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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第3章 検め事の本番と審議結果
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3-06 待ち時間と審議結果

結果待ちです。

 ふう。どっと疲れが襲って来た。今、藁山の上に毛布を敷いて座っている。


 待ち時間。


 あの後、カークのあわただしい台車に揺られて、この馴染なじんだ部屋に戻れた。


 ヒト型野生魔動物用の拘束具もかれている。うん。助かった。あのままでは、どうにかなりそうだよ。


 カークは、急いでいたけれど、しっかりと扉に鍵をかけて出ていった。


 黒い議会衣装のままだから、審議の対応に行ったと思う。


 この結果に、こちらの生死がかかっている。上手うまくいって欲しい。


 思わず、何かに祈る。


 それと、ルークの言語化した意思が、まだ戻って来ない。


 継続して、リザドリスク科魔動物に擬態をするのが、かなりぎりぎりだとか。それで、意思の言語化が不可能になるとも言っていた。


 心配になって、彼の意識の表層を覗いてみた。だけど、言語化した意思はおろか、原始的な感情も、浮かんではいなかった。


 ただ、何か意味があるような、不規則で複雑な信号波のようなものが、時おり、感じ取れるだけだった。


 これじゃあ、どう頑張っても、解釈できそうもない。ルークは、問題はないと言っていたけど、本当に大丈夫なのだろうか。


 ん? 扉の向こうで、複数の足音がした。その足音が止むと、鍵が開く音がして、ガラリと大きな扉が開いた。


 その大きな扉をへだてた向こうに、カークを中央にして、堂々とした立派な黒い議会衣装をまとった人間が、ずらりと横に並んでいた。すごい迫力。その人間たちは、ドイ王国の審議官とか評議員だとかを、順に名乗る。


 だけど、皆、能面のような感情を押し殺した表情をしていた。カークも含めて。


 恐い。結果が良くないのだろうか。


 カークが、無表情のまま、手招きをする。


 こちらは、おずおずと藁山から降りて扉に近づき正座をし、居住まいを正した。


 うん。怖いけど、覚悟をしないとね。こちらが決めたことの結果だから。


 音のないがあった。わずかな時間だろう。だけど、とても長く感じた。


「検め事の審議結果を伝える。当該魔動物、‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’は、従魔候補となるのに相応ふさわしい魔動物であると認められた」


 扉の向こうで、議会衣装を纏ったカークが、淡々と述べる。


 審議官とか評議員とかと自ら宣言をした人間たちは、その言葉に間違いないと証言をし、皆、優雅な仕草でうなずく。


 そして、各々(おのおの)帳票のようなものを回し、何かを記入していた。


 その人間たちは、お互いに記入したものを確認し終えると、カークを残して全員、きびすを返して帰っていった。


 へ? ぽかんとする。


 そして、ゆっくりと喜びが沸き上がって来た。


 やった! これで生き残れる!


 胸をなでおろし、ほっとする。


 カークが、割れんばかりの笑顔をして、近づいて来る。


「おう。良かったな、‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’。これがお前の正式な契約名となる。ふむ。早いほうが良い。すぐに移動するぞ。良いか」


 かされてはいたが、普通にうながされた。


 逆に不安になり、部屋から出るのを躊躇ちゅうちょした。カークは、もう、その心配はいらんと言って、笑った。


 この決議がなされるまで、質疑やら異義やらで審議がもめたらしい。その問題の中心は、やはり、姿が人間に近すぎることだったとのこと。模範回答の準備をしたが、回答に苦労をしたと、カークが、広い石畳の廊下の道すがら、こぼした。


 大変感謝しております。カークさん。


 角を曲がり、階段を上り、扉をくぐる。


 あ。“魔法陣の間”だ。


 ここで従魔候補としての仮契約をする。だけど、従魔契約は本契約だとか。


 カークは黒色系の長いマント姿に戻り、魔法陣を整えている。こちらは、例の、‘座れ’ではなく、そこで見ていろと言われただけ。それで、ここで見ている。


 カークは、魔法陣を整えながら、従魔契約と従魔候補の説明をしてくれた。


 従魔契約締結当日を1日とし、従魔候補として1年と1日を無事に務めれば、晴れて正式な従魔となる。正式な従魔になれば、魔動物でも準市民の資格が得られる。準市民になれば、結構自由が効くらしい。契約者の許可さえ下りれば、結婚や住居さえ構えることが可能だとのこと。


 それから、参考として聞いておけと、詳細を教えてくれた。


 従魔契約は、かなり古くからあるそうだ。地域外の北方にある古代遺跡から関連した壁画や用具が出土するほどだとか。


 一方で、従魔候補は100年ほど前に成立した比較的新しい制度だという。


 その100年ほどの昔に、この地域で、人間の奴隷制度の廃止が決まった。北方から来た、さすらいの勇者の宣言だそうだ。


 奴隷制がいかんのはいいが、それでは、社会が回らない。じゃあ、代わりに従魔を使役しようと国々は競って周辺の知的魔動物狩りを行った。


 当初、従魔は魔動物だからと、人間の奴隷よりも酷い扱いをしたらしい。それで、この地域周辺で従魔契約に耐えうる知的魔動物が激減した。それを示した書物があるという。


 カークは、興味があれば、その書物の原本を取り寄せるがどうかと勧めて来たけれど、そんな本を見てどうするの。それ以前に文字が読めないよ。たぶん。


 それで、ナーガラ帝国にある神殿で従魔保護法が制定され、従魔の理由なき殺戮や酷使が禁止された。それも、違反が発覚した者には厳重な処罰が下されるという結構厳しい懲罰律だ。


 そして、その従魔保護法に、従魔とする知的魔動物は、魔動物召喚魔術師が召喚した魔動物のみとすること、当該魔動物は召喚主と正式な従魔契約を行うことという条文があるとのこと。


 魔動物召喚魔術師は召喚する魔動物を指定できない。これは規定ではなく、魔動物召喚魔術の性質だとのこと。魔法陣の魔力紋で、ある程度の幅は指定できる。それでも、何の魔動物が召喚されるのかは、運まかせ……だそうだ。


 それで、保護法が制定された当初は、混乱をきわめたらしい。


 地域の国々は協議を行った。その解決策として、召喚した魔動物を検め事という審議会にかけて、従魔にするかどうかを選定することにしたそうだ。


 選定に落ちた魔動物を殺処分することも、この時決まったとのこと。


 うー。気持ちは解らないことはないけれど、される身にもなってよ。


 従魔保護法に検め事を追加申請する時、神殿の合意を取り付けるため、選定に合格した良い性質の従魔を準市民に迎え入れるという項目を追加した。そして、従魔契約をした魔動物の性質を見極めるため、従魔候補という制度を同時に制定したという。


 平たく言うと、早く魔動物を従魔として使役したいが、準市民に値する魔動物かどうかは判らないから、猶予期間を設けましょうということらしい。


 これから考えると、従魔も従魔候補も実質的には同じなのかな。だから、“従魔候補は従魔と等しく従魔保護法が適用される”なのだろうね。


 とにかく、こちらは、生き残れたということで、良かった。


 生きていれば、その内、何とかなるだろうからね。



どうやら、契約に魔法陣を使うようです。

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