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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第3章 検め事の本番と審議結果
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3-02 意識のせめぎ合い?

来訪者のルークルカンとのやりとり。

直人君は、自然に接しているようです。

 今のこの身体は、ルークルカンと名乗るものが支配している。


 そう。こちらは、ただいま絶賛傍観中。


 慌てるにしたって、それこそ手も足も出ないしね。


 いやはや。


 柔らかな気持ちの良い場所で、ふわりと浮きながら“見て”いるんだ。


 そう。目耳を共有し。おまけに、この身体を俯瞰する視野さえある。


 冗談抜きで、この状態でも居心地が良かったり。


 こうして先程、漫画のように派手にこけた、この身体。


 失敗をした猫のごとく何事もなかったかように立ち上がり、素知らぬ顔で手足や胴体を動かしていたり。全身の筋肉が震えていて、まだとても痛かろうに。


 何これ。この妙なギャップ。微笑ましいね。


 こんな場違いな和みに浸たっていたら。


 突然、“言語化した意思”が、こちらの意識へと入り込む。


 どうにも不思議な感覚。


 一方で、すんなりとこの感覚を受け入れている自分。


 ほんと。慣れって怖いよね。


―一体全体、何があったのだ? 状況を教えて欲しい―


 あ。え? 状況を教える? どうせ、こちらの思考は丸わかりじゃないの?


―全てを読み取ることは可能だ。だが、ナオト。君は、全てを知られてしまうのは嫌だろう? 我も、できればそんなことをしたくない―


 そうなの? この身体を乗っ取るのは全く躊躇ちゅうちょしないのに。


―ん? これは点検のためだ。倦怠感もかなり残っている。何なら、今すぐにでも返してやるが、それでいいのか?―


 う。あ。いらない。このままで、お願いします。


 そして今までの経緯を、ルークルカンに伝えることにする。


 何しろ彼はしようと思えば全てを読み取れるしね。


 それに隠すことなんて、元から無い。


 だけど、どうやって伝えれば良いのかな?


―ただ、強く意識して思えば良い。君はそれをすでにしている―


 あ。そうなんだ。


 それじゃあと、この身体で魔動物として召喚されて、ここにいること。


 召喚直後に、この保定魔道具が填められたこと。


 そして明日の昼に、検め事という従魔候補の審議にかけられること。


 それにはこの人間にかなり近い姿がまずいので、リザドリスク科の擬態魔動物、ミネティティ属の変種でということになったことなどを、念じてみた。


 これで、ちゃんと伝えられたかな。


 するとルークから“表層の言語化した意思”を読み取るから大丈夫だという回答が返って来た。


 ん? “表層の言語化した意思”?


 ふーん。なるほどね。じゃあ、これも“聞こえて”いる?


 そのまま少し懐疑的な気持ちを込めて、言葉を表層に浮かべてみると。


―ククク。“聞こえて”いるね。だが我は、その全てを“聴いて”はいない。それに、我も思考する時は、何も“聞こえなくなる”ようなのでね。普通に眠りもするのだ。だから、そう気にすることはない―


 ん。“も”、聞こえなくなるって。


 もしかして、その前に何か“言った”?


―何。大したことではない。結構楽しんでいるようだねと“言った”だけだ―


 えええ。楽しんでいるねって。そんな。


 ぶっちゃけ、今は閉じ込められた状態だよ。


 それに、生き残る目途が立ったとはいえ、明日は死ぬかもしれないのに。


 ……ん。あ。


 そういえば、彼は、強大なエネルギーの塊のようなものだよね。


 じゃあ、何とかしてくれないかな。


―聞けば稀有けうな体験だ。とても愉快で、楽しい経験じゃないか。だからといって、この身体が滅するのは頂けないな。さて、どうしようか―


 うわ。これは理解不能な感性だよ。


 だからと言って、言語化の変換ミスでもなさそう。


 実際、わくわくしているような気分まで伝わって来る。


 それでも彼の意思そのものを見れば、この状況を打開するために何かをしようとしているようだ。


 そう。彼がこちら側に入って来てからというもの、彼の意思そのものも、意識のごく表層に浮かんでいるものであれば、それなりに見ることができる。


 それでも、言語化してくれた方が楽なので、これはあまりしたくない。


 ん。あれ。そうすると。


 彼が、こちら側の全てを読まないというのは、ただ単に言語化していない意思の解釈が面倒くさいだけ?


 それならこちらも理解できるし、追求しないでおこう。


 何か、怒らせたら怖そうだしね。


―ナオト。いいかい―


 ん。やば。さっきのこと聞かれた?


―何か慌てているようだが、どうした? うむ。まあ、いいか。これは重要なことだから良く聴いて。君の言う、ミネティティ属の変種とすること。そのままなら、すぐにばれると思うよ―


 え?


―何故なら、魔素流放出紋専用の特殊な鑑別魔道具で簡易測定をしたら、明らかにリザドリスク科とは異なるのが判明するのでね―


 あう。


―とは言え、その魔道具は数がないから、この場所には存在しない可能性が高い。だからと言って安心できない。審議をするほどだから、その魔道具がある場所から持って来ることくらいはするだろう―


 そうなの。だけど、魔動物召喚魔術師のカークは何とかすると言っていたよ。


―恐らく彼は、政治的に何とかするつもりだろう。これも、重要なことのひとつ。だが、政治力学だけでは限界がある―


 じゃあ、どうするの。


 そう言うからには、何か考えがあるからだよね。ルーク?


―ご明察。この身体を、本物のリザドリスク科に近づけるため、生体魔素流由来の表面波長を変調させようと思う―


 表面波長の変調?


―そう。表面波長の変調。もちろん、生体魔素流の根本を変えるのが一番良いが、これは実質的に不可能に近いのでね―


 ふうん。


―対して、擬態魔動物が本能として用いている生体魔素流由来の表面波長の変調であれば実施可能性が高い。それに例え表面波長の変調ミスで多少位相がずれても、それこそ擬態魔動物の擬態なのだからと誤魔化しが効く―


 へえ。なるほど。そんなこともできるんだ。


―ただし、この方法も問題がある。今の我の力量では、表面波長の変調を行うことでさえ、かなりきついことが予想されるのだ。だから、その後ことは全てナオト、君にたくすことになるだろう―


 そうなんだ。うん。


 もともと、こちらのみで対処するつもりだったからね。託されるのは、もちろん構わないよ。


 だけど、擬態魔動物って魔素流の表面波長の変調なんてしているんだね。そんな情報をカークさんが聞いたら、手放しで泣いて喜びそうだ。


 いやいや。むしろ。根掘り葉掘り、どのようになっているかと聞いて来るかな。カークのあの性格だったら。


―ん。何だ。ナオトは、その魔動物召喚魔術師を気に入っているのか―


 うん? あ。そうだね。否定はしない。信頼することにした。


―そうか。では、我の勘案かんあんに入れておこう―


 その後、ルークルカンが、先程、面白そうな食べ物の感想をしていたなと興味深そうにうながして来た。それで、ここで食べた色々な食べ物の感想を伝えて、その夜はけていった。


 今は、藁山の上で柔らかい毛布の中に包まっている。


 ルークルカンが、どのように寝るのかと聞くので方法を教えたのだけど。


 その後の応答がない。彼はそのまま眠ってしまったようだ。


 気になって、彼の意識の表層を覗く。


 どうやら身体が全てそろっていることに満足しているらしい。とても幸せそう。


 へえ。意外と人間臭い感情。


 理解不能な感性だと思ったけど、このような人間らしい感情も持ち合わせているんだね。ルーク。


 あ。そう言えば、ルークと呼んで欲しいだったか。


 じゃあ、これから常にルークと呼ぼうかな。


 うーん。ん?


 あれ。伸びができない。


 そうか。身体の支配権がルークのままだった。


 うー。ん。まあ。いいか。


 結局、同じ身体なんだ。こちらが眠るのに支障は無い。


ルークの案は、検め事通過の決め手になるのでしょうか。

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