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2-03 注意事項

 カークの威圧は凄いらしい。もっと凄い威圧もあったらしい。

 カークは、こちらに圧倒的な威圧を加えながら、言う。


「怖いか? なら、れろ。本番の怖さは、これどころではないぞ? いいか、お前自身の命にかかわるあらため事なのだ。そう肝に銘じておけ」


 え? 何? 何なの、これ「キュグルルルル。クァーラゥー」。


 カークはこの鳴き声を聞くと、むん、と胸を張って威圧を増加させた。


 怖いって。それ。もう泣きそう。


 本当に、とんでもなく怖い。でも、何だか、威圧に滅法めっぽう弱くなったような気がする。具体的に何かは、わからないのだけど、もっと凄い威圧の感覚が思い起こされる。トラウマでも出来たみたい。そんな記憶は全然ないのだけど。


「問う、お前のその“鳴き声”は止めることが可能か? 是か非か」


 え。あ。“是か非か”か。鳴き声は無意識的には出るけど、意識して止めることも可能だよ「チ」。


 カークは、その返事を聞いて態度を軟化させた。


「そうか。では、検め事本番では、短く鳴くのみとし、その独特な“澄んだ鳴き声”は、発するな。その澄んだ鳴き声は、お前の立場を危うくする。くまでリザドリスクとして振る舞え。良いな?」


 え。え?


「よく聞け。処分されたくなければ従順であれ。だが、意志は強く持て。誘導尋問に流されるなよ。お前を良く思わない議員がいるだろうからな」


 う。誘導尋問って何? 処分とか言っているし。検め事って何か、物々しい場所に連れていかれて、質問責めにされるってこと?


「処分、即ち死だ。擬態系魔動物だとしても、お前はあまりにも人間に近い姿だ。このことを危険視する議員の顔が浮かぶぞ。だからこそ、無害で有用そうだという印象付けが重要だ。そんな魔動物を従魔候補選定の場で処分とは、流石に出来んからな」


 処分は死って、殺されることか。そんなの、夢でも嫌だし怖い。とにかく、今後“鳴き声”を意識して止めることにしよう。


「お前の場合、無害なのは、保定魔道具の制御で事実上明白だ。むしろ、場の雰囲気に呑まれるのが問題だろな。次の有用であることは、すでに人間の作法のいくつかを心得ていることと、言語理解能力が高いことが訴求点か」


 保定魔道具ね。この黒い帯のことだろう。これで無害化するというのかな。


 だけど、無害も何も、こちらは元から無力だよ。ちょっとした水を蒸発させるだけで、ぶっ倒れるし。


 あと、場の雰囲気に呑まれるのは、どうだろう。確かに高圧的な場所は、苦手だし嫌だ。出来たら避けたい。避けられないの?


「そんなすがるような目で見るな。残念ながら当施設の魔動物召喚は事前登録制でな。検め事は避けられん」


 避けられないのか。だけど、嫌だな。精神的に耐えられることと、好き嫌いとは別の問題だよ。


 そう思っていたら、カークがこちらの顔をまじまじと見る。


 顔に何か付いていますか。


「昨日から、変だと感じていたが、従魔契約前だというのに、言語理解力が異様に高すぎる嫌いがあるな。今見ても、俺の言葉の細部まで、明らかに理解している顔や仕草だしよ」


 カークさん。それは、あなたがこちらの気持ちをんでいるだけですよ。それなりに、齟齬そごもあったりするけどね。


「ふん。だがよ、問題はこのリザイア目全般用の変換魔道具で、お前の鳴き声が全く変換できんと言う事実だ。これで、お前の“澄んだ鳴き声”がリザイア目系ではないことが明白だからな」


 変換できないのは不便だよね。もっと広範囲だといいのに。ほら、よくあるじゃない。何故か、すべて翻訳をする能力とか。


 ん。あれ。まさか。何か、カークが発声する唇の形が微妙に異なっているような気がする。そう。ほんの少しだけ、()()して聞こえる程度だけど。


「それに、お前は全くと言ってもいいくらい、リザドリスク科ミネティティ属種らしくない。書物での情報がないとはいえ、低位の擬態魔動物が、そんな人間臭い仕草を、そんな細かいところまで、当然のようにするかよ」


 これは、中身がこちらだからね。これも、この夢の設定に入っているのかな。


 受け答えの代わりに、思索をしていると、カークの表情が段々とけわしくなっていった。


「さらに、だ。お前にめた保定魔道具だがな。変だと思って、古代魔道具関連の書物を調べ直した。やはりヒト化する、ドラコー目ドラコー科のみに反応するという代物しろものだったぞ」


 カークの声色こわいろが硬くなる。


「魔素流放出紋は目科種毎に明らかな特徴があるといわれているのだ。それとも、魔道具が擬態に騙されるのか?」


 そう畳みかけるように言った後、短杖を突きつけ、こちらを睨みつける。彼の表情は硬く、その目には、恐怖の色さえ浮かんでいた。


「でだ。本当に、お前は何ものなのだ? 冗談抜きで本物の‘愉快な古トカゲ’、‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’本人という訳か?」


 え?


 彼は、いぶかしげにこちらを見る。その後、何かに納得したのか、ほっとした表情になり、肩の力を抜いた。


「鳩豆の顔? ……ふむ。白を切るつもりか。それならそれで良い。むしろ、検め事までは、そうしていろ。俺の方からも何とかするからよ。お前も擬態魔動物、リザイア目リザドリスク科ミネティティ属の変種ってことで、よろしくな」


 あれ。何か、勘違いされて、納得されて、よろしくされてしまった。これでいいのだろうか。


 ん。そうだよね。この夢も、流石に意地悪をやめたんだろう。


 カークは、先程までのことは、何も知らんとばかりに、笑みを浮かべた。


「ま。そういうことだな。じゃ、メシにしよう。朝飯だ」


 うん? 腹は減ってないけど。朝だから、朝飯なのかな。


 彼は、にやにやしながら、言葉を続ける。


「おう。お待ちかねの、雌性のリザドリアンも連れてきたぞ」


 あ。昨日、楽しみにしておけと言っていた、リザドリアンの女性か。お。今こちらの姿はかなり若い。だったら、相応に若い女の子が来るかな。若過ぎても困るけど。ん。どんな子だろう。ほんと楽しみ。やったね。


 うん。苦あれば楽ありだ。



 雌性のリザドリアンが来るそうです。

 

 本日は、2話投稿しました。

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