
「全く。ここが安全だからいいようなものだが、魔術師にとって魔力の無駄使いは命に係わる問題だぞ。だからこそ、可能な限り魔鉱石と魔道具を使うのだ。魔鉱石はただじゃないが、この近辺で潤沢に採取できる。その辺を理解しているのかよ、あいつは」
ん? 「グルゥ?」
「む。ああ。すまん。折角のシャーベットが解けるな。ほれ、匙だ。早く食え」
あ。はい「チ」。
魔プラムの果汁のシャーベットは、そのままの味とはまた違った旨さを楽しんだ。太陽実の果汁のシャーベットも旨い。これは、後味に、僅かに酸味と甘さを伴う深い旨味がするけど、かなりオレンジに似ている味だった。
これはいいね。だけど、シャーベットは贅沢品みたい。
外には結構、命に係わるような危険があるようです。




