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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第3章 検め事の本番と審議結果
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3-07 従魔契約と刻印

契約の儀式が、始まるようです。

「うむ。始めるか。おい。こっちに来い」


 カークが魔法陣の中から手招きをして、こちらを呼ぶ。


 なので、「チ」と鳴き、魔法陣の中へと向かう。


「おう。来たか。そうだ、従魔契約に必要なものがあったな」


 彼は、すそが長くゆったりとした魔法使いの服の袖口そでぐちから、気味の悪い人間の目玉のようなものを、一つ取り出して見せる。そして、いたずらっ子のように笑う。


「ははは。どうだ驚いたか。だが、これは本物の目玉ではない。魔道具だ」


 こんな酷いデザインにしたのは、誰だよ。すごくリアルな人間の目玉だけど。


「そうだな。俺は学生の頃、従魔契約の実習で生の人間の目玉を加工したぞ。これが目玉なのも、その名残だな。地域外の北方では、材料に困らんらしいから、まだ生を使うと聞く」


 うあ。そうなの。えげつない。いかにも魔法使いらしいけど。


「では、上着を脱いで仰向けになれ」


 うん? 従魔契約に必要なのかな。


 こちらは、さして深く考えずに、白いポンチョを脱ぎ仰向けになった。


「次に、これを手に持て。ほれ」


 目玉型の魔道具を手渡される。


 掴むと、ぐにゅと形がゆがんだ。


 うー。ぐんにゃりとして、気持ち悪い目玉。本当に魔道具?


「これを、お前の胸の中央に直に置け」


 えー。そんな。とても気色悪いのだけど。うー。あー。はい。


 言われた通りに、目玉をぺとりと自らの胸に置く。


 うえー。この感触は、嫌だ。本当に気色悪い。


「おい。綺麗に置けよ。一生ものだからな。ほれ、そこ歪んでいるぞ」


 え。一生もの?


 そう戸惑とまどっていると、カークに位置を直された。


「ふむ。これでいいだろ。動かすなよ。じっとしていろ。では、始めるぞ」


 すると彼は、おもむろに短杖の頭をこちらの胸にある目玉に向けた。そして、彼自らの胸にも向ける。再びこちらの胸に向け、交互に短杖の頭をめぐらせた。


「‘古の盟約に従いて、このものと従魔の契約を欲す。知恵の光をもたらすもの。幾多の星を巡り、ことわりを統べるもの。我らの誓いを聞き入れんことを求む。どこでもない場所に浮かぶものよ’」


 魔法陣の紋様が徐々に青白く光って来た。


 あれ。心の奥で- もう浮かんではいないな ― と、楽しそうな声がする。


 ルーク?


 ― やあ。ナオト。我は、問題ないと伝えたはずだ。そう。この魔法陣のお陰で、本来の力が出ている。ククク。普段は、魔法紋で自動化しているから、何もしない。だが今回は、我自身の身体を託すのだ。多少変則的になる ―


 変則? どういうこと?


 ― 愉快なことだよ。何しろ、承認するものと従魔となるものとが、同一だからね。中身は、ナオトだけど。ククク。まあ。見ていて。大丈夫だから -


 ルークの言語化した意思が途絶えるのと同時に、魔法陣の紋様を描いていた青白い光が、一際ひときわ強く光った。そして、その光が収まると、魔法陣の中央に青緑色に光る球体が一つ、ふわりと浮かんでいた。


 その球体が強く光り輝き、低い男性の厳かな声が辺りに響く。その声が古代の人間語でかたっていると、何となく理解をした。


<誓いを宣言し、従魔契約を求めるものよ。名を述べよ>


「甲はカーク フェアフィールド、乙は‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’」


<汝らは合意するか>


「合意の印が乙の胸板に存ずる」


<諾。なれば、乙に甲の従魔となる刻印を授けよう>


 意外にも、あっさりとしたやり取りだ。ルークの言っていた変則って何だろう。


 そう思っていると、胸の辺りがやけに熱い。見ると、胸に置いた目玉が真っ赤に血走り、じゅーじゅーといって湯気立っている。


 え。ええ? カークを見て、助けを求める。カークは神妙な面持おももちで、「そのまま我慢をしていろ。絶対に手を触れるなよ」と言う。


 うー。そうなの。今、熱いわ、痛いわで大変なのだけど。確かに、叫んだり、わめいたりする程の熱さや痛みではない。握りこぶしを作ってきばれば、持ちこたえられる。


 だけど、この胸の肉や骨を焼き溶かし、生臭い血肉の匂いをまき散らしながら、真っ赤に血走った目玉が中に入っていく様は、とても凄まじい絵柄だと思う。


 じっと我慢して待っていると、熱さが収まってきた。


 目玉の進行が止まったようだ。


 改めて胸の方を見ると、こちらの胸板は、悲惨な状態になっていた。


 目玉を置いていたところに、ぽっかりと穴が開き、そこから半ば凝固した血やら体液やらが溢れ出ている。そして、その穴の中央に、元の色に戻った目玉が浮かんで、ちんと居座っていた。


頃合ころあいいだな。次は、俺の番だ」


 カークがそう言うと、変わった装飾がほどこされた、黒身のナイフを取り出す。その黒いナイフを右手に持ち、何の躊躇ちゅうちょもなく、自らの左のてのひらをぶすりと刺した。


 当然、カークの左の掌から、赤い血がしたたりり落ちる。その血は、こちらの胸にある目玉に落とされた。見ている間に、滴り落ちる多量の血でその目玉が埋まった。


 同時に青緑色に光る球体が銀色に光り輝き、辺りに、あの厳かな声が響いた。


<誓いの血が合わさった。これにより乙は甲の従魔となる>


 うーん。眩しい。目がちかちかとする。


 ん。あれ。胸の痛みがなくなっている。そろりと頭を上げて胸元を見る。


 すると、胸にあった目玉の穴は綺麗に塞がっている。そして目玉があった場所に小さな丸いレンズのようなものが鎮座していた。


 気になって魔法陣の中央を見ると、青緑色に光る球体は消えていた。


 あれ。さっきまで傍にいたカークはどこにいったのかな。


「おう。そろそろ起床可能か。随分と長く眠っていたな。従魔契約は無事に終わったぞ」


 その声を頼りにカークを探すと、近くで椅子に座っていた。左手の傷は、まだそのままで、血がにじんでいる。


 う。痛そう。こちらも大概たいがいだったはずだけど、今は何ともない。だけど、眠っていただなんて。そんな気は全くしない。


 カークは優しく微笑ほほえんで、立ち上がり、近づいて来た。そして、無傷な方の右手で、こちらの肩を掴む。


「まずは、おめでとう。‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’。今から、我が施設の一員として正式に迎え入れる。ただし、従魔候補としてだ。規定により準市民となる正式な従魔になるには、本日を含めて1年と1日後になる。がんばれよ」


 彼は、その後少し複雑そうな顔をして言う。


「だがな。終わったから言うけどよ。この刻印で死にはしないが、よく無事だったな。ひやひやとしたぞ。従魔契約の古くからのしきたりで、事前には言えん。それに、精神支配や身体拘束もできんのだが、お前の保定魔道具が特殊でな。ま。要は、俺を信頼して、じっとしていたのが良かったんだろな」


 カークはそう言って、全身に喜びをまとうように、破顔はがんした。


 そして、こちらの頭に、そのごつい右手を載せ、これでもかーと言うくらい、くしゃくしゃに、こちらの頭毛をかき混ぜていた。



ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。

もちろん、物語はその後も続きます。

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