2-02 問題
気力が、無事回復したようです。
ようやく、動けるまで、気力が回復した。
どうやら、洗面台の前で、倒れ込んでいたようだ。
うーん。まだ、くらくらとする。とりあえず、洗面台を収納してと。
壁にある端子に手をかざした。洗面台は壁にするりと問題なく収納された。
これでいいか。終わり良ければすべて良し、と。
ふらつく重い足を運び、とぼとぼと藁山へと戻る。藁山は、すぐ目の前にあるのに、すごく遠いように感じた。
棚の上の器が目に入る。
お。魔プラム。食べよっと。
最初に確認はしていたが、すっかり忘れていた。
自分でもびっくりする位、そそくさと魔プラムがある棚まで近づく。棚の上にある器に入っている魔プラムを手に取り、早速、こすって頬張る。
んー、これこれ。この、甘味を伴う奥深い旨味。
いいねー。やっぱり旨いな。これ。
次の魔プラムを食べようと、実をこすっていると、チュンチュク キュルウルルと、小鳥のさえずりに似た、嬉しそうな鳴き声が喉から迸る。
もう、この鳴き声にも慣れたよ。無意識に出て来るしね。
ぐだぐだと考えても無駄。そういう声なのだと、認めるしかない。
魔プラムを2、3個食べて、その旨さに、チュンチュクと幸せを感じていた頃。扉の方で、がさごそと音がした。
ん?
口に放り込んだ魔プラムで、頬を膨らませたまま、扉の方を振り向く。
錠が外れる軽い音がしたと思うと、がらりと扉が開いた。
「おはようさん……って。お前なぁ」
そこには呆れ顔のカークがいた。
「小動物じゃないからよ。そんな顔で出迎えるな。知性あんだろ? お前」
そう言われても、タイミングがね。そのまま、魔プラムをもぐもぐと食べた。そして、吐き出した種を、ガラ入れ用の小さな木の器に入れる。
「全く。警戒心の欠片も無しってやつか? 呆れたやつだな」
カークは呆れた顔のまま、微笑みを浮かべる。
「ま。いいけどよ。俺としても、そのほうが、気が楽ってもんだからな。‘愉快な古トカゲ’」
彼はがさごそと、何か波形が描かれた巻物を広げ、次第に顔をしかめる。
「だがな、お前。何でまた、異常に高い魔素強度値の山が出るのだ?」
彼は、巻物の波形を見せ付けるようにして、曲線の一部をなぞりながら示す。
「ほれ。ここだ。小さな山が1つ。2ジェイマだ。ま。こいつは、環境放出魔素粒子や、魔道具感知誤差などで説明が付く」
ん。ちょっと遠いから、よく見えないけど。あれ。何か、見えて来た。うん。ぴょこっと、小さい山があるね。
まるで、カメラソフトのズーム機能で、覗いているような感じ。視野は狭くなるけど、本当に鮮明に見える。そう。ここは夢の中。それも、思いのままにならない、意地悪な夢。こんなことだけは、都合よく出来ている。
「問題は、ここだ。馬鹿みたいにでかい山が1つあるだろ。36,133ジェイマだ。こいつは 通常集団術式でも、なかなか出ん値だぞ。それでも、昨日みたいに、大幅に振り切れんかったから、警報は鳴らん」
へえ。ほんと。振り切れ寸前だね。というか、その山の頂上は、横に薄く描かれている直線の束から、はみ出ている。だけど、それをこちらに言われてもね。
彼は、別の巻物を取り出して広げ、それを食い入るように見つめていた。
「ふむ。履歴を見ると、4半刻前の洗面台使用時か。何をやらかした?」
え。何って。洗面台といえば、多量の水が出て、ずぶ濡れになったから、その水を何とかしようとして……。
「キュグルルルル。ティーアキュラアーララクーアルルル――」
あれ。思考と一緒に、自然に鳴き声も出た?
こちらの思いとは別に、カークは再び巻物を見つめて、ぶつぶつと言っていた。
(ほう。鏡まで出したのか。む。わざわざ仕舞った? その後か。例の数値が出たのは。何。給水量と瞬間湿度変化量に異常マーク? これは何かが起こった結果なのか? いやいや、あり得んな。やはり、魔道具側の問題か。ちと古いからな。中の偏魔素光魔鉱石のいくつかが、ひび割れたとかして不安定になったのかもしれん。早急に点検修理に出さんといかんか。だが、結果は結果だ。原因の精査をせんとな。やれやれ)
カークは、その後、耳に付けた燻銀色の小さくて丸いものを指でいじりながら、複雑そうな顔をして、こちらに目を向けた。
「ふん。直接、お前に聞けたら楽だろうよ。だが生憎、このリザイア用の言語変換魔道具では、お前の鳴き声が変換出来んようだ。ま。大抵の事は、顔や仕草を見れば分かるな」
え。こちらの声、聞こえていたの。聞こえていないと思っていた。
言語変換魔道具って、便利そうなのが出たよ。だけど、それで変換出来ないとか言っている。 うー。この夢は、どこまで意地悪なの。
しばらく、思案気だったカークの表情が、何かを決意したように変化した。
彼は短杖を手にして、扉を閉めた。徐に扉から離れ、こちらに、ゆっくりと向かって来る。
そして、不気味な短杖の頭をこちらに向ける。
「このままでは何だな。‘座れ’」
自らの意思とは無関係に、ぺたんと床に座らされた。
「ふん。情けない顔をするな」
え。情けないって、そんな……。
カークが向かい合わせに立つ。逆光で表情がよく読み取れない。低い位置からだと、でかい男が余計にでかく見える。
それに、見上げると、マントで隠れていた、魔法使いとはとても思えない、ごつごつとした腕節が露になる。まるで生きた金剛力士像のようだ。とても怖い。
どしっと重量感のある、強い威圧に押される。
「これから“是と非の問題”を行う。俺が是か非かと問うた時、そうであるなら、“チ”と短く鳴け。違うなら左を向け。良いか? 始めるぞ。問う、お前は魔プラムが好きか? 是か非か」
どうでもいい話の是非を問うのに、否応のない威圧。
何なの、これ。
「……チ」
うん。魔プラムは好きだよ。だけど、カークさん。
あなたが、とっても怖いです。
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