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2-12 黄昏時

くつろぎの時間。

 静かな室内。


 新しくなった藁山の上で、毛布を敷いてくつろいでいる。


 今着ている服は風呂から上がった時に着替えた白いポンチョとステテコではない。同じポンチョとステテコだけど、薄手の生地に木と花をモチーフにしたらしい繰り返し模様があるものに着替えている。


 これはこれで、インド綿のような肌触りで、さらさらとして着心地が良い。薄手だから、保定魔道具の帯と鎖が多少透けて見えるのが難点。だけど、それも見なければ、どうということでもない。


 あの魔木苺まきいちご、旨かったな。カークから、木の器でもらった魔木苺は、量が多いかと思ったが、結局全部を食べてしまった。


 あれは、アイラちゃんのおやつだとか。彼女も、魔木苺を食べて楽しんだのかな。この施設の受付で、マスコットガールをしているとカークが言っていた。


 彼女は、ゆるキャラ系の二足歩行のリアルとかげで、好みが分かれると思う。だけど、確かにおとなしくて可愛い子だ。人気なのも、本当のことかもしれない。


 そんな、取り留めないことを呑気のんきに考えていた。


 演習のことはどうしたかって?


 今は、くつろいでいたい。だから、先程の演習のことは、えて考えたくない。


 だけど、あの饅頭型の幻を映す魔道具。あれは単体で映写をしているのじゃないというのが解ったのは、面白かったかな。


 その魔道具で再現されているという、凛とした声の女性。ようやく人間の女性だと期待をした。それで、彼女の顔をよく見ようとして、拡大注視をした時だね。


 彼女の背後にある壁に、きらりと虹色の光を認めた。すぐにその光は消えたけれど、またほかの場所で、同じような光を見た。


 そう。あのオパールのような粒と同じ光の色、遊色ゆうしょくを見たんだ。それが、外に向けて発光していた。これは変だね。


 それで気になって、饅頭型の幻を映す魔道具と壁の光との関係を観察していたら、饅頭もかすかかに光っていて、見事に壁の虹色の光と同期をしていたよ。


 あ。これは、あの饅頭と周り壁とが1セットの魔道具なんだなと思って、一人で楽しんでいた。


 どうして、そんな悠長ゆうちょうなことができたのかって?


 それは、精神的に逃げていたからだよ。覚悟を決めていたのにね。だけど、観察していたのは、ほんの一瞬だよ。


 ……ん? あ。これは、あのささやき声か。


 うん。でも、もう大丈夫。これって、害はなさそうだからね。


 そうこうとしている内に、窓の模様が徐々に朱に染まっていく。その窓にある生き物の翼も朱に染まり優美に映える。


 もう、夕方か。昨日の今頃はどうしていたかな。


 自然にそう思う、自分に苦笑をした。それだけ、ここに馴染んでしまったのか。


 うん。それでも、いいじゃないか。それじゃあ、想起したついでだ。ここでの記憶を辿たどってみよう。


 最初の記憶は魔法陣の中かな。そう。魔動物として召喚されて、この部屋に連れられて来て。不思議な歌を歌い、夢の中で夢をみて。魔プラムの旨い味に驚いて。


 カークの名前を知った辺りが、この時間帯だったかな。


 その後は、トイレの設定か。あれは大変だったけれど、興味深い体験だったともいえる。このことは鮮明に覚えているよ。これって、元に戻れたら何かアイディアのヒントにならないかな。


 次の日も、このまま続く可能性が高い。だとしたら、明日の今頃はどうしているのだろう。


 無事に……生きているのだろうか。


 たとえ、ここが夢の中だったとしても、死ぬのは嫌だ。まして、ここで死んだら、そのまま終わってしまう気がしてならない。そう。何としても、生き残らないといけない。


 ん?


 ふと、耳を澄ますと、からからと軽快な車輪の音がする。その音が止むと、扉のすぐ側で、かさかさと何か紙のようなものが擦れる音がした。


 この後、鍵が外れる音がして、がらりと扉が開く。見ると、カークが紙の帯のようなものを丸めて袋に詰め、ランタンのようなものを台車から取り出していた。アイラちゃんは……来ていないか。


 カークは、自然な光で照らす、その器具の照度しょうどを調節しながら、にやにやとした顔で言う。


「おう。何だ。がっかりした顔は。どうせ、お目当てはアイラだろ。生憎彼女は、休み時間で来れん。晴れて従魔候補になれば、いくらでも会えるぞ」


 いや。別に、アイラちゃんを目当てにしていないからね。


「ほれ。夕飯だ。明日は途中で魔素切れにならんよう、魔素含有総量が多い食材をそろえたぞ」


 彼はそう言いながら、床に幅広の何かの植物のくきで織り込んだものをき、その上に蒸された大きな葉っぱの包みを、ぽんぽんと並べていった。


 これは、「南サガラの森に住むリザドリアンがハレの日に食う馳走ちそう」だそうだ。


 巨大な葉で食材を包み、香りの良い木の皮のようなものでくくって蒸したという感じの素朴な料理だ。すすめられるままに、熱々の葉っぱの包みをほどいてみる。


 中身は、と。バッタのようなもの、蟻のようなもの、クモのようなもの。あ。これは、昨日の芋虫か。


 何だよ、これ。虫系だけじゃないか。それも、すべてがでかい。


 それでも、これらから良い香りがしている。昨夕の芋虫は旨かったという記憶も、ある。


 だけど、こうも、でかでかとした虫が沢山あると、流石に躊躇ちゅうちょする。こんなでかい虫を食べるなんて、慣れる訳がない。顔が引きつる。


 うん。まだ、包みはある。他を見て見よう。


 気を取り直して、残りの包みを解くと、大きな鳥の卵のようなものと、網目状に透けたガクに包まれた、色とりどりのピンポン玉のような丸い草の実のようなものが出た。


 うん。たまたま、虫系が続いただけだったようだ。ほっとする。


 それにしても、バッタ、蟻、クモ、芋虫ね。芋虫は、無難といえば無難だが、熱々に蒸し上がった大芋虫は……うー。やっぱり、後だ。


 虫系はすべて後。覚悟を決めてからだ。


 そうは言っても、一見無難そうな、鳥の卵のようなものも怪しい。こんなに虫系が出て来る、それもハレの日の馳走だ。これが鳥の卵だとしても、殻の中に孵化前のひな鳥が入っている料理を聞いたことがある。


 なので、これも、ちゃんと覚悟を決めてから食べることにしよう。


 何故、こんなにも、口に入れるに難易度の高そうな食材がそろっているのか。


 カークさん、意地悪をなされている訳ではないですよね。ええ。良かれとお考えになられて、お出しになられたのは理解しております。


 はい。もちろん全部、頂いてみせますよ。



さあ、いよいよ食バトル(?)が開幕されます。

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