2-15 大魔蟻(おおまあり)
今回は、大きな蟻を食べます。グロ注意かも。
次は、蟻。これもでかい。
くるりと2つに折り畳まれた全長は、先程の草魔飛くらいはありそうだ。
近づいて、蟻の匂いを嗅いでみる。つーんと酸っぱい匂いがした。だけど、嫌な臭いではない。薄めた穀物系食用酢を嗅いだような匂いだ。だけど、バッタのような草魔飛と同じで、表面の匂いだけ良いのかもしれない。
んー。これを食べるのかと思うと、げんなりとする。でも、もう外せない。
そう。これを、食べる。食べるのだ。
この蟻も蒸し上がっているので、関節部がふやけている。足が食べられそうかどうかを確認しようと、6本全ての足を外す。でかい割に、やけに足が細い。
あれ。中身が、からっぽ?
本体から外した足の中身を覗くと、内壁に筋肉らしいものが薄くこびりついているだけだった。そして、この外殻は恐ろしく硬い。こんなの、とてもじゃないけど齧れない。
この足は可食部ではなさそうだ。外した蟻の足は邪魔なので、包んであった葉の向こう側に寄せる。
蟻の頭を見る。噛まれたら痛いだけじゃ済まなそうな、強力な顎。
……のっぺりとした複眼は、何を見ていたのだろうか。
う。いや。そんなことを考えたら、食べられなくなるよ。無心になろう。
えいやと、硬い頭部を胴体から外した。すると、にゅるりとした気色悪い黄色の何かが、外した頭に続いて胴体から出て来た。
……。
えい。食べると決めたのだ。さあ、食べるぞ。
覚悟を決めて、蟻の頭を手に持つ。だけど、その手が震えてなかなか口に届かない。それでも、何とかして、その黄色い何かを口に含んだ。
「グルッガッ」すぐに吐き出す。
不味い。変にえぐみがある。これは、食べられない。食べてはいけない。急いて瑠璃色の水の実に手を伸ばす。その萼を剥ぎ、実を齧る。すーっとして、舌からえぐみが消える。
はあー。この実があって助かった。不味過ぎて舌が潰れるかと思ったよ。
「おい。大丈夫か。普通に解体していたから、毒持ちの唾液腺も食えるのかと見ていたが、違うのかよ。しかし、何だな。‘古トカゲ’。大魔蟻も食ったことがないのか? この辺じゃ、結構メジャーな食い物だぞ。この蟻の蜜腺なら、俺でも生で食える。ほれ、その腹の下の方だ。その境目に沿ってめくってみろ。その中に蜜腺がある。甘くて旨いぞ。お前なら、魔素含有量が多い他の臓器もいけるだろ」
カークが苦笑しながら、蟻の膨らんだ腹の中央より少し下辺りを指差す。
え。毒持ちの唾液腺だったの。これ。それじゃあ、端から食べ物じゃないよ。あー。うー。もう。
その黄色い唾液腺付きの蟻の頭を、外した足のさらに向こう側に置いた。
ふう。気を取り直そう。そうか。この蟻の腹部に蜜腺が有るのか。そういえば、蟻は蜂の仲間だと聞く。だったら下腹部にこそ毒腺がある可能性が高い。区別できるかな。さっきの酷いえぐみはこりごりだ。勘弁して欲しい。
早速、教えてもらった硬い外殻の継ぎ目に沿って、横に割いてみる。
すると、薄い皮膜を通して、両側に1本ずつ2本のバナナのような形をした黄金色の袋が見えた。その袋は細い管を介して胸部に続いているようだった。
この袋が蜜腺だろう。
さらに皮膜越しに内部を良く見ると、腹腔内は体液で満たされていた。その体液でぷにぷにとした内部には、気門と思われる穴から白い管が出てきて体幹へ向かって走っている。透明な管も並走しているが、血管だろうか。
その他は、よく分からない、もよもよとした蟹みそ様の組織が漂っていた。腹部に毒腺らしい組織は見当たらないようだ。
よし。中を開けるぞ。ついでだ。体液も試してみるか。
中の体液が零れないように腹部を上に正した。これは、仰臥位というのだったかな。それから、皮膜を正中線に沿って摘み、縦に小さく割く。蒸しあがっているからだろう、皮膜は簡単に、手で割くことができた。
ほとんど腹ばかりになった蟻を手に取って持ち上げる。割いた穴に口をつけて、中の体液を少し、啜ってみた。
お。これは、旨いかも。
爽やかな甘酸っぱい味がした。上質な果物系の飲用酢のような味だ。ごく僅かに甘味と酸味を伴う独特な旨味も感じた。
舌なめずりをする。
見た目程、量がなかったので、すすっと全部、飲んでしまった。
この味は、飲み物として申し分ない。ただ、大きな蟻の腹腔内だけに、見た目が悪いのは頂けない。ちゃんとしたグラスに氷と共に入れ、ミントでも飾ってストローを差してあれば、立派な旨い飲料になるだろう。
さてと。次は、カークお勧めの蜜腺だ。
蟻を葉の上に置く。先程、開けた穴から指を入れ、ざっくりと大きく横に割いた。蜜腺と、それに付随する細い管を取り出す。
ランタンのようなものに、取り出した蜜腺をかざす。つるりとしたバナナ状の膜の中で、黄金色の液体がきらりと光る。
これは純粋に綺麗だ。旨そうに見える。蜜腺に付いている細い管から飲めば楽だろう。管の先を口に当てて、袋状の蜜腺を押す。とろりとした液体が口腔内へ滴り落ちた。
うあ。むちゃくちゃ甘い。蜂蜜をより濃くしたような甘味だ。これにも、僅かに甘味と酸味を伴う独特な旨味が後味に感じる。
うーん。旨いには旨いが、甘すぎるよ。何かの調味料に使う方が良いと思う。カークは甘党なのかな。
蜜腺とその管は結構丈夫な組織なようで、引っ張っても破れることはなかった。中身の蜜がまだ沢山あるので、零れないように、その細管の端を結んでおいた。
その他の組織、気門から続く管や透明な血管のようなものは、こりこりとしていて、食感は面白い。だけど、味がほとんどしない。これらは、何かで味付けをしないと、物足りないね。
一方、もよもよとした組織は、ぴりっとした程よい辛さを感じた。さらに、舌でほろほろと解ける感覚と共に、円やかな脂肪の甘さがたまらない。
これは、あん肝に通じるような食感と共に、奥深い甘さと酸味を伴う独特な旨味を強く感じた。
いやぁ。これは旨いね。この味だったら、斜め切りにした胡瓜と一緒に食べたい。日本酒、それも熱燗と合うじゃないかな。
これって、素材のままで食べているから、変に感じているだけだね。部位毎に丁寧に処理をして、それなりの器に盛り付けたら、見栄えがする料理になるだろう。
それと、やはり慣れがあるのかな。蟹がそうだね。旨いと知っているから、丸ごと見ても、旨そうだと思える。蟹って初めて見たら、変な生き物じゃないかな。
こちらは、この蟻が旨いとを知ったから、虫を食べることの嫌悪感が薄らいだよ。だけど、草魔飛だけだったら、嫌だな。あれは食べたくないよ。飢えていたら、食べるかもしれないけど。
この蟻の味が気に入ったようです。




