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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第3章 検め事の本番と審議結果
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3-03 試案の検証

検め事の当日の朝です。

 まぶたの裏に赤味が増して薄目を開ければ、光が瞳の中へと差し込み。


 うーん。眩しい。 


 パチクリと瞬きして横を向こうと身動みじろぎすればガサリと藁山が鳴り。でかい扉の細やかな透かし彫りから天井の高くへ光の帯が揺れ広がるのと共にキラリキラリと虹色に移ろい輝く石壁。


 ……ああ。朝か。


 起きたら東京の家だというのは、もういい。


 今日の検め事で結果が決まる。


 これで生き残りさえすれば、帰れる時が来るはず。


 そう。必ず生き残り、生きて帰るんだ。


 こうして自らを奮い起こしつつ。


 えいやと、肌触りが良い毛布から抜け出して藁山を下り、ぐいーと伸びをする。もちろん、両手を下には忘れない。


 同時に、爽やかな朝の空気を思いっきり吸い込み吐く。


 何故かここは空気が旨い。


 頭の中がすっきりとしたら、気配を近くに感じ。


 あ。昨晩の“彼”か。


 ん。あ。いや、そういう意味ではなく。


―やあ。おはよう。ナオト。なるほど、伸びはそうすれば良かったか―


 おはよう、ルーク。


 昨晩からこの身体に同居しているルークに、意識の表層に言葉を浮かべて挨拶を返し、ポンチョから覗く両手首に填まる黒い帯を撫ぜ。


 まあ、こちらもこれに慣れるまで、数回はやられてね。


 ……ん。て。あれ。普通に動く。戻してくれたんだ。


―点検が終了したのでね。この魔道具については、大変だったなと言うしかない。ところで、昼の本番前に、昨晩の試案が実際に可能か検証をしようと思う。これについて何か問題があるか?―


 あ。そうだ。


 かなりきついと聞いたけど、大丈夫なの?


―それについては部分発動で試すつもりだ。その結果をもと概算がいざんしようと思う―


 へえ。そうなんだ。じゃあ、こちらは、どうすれば?


―そうだな。では今は立位りついだから、そのまま基本肢位きほんしいをしてくれ。機能的の方ではなく解剖学的意味の方で―


 え。何? 具体的に教えてよ。


―ん。具体的にか。上肢じょうし下垂かすいして手掌しゅしょうてのひらを上にして。そう。下肢かしは直立のまま両の踵部しょうぶを重ねて、つま先を軽く開いて―


 んーと。こう?


―そう。これで良い。次に、左の掌だけを外転がいてんして広げ第2指、人差し指だけを屈曲くっきょくする。そう。そのままの姿勢で左肘関節を屈曲し、前腕ぜんわんを腰の上あたりまで上げてくれないか―


 うー。めんどくさい。


 言葉が一々難しいよ。それに指示が細か過ぎ。


 いっそのこと、ルークがこの身体を支配したら?


―検め事本番で我がこの身体を動かせない。それこそバレて大騒ぎになるだろう。この身体を主導しながら波長の擬態を維持するのは、極めて困難だから―


 あう。そうなの。


―位置は、これで良い。では発動する。違和感があるだろうが気にするな―


 同時に開いた掌の、身体の方へ向けた左人差し指の先に、緑がかった青白い光が一瞬だけ灯っては消えた。


 うわ。


 この光った指先が、もぞもぞとする。


 毛羽の先にでも触れているような、くすぐったい感覚。


 このもぞもぞとくすぐったい指先の感覚が、しばらく続いては消失して。


 ん。あれ。


 まだ何か異なる違和感があるので、よく見てみると。


 この左の人差し指の先の部分だけが他の部位と雰囲気が違う。


 そう。見た目は同じなのに雰囲気だけが異なるという妙な感覚。


 この妙な違和感がしばらく継続した後、ようやく元の指先に戻った。


―発動自体は成功。だが我の記憶だけでは、波長のぶれが大きくて効率が悪いな。このままでは持続に不安が生じるので補正用の波長サンプルが欲しい。対象となる魔動物の抜けた爪や鱗で構わないのだが―


 そうなんだ。


 こちらが唯一知っている魔動物がリザドリスク科で。


 だけど彼女は、ミネティティ属ではなく、リザドリアン属だと聞く。


―ヒト型魔動物であるリザドリアン属であれば、この身体の波長により馴染み易い可能性が高い。サンプルはあるのか―


 残念ながら、持ってない。


 だけど昨日の朝、リザドリアンだという彼女が、この部屋に来てね。


 それでもしかしたら、爪は無理でも鱗なら落ちているかも。


 パステルカラーの青とピンクの鱗だよ。


―そうか。良く覚えてくれていた。雌性のリザドリアン属でパステルカラーの鱗。特に従順だと知られてるオペディエンティアティ種か。ここまで判れば我の魔法で探索可能だな―


 一瞬、ルークから伝わる意識の気配が途絶えて。


―お。あったぞ。扉横の壁に、一枚―


 わお。速い。


―クク。記憶する魔素流放出紋との照合探索だよ。これが魔法での探索の根本だと認識する者は少ないな―


 ルークの認識の仕方が特殊だというのは、何となく理解できるよ。


 そう思いながら、扉の方へ向かう。


 この壁だね。ここ? 違うの?


 え。そうなの。じゃあ、見せてもらうよ。


 ルークが誘うので、彼の意識の表層を覗くと、イメージがポカリと浮いている。その浮いているイメージの通りに探すと、それはすぐに見つかった。


 綺麗なピンク色の小さな鱗。この色形は、何となく桜貝に似ているかな。


 へえ。意識の表層のイメージは解り易くていいね。


 え。全の応答をこれにするかって? それは止めて欲しい。


 今回のが例外で。


 そのままの意思やイメージだけでは、解釈がとんでもなく難しいよ。


 なのでルーク、可能な限り言語でお願いしたい。


―それでは、そうしよう。サンプルが手に入った。この鱗を右手に持って、左手を先程と同じようにしてくれないか―


 あ。はい。こう?


―それで良い。では始めるぞ―


 先程と同じくすぐに、緑がかった青白い光が指先に一瞬だけ灯っては消える。


 そして例のくすぐったい感覚が指先に。


 でも、今回は持続はせず、すぐに消えた。


 またあの妙な感覚が出るのかなと、左人差し指の先を注視していると。


 出たにはは出たけど、ごく僅かな違和感のみ。


 注目していなかったら気付かないほどの、微妙な変化。


―この位できれば大丈夫だろう。まずは成功だ。本番もこの鱗で参照するから、このまま持っていて欲しい。ただ、これでも我が保持している魔素をかなり持っていかれる。発動後の持続時間にもよるが、思っていたよりもきつい―


 あれ。


―この結果を概算すると、何とかやり繰りすれば可能なレベルだ。楽ではないのは確かだな―


 わ。大変そう。


―そうだ、ナオト。あらかじめ伝えておく。我はこれを発動した後、本当に何もできない。当分の間、意思の言語化が不可能になる。今の我の力量では、意識レベルの低下による意思の出力不全すら起こす可能性があるだろう―


 え。何か、相当シビアに聞こえるのだけど。大丈夫なの?


―我は大丈夫だ。問題無い。ナオトがしっかりとして欲しい―


 ん。何かおかしい。楽しんでいるんじゃなかったの、ルーク?


―ククク。楽しんでいるよ。ナオト。これも含めてね―


 それでもやっぱり、何かおかしい。


 内容の詳細を確認しようと、ルークの意識の表層を覗こうとしたら、ぶんと膜のようなものに跳ね返された。


 それじゃあと、えいと気合を入れて、ルークの意識の表層へ飛び込んでみる。


 結果、中に入り込めはしたけど、今度は辺り一面が真っ白。


 んー。どれだけなの。とても嫌がっているみたい。


 たぶん、こちらを思って、してくれているんだろうけど。


 うーん。


 やっぱり何か、変だよね。


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