2-14 鳥の卵のようなものと草魔飛(くさまとび)
卵とバッタ。
さて。次は鳥の卵のようなものだ。……虫系は後。
それは一抱え程もある大きさの、どでんと存在感がある物体。少し青みがかった白色の、でかい鳥の卵のようなもの。
それが、包みを広げた大きなバナナの葉のようなものの上に一つ、鎮座していた。殻の表面に手を当てると、まだ少し熱い。
えい。この卵を食べるぞ。
気合をいれて、卵殻を取り除く作業に取り掛かる。厚めの丈夫な殻だったので、ひびが入っているところを探した。すると、ひび割れは難なく見つかる。それを手がかりに、上半分の殻を取り外した。
ゆで卵独特の、硫黄を含んだ、むあっとする香り。それと共に、白くてつるりとした物体が顔を覗かしていた。あれ。普通の白身? その当たり前の状態を見て、気が抜けた。
……いや、まだ分からない。普通に見えるのは、表面だけかもしれない。
気を取り直して、取り外した厚めの殻の破片を使って、白く凝固している卵白だと思うものを取り除いてみた。
すると、普通に旨そうな卵黄がとろりと垂れて、湯気立った。
お。これはでかいだけで、普通の鳥のゆで卵だ。蒸しているから、蒸し卵か。これくらいでかい卵だったら、ダチョウよりもでかい鳥かも。
嬉しい誤算に、にいと、笑みが零れる。
さてと。味はどうだろう。
その白くて柔らかい卵白の小片を手に取り、口に入れて齧る。味はゆでた鶏卵にそっくり。むしろ、物足りないと思うくらいに、淡泊な味。
それじゃあ、卵黄はどうだろう。見た目は、とても旨そうだ。
取り外した卵殻をスプーン代わりに、とろっとした卵黄を掬って口に運ぶ。
うん。旨い。濃厚な味。
とろりとした甘い脂肪のまろやかな味の他に魔プラムと同じような、あの甘味を伴う深い旨味を感じた。さらに、その奥で、また違った複雑な味わいがある。美味と言う言葉がぴたりと当てはまる。
この卵黄だけで十分すぎる程、旨い。
ん? こちらが卵黄の旨さに舌鼓を打っていると、肩をとんとんと叩かれた。
振り向くと、カークが「呼んだのに聞こえんのか。ほれ、これで卵白も食え」と金平糖状の魔塩を木の皿に入れてくれた。
お。魔塩。喜んで頂きます。
通じるのかどうかは判らないけれど、とりあえず、目くばせで礼をしてみた。
早速、卵白に魔塩をかけて口に含んだ。
うーん。そんなものか。これも、いまいちだな。
期待に反して、じゃりじゃりとする魔塩の塩味と淡泊な卵白の味とが、そのまま分離していた。ん。卵黄か。さらに、卵黄も加えてみる。
うん。これはいける。卵白のつるっとした食感に卵黄の濃厚で複雑な旨味が絡み合う。魔塩が溶けて良い感じ。「キュルウルル」と喉が鳴る。
あー。旨い卵だった。だけど濃厚な味で舌が疲れたよ。
ん。そうだ。いいのがあるじゃないか。
魔珊瑚草を一つ手に取り、その萼をむいて深い青色の実を齧った。はあー。すーっとする。
濃厚なものを食べた後は、これがいいね。焼き肉屋で貰う食後の飴を思い出すよ。
そして、ミントのように涼やかで爽やかな“瑠璃色の水の実”の味を楽しんだ。
一息ついて、前方を眺める。
うぐ。でかい4種類の虫が、広げた葉の上に鎮座している。
もう、さすがに腹をくくらなければ。ぐっ。えい。
……。
さあーて。いよいよ、虫系といきますか。
虫系の初めは、バッタのようなもの。全長は先程の卵の長径の倍くらいはありそうだ。トノサマバッタのような四角な体形。全体的にボリューム感がある。
悲しくなりそうな程、食べ出がありそうだ。足は3対。バッタだけに、後肢がかなり発達している。これは可食部だろう。
バッタの後肢を手に取ると、ほろりと胸部から関節が外れる。同時に湯気が立ち、つきたての草餅のような香りがした。
つきたての草餅か。あー。これが草餅だったらいいのに。
いかん、いかん。バッタに集中しなければ。この後肢の先にある、ぎざぎざとしているものは痛そうだから注意と。ん。これも外れるか。じゃあ取ろう。関節から先の部分を取り払い、幅広い大腿だけにした。
あれ。この線は何だろう。外した関節から、どうぞ割ってくださいとばかりに、縦に白色の細い線が通っている。
外殻の横側から、両手でその白い線に辿って割る。硬い外殻が面白い程すんなりと縦に割れた。その中身を見ると、ぼんやりと光る薄気味悪い橙色の肉がそこにあった。
うあぁ。気持ち悪い色。
えい、食べると決めたのだ。食べるぞ。
意を決し、外殻から中身を取り出し、手に取った。ぼんやりと光る薄気味悪い橙色の塊の端を、少しだけ齧る。
ん? グミ菓子のような、むにゅとした感触が歯に当たる。同時に草餅のような良い香りがした。
あれ。これはいけるかな。ちょっと変わっているけれど、草餅の代わりになったりして。
そう期待して、さらに咀嚼した。すると、柑橘系の甘酸っぱさを伴う例の深い旨味と共に、ひねた野菜のような、もわっとした臭いが口腔内を覆った。
顔をしかめる。うあ。まるで塩を抜いた沢庵だよ。これ。
グミみたいな食感と柑橘系の甘酸っぱさを伴う深い旨味。これは良い。だけど、この野菜がひねたような臭い。これは苦手だ。できれば食べたくない。多分、あの中身はもっとひねた臭いなのだろうな。ボリュームがあるし、どうしよう。
一口齧ったバッタの肉を手にしたまま、途方に暮れる。
「おい。げんなりとした顔をしてどうした。草魔飛はリザドリスク科魔動物の大好物だぞ。ん。ふむ。そうか。ま。無理はするな」
あ。はい……お言葉に甘えて。
うん。やっぱりこれはダメ。外観もそうだけど、味がこれじゃあ、ね。
リザドリスク科魔動物の大好物か。だったら、アイラちゃんは、食べるかな。んー。バッタを食べるアイラちゃんね。何か、ちょっと変。笑えるかも。
そんな、どうでもいい想像をしながら、手にした草魔飛というバッタの肉を、包んであった葉の上に戻した。
バッタに完敗。
鳥の卵のようなものは、普通の卵だったようです。
でも何の卵でしょうね。




