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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第3章 検め事の本番と審議結果
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3-05 検め事本番

いよいよ、です。

「ふむ。では、行くとするか」カークがつぶやく。


 こちらは今、完全な自由意思で行動ができる、‘制御休止’状態だ。だけど、自ら動く必要は全くない。何せ、こちらは台車の上の檻の中。例のヒト型野生魔動物用の拘束具付きだ。


 思えば、昨日の演習に部屋から移動するシーンはなかった。うん。なくて良かった。こんなのを何度もされるのは嫌だ。どちらにせよ、こうなったら、腹をくくるしかない。カークを信頼して、流れに身を任せるまでだ。


 よいせと、檻の床にひざを開き気味にして座る。


 これなら、移動の振動でこけることはない。枷の重みが緩和かんわされるし、突っかかるところもゆるむので、楽だ。


 カークが台車を押している。彼は魔動物召喚魔術師で魔法使いだけど、でかくて筋肉の塊だ。こちらを載せた台車は、危なげなく、がらごろと軽快に進む。


 今、進んでいるのは、この建物にある、幅の広い石畳の廊下になる。2日前に、ここに来た時に見たのと同じ景色が、逆行して流れる。


 ここは段差がほとんどなく、揺れない台車は快適に進む。


 突然、建物の外に出た。土が露出している地面を進む。がたがたと揺れる。渡り廊下とかの舗装された通路は、なかったのだろうか。


 通りすがりらしい人々と、目が合う。


 人々はびっくりして、こちらに奇異な目を向ける。


 え? どこを通っているの。カークさん。気まずいんじゃなかったの? 人目のあるところに出るのだったら、カバーくらいかけてよ。


 すでに、かなりの数の人間に出会っている。今となっては、手遅れか。


 いや、むしろカークは、目立つように人気の多いところを通過しているようだ。何だと言って寄って来る人々に、こいつと検め事に行くと、説明さえしている。


 カークから説明を聞いた、人間たちの声がする。


「これが、君が言う、リザドリスク科の擬態魔動物か。珍しい。初めて見た」

「大人しい子ねぇ。擬態だと分かっても、かーわいーね」

「え。ここに、こんな人間に近い魔動物なんて居てないじゃないか。大丈夫か?」

「これから検め事? がんばってね。従魔候補になったら、一緒に仕事しよ」

「外見なんて関係ない。従順で大人しい魔動物であれば、何でもよい」


 おおむね、好意的な反応が返って来ているようだ。何だか、ほっとする。


 どうやら、カークはこれ以前にも、吹聴ふいちょうして回っていたらしい。それなり数の人間が、事前に事情を知っていたようで、確認をしに、こちらを観察していた。


 れ聞く話から、集まる人間たちは、皆、施設内部の関係者とのこと。さらに、カークが施設内で、事情を周知しに回って、こちらの処分回避を狙っていることを知った。


 周りと、そのような話をしていたからだろう。いつの間にか、台車が止まっていた。カークが「そろそろ行かんと。では。よろしくな」と周りの皆に断わると、台車の移動を開始した。


 ふう。だけど、こちらにも事前に教えて欲しかった。聞いてどうのとすることはできないけれど、心構えというものがある。危うく声を出しそうになったよ。


 しばらく移動する。でこぼことしている地面で、台車や檻が、がたがたと鳴る。


 角を曲がると、前方に、立派な建造物が見えた。その建物を目指しているらしい。そこには、階段があるようだけど、どうするのだろう。


 あ。横にゆるやかなスロープがある。それを上るのか。


 予想通り、カークはそのスロープを利用して、台車を押して行く。そして、豪華な扉の横で止まった。


 その両開きの大きな扉は、開かれていた。中が見えたので覗くと、内部は、演習で見たのと同じ造りのようだった。改めて、じっくりと見る。


 そこには、豪奢な装飾が彫られた白亜の壁と柱がある。そして、丁寧に磨かれた漆黒の床があり、壇上だんじょうに金で縁取られた高級そうな赤い椅子が、階段状に並んでいた。実際に見ても、圧倒的で、とても荘厳そうごんな雰囲気をかもし出している議場だった。


 再び、台車は進んだが、その扉の中へは入らず、さらに進んで横へ曲がった。そこに小さな入口が見えた。その入り口から中へと入った。中は薄暗かった。


 その暗がりの中を進むと、演習にあったのと同じ構造の檻が見えた。実物は、かなりゆったりとしたスペースがあった。


 でも、この恰好じゃあ、その広いスペースの意味は、たぶんない。


 カークが台車を留め、檻の扉を開けた。そして、こちらにをかけて引き、向こうの広い檻へ移れとうながす。立ち上がるのに苦労をしたが、指示に従う。


 あれ? 言葉で指示をしないの?


 その疑問に答えるかのように、カークは自らのくちびるに指を当てる。ん。このジェスチャーは同じ意味? じゃあ、ここでは、誰もが言葉を発したらダメなのかな。


 それが正解だったようで、あたりはしーんと静まり返っている。移った檻から見える景色は、演習の通りだった。


 張り詰めた静かな時が流れる。自らの心臓の鼓動の音が聞こえる。


「これより第1,024回従魔候補選定検めを開始する」


 静粛せいしゅくを破るかのように、一段と高い位置の特に豪華な椅子の方から、おごそかな女性のりんとした声が響いた。その声の主は、金髪で白い肌の、少し冷たい感じがする美しい女性だった。


 その声を合図に、カークがこちらを檻から出す。引き手を取り、こちらを議場の中央まで誘導した。


 壇上の椅子には、カークが着用している服と同じ、たかの羽のような飾りが付いた帽子に豪華な真っ黒な服をまとった人間たちが、白亜の壁を背景にずらりと並んで座っている。あの宣言を行った女性も、同じ服装だ。


 一方、こちらは磨かれた漆黒の床の上に裸足で立ち、真っ白なポンチョとステテコ姿で、ヒト型野生魔動物用の拘束具と引き手付き。これも演習と同じ。


 場に圧倒される。


 物理的に拘束されているが、自由意思で動ける状態。逆に、強力な意志力が必要とされる分、とてもしんどい。


 検め事の進行状況は、演習の時と、ほぼ同じだった。


 一番の違いは、ルークが指摘をした通り、魔素流放出紋専用の特殊な鑑別魔道具が出てきて、簡易測定をしたこと。


 その魔道具の存在を聞いた時、カークは脂汗をにじませていた。


 その魔道具で測定をした結果と結論は、リザドリスク科が主でドラコー科がわずかに混じる、混合種だと考えられるとのことだった。


 その結論に、場の一部が騒然そうぜんとした。カークも何か興奮をしているようだ。


 壇上から漏れ聞く話題は、不明だった擬態魔動物の生態解明かとか、実はリザドリスク科とドラコー科が交雑可能なのではないかとか、魔道具の設定を確認すべきだとか、いろいろだった。


「静粛に」と凛とした声が通る。あの女性の声だ。騒がしかった場が、水を打ったように静まり返った。


「被検め魔動物は、これにて退場をすること。審議の結果が決定次第、被検め魔動物に通達を行うものとする」と、再び女性の声。


 その声を合図に、カークの引き手に引かれて、こちらは退場をした。



審議の結果待ちとなるようです。

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