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2-16 錦糸魔蜘蛛(きんしまぐも)と大芋虫

これで、ワイルドな夕飯の内容が出揃いました。

 蜘蛛か。


 蜘蛛は、昆虫ではないけれど、虫ではあるよね。とはいえ、これも難関だよ。


 それでも大魔蟻おおまありの例もあるから、いいこともあるよね。たぶん。


 意を決して、この蜘蛛の下に敷いた葉ごと手元まで引き寄せる。


 そして引き寄せたその巨大な蜘蛛を、改めてよく見る。


 うー。何て言ったら良い? 本当に食べ物なの。これ。


 もうこのどでんとでかいのは、すでに慣れたからいい。だけど、このずんぐりとした鋭い(とげ)だらけの姿は、とても毒々しい。そして、いかにも毒蜘蛛ですという、ど派手で目に鮮やかな色使い。


 そう。毒。危険。本能的に、そう感じさせる生き物。


 食べられるの、これ?


 カークを見る。


「何を困っておる。何も知らんのも程があるぞ。それはな、代表的なスタミナ食の錦糸魔蜘蛛きんしまぐもという、なかなか捕れん貴重品だ」


 へえ。貴重なスタミナ食か。確かに、スタミナ食品って。一見、食べ物には見えないのが多いよね。


「そいつは俺が良く知るリザイア目リザドリスク科の魔動物だけではなく、野外で巨大な図体をしたドラコー目ドラコー科のレプカ属のやつが、旨そうに食っていたのを見たぞ」


 なるほど。見た目はアレだけど、結構なご馳走なんだ。これ。


 食べる興味が湧いてきたので、こちらの近くに取り寄せた錦糸魔蜘蛛の頭部にと手を伸ばそうとすると。


「む。頭部は食うなよ。こいつには強力な毒を含む毒腺とそれを排出する牙があるからな」


 これを察したカークが注意を促したので、伸ばしかけた手を引っ込める。


 うわ。旨い馳走だそうだけど、これは見た目の通りの毒持ちなのね。


「ま。そいつの足は、当施設のリザドリアンが食っていたから、食えるようだが、大魔蟻と同じく腹の方だけを食うと良いだろう。その中にある魔絹糸腺まけんしせんは魔素含有量が半端なく高い。だが俺は食えんから、味は知らん」


 んー。むしろ毒持ちの方が、旨いものが多いともいえるかな。


 そう思いながら、錦糸魔蜘蛛という大蜘蛛を、慎重にひっくり返す。


 ひっくり返した裏の方は、つるりとしていて、鋭い棘とかもなく。


 良かった。これなら手で扱えるよね。ほっとする。


 これの見た感じは、1対2の比率で頭と腹。それと4対の足が出ているところが胸部になるのだろう。


 鋭い棘のような短い毛の生えた八本の長い足は、それなりの太さがある。だけど胸部に当たる部分は、申し訳程度でしかなく異様に小さい。


 それから腹の下の方には、赤く染まった丸い突起が目立つ。更には調理した熱の作用なのだろう。この周辺の外皮が(わず)かに(めく)れ上がっていた。


 うーん。たぶん。この赤い突起の部分で糸を出すんだろうね。


 よし。丁度この辺りで外皮が捲れてる。そのままここから引っ張ってみよう。


 それではと、ぐっと改めて腹をくくる。


 錦糸魔蜘蛛のぷっくりとした腹の下にある赤い突起の捲れた部分。これに両手を突っ込んでは慎重に引っ張り、びりりと軽快な音を立てながら破って外皮を捲っていく。


 それなりの弾力はあるけど、大魔蟻の硬い外殻と異なり皮膜状の外皮。なので、この腹の裏側の外皮は、何の問題もなく捲れて。


 その結果。透けた薄い皮膜だけとなる、錦糸魔蜘蛛のぷっくりとした腹の内側を覗き見ると。


 うあ。何これ。


 これの腹の中って、ほとんど白っぽい大袋しか入っていないじゃないか。


「おう。それが魔絹糸腺だ。魔蜘蛛の糸の素が入っている。しっかりと蒸してあるから、少し変化して余計に粘性が高くなっていると思うぞ。何。それでも魔素総量は変わらんし、腹をこわす素も消えている。安心して食え」


 え。逆に蒸したりしないと、魔動物でも腹をこわすようなのが入っているの。


 まあでも、蒸していて問題がないなら、それでいいかな。


 透けた薄い皮膜の中をよく見てみる。


 うん。体液のようなものは、ほぼ入ってなさそうだね。


 それで、腹部の透けた薄い皮膜を横にと大胆に割く。


 魔絹糸腺という大袋が蜘蛛の腹部から、むくりと顔を出す。その大袋の周りに、気管と血管ともろもろとかが端っこに追いやられるように存在していた。


 魔絹糸腺。このフニャリと柔らかい円盤状の白い大袋を引っ張って取り出そうとすると、この大袋から白い細管が伸びて赤い突起へと繋がっているのが見える。


 ん。この形、何かに似ているよね。


 あ。懐かし系番組でいたずらに使っていた、ブーブーと鳴る袋だ。何か笑える「クルッツ、クルクルクル」。


 今、声が漏れた? まあ、いいか。


 ん。気持ちを落ち着かせて。慎重に赤い突起から右手で細管を握り取り、左手で魔絹糸腺の本体を受け取る。


 うお。これは食べるまで難しいよね。


 リザドリアンたちは、どうやって食べるんだろ?


「随分と丁寧に採るものだな。標本にできそうだ。折角だから、食った後でにも、その袋を貰おうか」


 カークが嬉しそうに笑う。


 え。そうなの?


 とにかく魔絹糸腺だという大袋は取れた。大魔蟻の蜜腺と同じく細管の出口から飲んでみようとその細管の先を口に当てて。


 だけど中身はかなり粘性が高いらしく。待っていても、なかなか落ちてこない。


 それではと、魔絹糸腺の白い大袋を持つ手で、むぎゅと強く押し出してみると。ようやく、とろりとしたものが舌の上に落ちて来た。


 うお。これはすごい。うっとりするような繊細で柔らかな食感。加えて、酔ってしまいそうなくらいに濃厚で独特な甘さと苦味を伴う深い旨味が重なり合って。


 わお。ほんと。良い意味で舌が痺れて来る。


 もうこれは、とても旨い。否。とても旨いなんて言う言葉では足りないくらい。夢中になって魔絹糸腺の中身をむさぼるようにして飲む。


 粘性が高くて、なかなか出て来ないのが、まどろっこしい。


 ……ん。


 あう。ああ。もうないのか。


 全部、飲んじゃったよ。


 魔絹糸腺の大袋は、くしゃくしゃのぺたんこになっていた。カークが微妙な顔をしている。まあ。しかたがないじゃないか。とても旨い中身だったのだから。


 口腔内に残る味の余韻を楽しむ。今は何もしたくない。


 とはいえその後、錦糸魔蜘蛛腹部にある他の臓器も食べてみた。これは大魔蟻おおまありと大差ない味。これでも魔絹糸腺の中身を知る前だったら、旨いと感じたと思う。


 足は外殻から中身を取るのに苦戦した割には、そう旨いものではなかった。


 ん。あ。訂正。プックリとした肉で、毛蟹の足に似て旨い味だったよ。


 だけど、この魔絹糸腺の中身と比べてしまうと、どうしてもね。


 それから、蒸し大芋虫は、ボイルしたソーセージのような、ぷつりとした食感は楽しめたかな。だけど全体的に水っぽい味。これは、炒るほうが断然旨いと思う。炒った大芋虫の方が、あの甘さを伴う深い旨味をより濃く感じるよ。


 そういえば、もともと人類は、食虫哺乳類から進化したと聞く。


 現生人類にも昆虫にしか存在しない、特殊な糖類の分解酵素を持っているとか。実際、現在の人類にも昆虫食文化が存在する。


 食用とする昆虫の体内にあるウイルス、細菌、寄生虫の問題だって大抵の場合、加熱さえすればクリアすると思う。


 そう考えると、何故、現在人は昆虫食に心理的な抵抗があるのか。


 こちらも、最初は普通に強い抵抗を感じていた。だけど逆に今は、心理的抵抗の存在意義に疑問を感じていたり。


 ほんと。この虫嫌いの原因って、何だろね?


 ……まあもちろん、食べてもどうしょうもなく不味いものもあるけど。


 でもこれなんかは、他の食材でも、いえることだよね?


それでも、よく知らないのはね。ちゃんとした店で食べたり食用のものを購入して食べることをお勧めします。


次話から、章が変わります。お楽しみに。





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