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1-13 朝が来た

朝になりました。

 目に光が当たる。


 うーん、眩しい。……朝か。


 目を開けると、目の前は、またしても藁ばかりだった。


 斜め上方を見ると、太陽と同じような色合いの穏やかな光が、見慣れてしまった大きな扉の透かし模様から差し込んで来ている。丁度その光が、こちらの頭に当たる角度に当たっていた。


 そう、太陽の光。この光の色は、良く見知った太陽の光と同じように感じる。朝日が昇った少し後の、黄色が勝った白色。こちらは、この光を太陽光と同質な光だと認識する。


 今、差し込んでいるこの光が、太陽と同じように、空から降り注いでいるのかどうかは、知らないし判らない。そのように見えているだけの可能性だってある。


 見上げても、扉の浮き彫りの隙間から零れ落ちる光なのだ。全体を見渡すことはできない。それでも、とても優しい光だ。癒される。


 ん。あれ。昨日というか、この部屋に入る前、外の景色を見た時だ。短い影で、ここも真昼なのかと印象に残った。そう。全く違和感がない、日向ひなたと日陰だったのだ。そして、上の窓から夕日そのものといってよい茜色も見た。


 そうか。落ち着いていられるのは、見慣れた太陽の色だからか。


 この壁が光った時の、気味の悪い黄緑色の蛍光色だったら、ぞっとする。全てが変な色に見えてしまうだろう。


 実際、この壁を光らせた時、部屋全体がお化け屋敷のアトラクションみたいで、とても気味が悪い色だった。あれは嫌だ。ここが、そのような場所じゃなくて良かった。


 昨日の食べ物だって、変な色になって、全く食指が動かなかったと思う。冗談抜きで、あの食べ物の旨さを知る今は、不味まずい色に見えるなんて御免だ。


 そう思うと、慣れ親しんだ色で見えるというのは、とてもありがたい。


 それはともかく。


 予想通りというか、何というか。


 先程まで見ていた夢が、いつも夜に見るような夢だった。それで、起きてすぐは、家の布団の中だと、とても期待をしていた。


 続きのある夢? 確かに、既視感を伴う夢を何度か見たことがある。


 だけど、今は目を覚まして起きたという、半端ない実感がある。


 そう。ぐっすりと眠った後の、すっきり爽やかな朝の目覚めなのだ。それに、今は朝だという実感が凄い。まるで朝スイッチが押されたかのように。


 ん。朝スイッチね。そういえば、実際に存在するとか聞いたことがある。太陽光を一定時間浴びると、体内時計がリセットされるとか。これがそうなのかな。


 ぐいと上半身を起こす。包まっていた毛布から出て、自らの姿を確認した。


 うーん。残念。これも、昨晩と変わらないか。


 着ている服は、縁に派手な模様があるポンチョにステテコ。手足にリアルな鱗模様。両手首と胴に填まる黒い帯と、それを繋ぐ鎖。


 うー。んー。そうか。これは、現状を認めるしかない。


 毛布を下に敷いたまま、ずるりと藁山から滑り下り、立ち上がる。


 ん。あ。ポンチョが偏った。


 内側から手で布をつまみ、左右に引いたり下げたりして、位置を整える。


 現状を認めるにしても、この鎖が目に映るのがとても嫌なのだ。逆に、視界からこの鎖が消えたら、気になるものではない。


 単なるごまかし……それはそうだけど。


 こちらは、そうすることで気が収まるから、そうする。それだけのこと。


 こんなものかな。 ふぁあー。


 ん。欠伸あくび? あれ、変だな。眠くないのに。


 あ。そうか。嫌なものを見て、緊張でもしたかな。それじゃあ、気持ちをほぐす為に、伸びでもするか。


 両足を踏ん張る。肩と背中を反らし、両手を下に下ろして大きく伸びをした。


 うん。いいねー。気持ちが良い。


 吸い込む空気が旨く感じる。それに、昨日のしつこい気だるさもない。本当に、すっきりとしている。


 だけど何か、この状態に慣れるというのは、妙な気分。


 そうはいっても、今はどうすることもできない。だったら、悩むだけ損。気持ち良く伸びができる方法を見つけた。それでいいじゃないか。


 うん。今は、すっきりとしているから、何か違う発見があるかもしれない。


 ぐるりと、部屋を見渡す。


 総石造りの部屋だ。その見慣れた壁のブロックに近づく。その石をよく観察すると、何となく安山岩に似ているなと思った。更に近づいて調べてみる。石に入っている結晶なのだろう、様々な色や形の粒々があって、中々楽しい造形をしている。


 ん? この粒の質感。オパール? 蛋白石たんぱくいしかも。


 オパールの日本名が蛋白石という名前だけど、アミノ酸で出来ているんじゃなくて、水を含んだ二酸化ケイ素だとか。水に浮いているガラスのようなものだと聞く。この石は、火成岩みたいだから、石の隙間に熱水ねっすいが入って出来たのかな。


 あれ。この粒、遊色ゆうしょくまで出ている。綺麗だね。まるで宝石のようだ。


 お。よく見ると結構入っている。何種類か、大きさが違うのがあるな。粒の形が揃っているようだ。だけど、何だか粒の位置に意図があるような気がする。これって、もしかして、わざと入れてある?


 へえ。面白い。オパールって、天然のフォトニック結晶とかいうのだったかな。光の屈折率を変化させる半導体のような性質を持つとか、どこかで読んだ記憶がある。この壁が光るのと関係していたりして。もちろん、知らないけどね。


 うーんと。再び、周辺を見渡す。


 高い天井で窓があり、扉の透かし模様から朝日が差し込む空間。差し込む光が空中を舞う塵に反射して帯になっている。きらきらと光って、とても綺麗だ。


 その光の帯に誘われて、その扉の模様と天井の窓の模様とをしばらく眺める。


 ゆったりとした、静かな時間が流れる。


 うん。ゆったりとした、静かな時間。これは、とても贅沢だよね。


 すうと深呼吸をする。そして、その時間を楽しんだ。


 ん。


 そのままね。だったら、あれもあるかな?


 棚の上を見る。


 ありました。魔プラム。


 その旨い実を頬張った時の味を想像した。


 つい、にゃっと、にやついてしまった。



とりあえず現状を認めることにしたようです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら先ずは第1章の終わりまで拝見させていただきました! 全体に漂う空気感が素晴らしいですね! 森野さんらしい、詩的で幻想的な雰囲気が、読んでいて心地良いです! ラケルタくんも可愛い…
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