7-06 カークの分室で
サブタイトル変更しました。
あの無駄に煌びやかな最上階の分室なのです。
「おう。来たか。入れ」
分室へと続く重厚な扉の奥から、カークの野太い落ち着いた声が響く。
うん。もうなんだか、これは定番だよね。
いつもと同じように、この重厚な木の扉をゆるりと開ける。この赤みが差したこげ茶色の扉は、南米産のマホガニー材のように優美なリボン杢を有している。
ほんと。この杢目の美しさといい、草イチゴの実と葉ようなものを模した意匠の細やかな彫り物といい。これは贅を極めているよ。
ここまで趣向を凝らしてるのは、例の見た目の影響だけではないだろう。この扉には、カーク本人の趣味も入っているんじゃないかな。うん。
そして、この重厚で立派な扉。でかいといえばでかいけど、全体的にバランスがいいので、品のあるでかさ。
そして、この扉の見た目は重厚だけど開ける苦労は全くない。ノブに手をかけて開けようとすると、音もなくすっと開く。
そう。これは軽いというどころではない。
一種の自動ドア。この分室へと入る一番初めの時は、緊張をしていたのだろう。これが半自動的に開いていたのに、まるで気が付いていなかったけどね。
そして、その扉の開いた先には。
カークがいつものように、奥の机の方でゆったりとその巨躯を椅子に預けていた。そして、こちらに向かって、にこやかに微笑んでいる。
その両袖付きの立派な机の天板には、食材らしきものが、いかにもサンプルですというような感じで整然と並んでいた。
ん? あれ。
旨そうな香りにつられ、手前側に目を移す。
お。
そう。このいい香りの原因。
これには思わず、入り口付近で突っ立ったまま、凝視をしてしまった。
いや、その。何だろう。
ここで朝飯があるだろうなとは思っていた。だけどこちらの認識では、カークさんの料理はね。どちらかといえば、アジアンテイストなんだ。それも素朴な方の。
そして今ある料理。
優美な猫脚のローテーブルの上。白いレース仕立てのテーブルクロスに銀の大皿のようなもの。そこに旨そうな料理がいくつか並んでいた。これらの馥郁たる香りが、鼻腔を擽ってくる。
そう。西洋料理っぽい感じ。といっても、そんなに手は込んでなさそう。だけど、とても洒落ている。これにはびっくりだよ。うん。
「む。何だ。入り口付近でじっと見とらんと、部屋の中に入らんか」
カークが苦笑いしたような顔をして、こちらを促す。
ん。あ。そうだね。そうだった。テーブルの上にある食べ物にばかり目にいっていたよ。だって、とても旨そうなんだ。
といっても、呼ばれているんだ。こちらは慌てて、この豪奢な分室の中へと入る。そして料理があるローテーブルを横目に、椅子に座っているカークの傍までいった。
「ふむ。この料理に興味があるようだな」
うん。それはもう。こんな旨そうな料理、すぐにでも食べたいよ。
「そうか。だが、人間用の食い物は飽きたのではないのか?」
と、何故か静かな調子で問うカーク。その視線が冷たくて鋭い。
え。ええ? いや。そんなことはないって。
そりゃあ、魔動物用の魔素濃度の高い食材と比較してしまうと、あの独特な旨味が薄いから、物足りないことがあるけど。
それはそれ。これはこれだって。この料理は、ぜひとも食べてみたい。
「おう。そう必死に乞うような目をするな。安心せい。お前の期待通りだ。このテーブルにあるのが、これから食う朝飯だぞ。ははは」
ついさっきまでの冷たさはどこへやら。とても嬉しそうに破顔をしている。
これでは、いたずらっ子そのものだよね。でっかい体躯のいいおっさんがどうかしているよ。ほんとにもう。これも慣れたからいいんだけどね。
こちらは、こういったいたずらに何回かやられてる。だけど、彼のいたずらは、全くといっていいほど悪気というものがない。
それで。その優美な猫脚のローテーブルにある料理というのは。
今回のメイン。中央にどてんと置いてある。そう。昨日仕留めてきた草原魔野雉のグリル。だけどこれは丸ごとではなく、上品な形に切り整えられて、丁度良い大きさに分けられている。それも何かの葉物のようなものと交互に並べられていた。
この食材は今朝早くに来たばかりなので、同じく送られてきた魔鳳梨の実で処理をして、この肉の結合組織を解して柔らかくしたという。
そして、この魔鳳梨の実の実物を見せてもらった。というか、カークは嬉々とした様子でこの実の説明をしている。
たぶん、この魔植物の植生とかの件は、あの魔植物に詳しいジュライさんから教えてもらったものだろうね。
そう。この実は魔真水の実と同じで、パイナップルに似ている。むしろ、この魔鳳梨の実の方がパイナップルに近いような気がする。
この実の外壁には果肉があるからね。だけどこの果肉の色は、元の世界で見慣れていたパイナップルの果肉のような黄色いものではない。
この果肉の色は透き通って見える白色なんだ。そう魔真水の実の外壁とほとんど同じ色。若干魔鳳梨の果肉の方が白色が強いといった程度。
そして、魔鳳梨の生の果肉。これも食ってみろとカークが新たに切り落とした実の果肉を勧めたので、小片を齧ってみた。
これの食味は、さっくりとしていて歯ざわりはいい。だけど、僅かにピリッと舌に障る、痛みそのものに近い渋味がある。
うーん。何だろ。この実には、これっといった味はしない。そして、後味にあの独特な旨味もない。なのでこれは、好んで生で食べるものではない。
幸い、その渋味のようなものは、そう後に残らないものだった。
こちらがこの実を食べている時、にやにやとしていた。そして、こちらをとても興味深そうに眺めていた。
「ほう。そうか。この系統の味覚は人間と同じか」
そして、半ば感心しながら言葉を発する。
ん。あ。これは時々あるんだよ。カークが一緒に食べようと誘ってくる時は。
そういう時は、どうやら、ここでも変わった食材の場合が多いみたい。そして、今のように、こちらが食べた時の反応を観察しているんだよ。
こちらも、これはこれで構わない。口に含んで旨かったものも多いしね。それに最初に食べて良くない反応をした食べ物は、次からは、まずでてこない。
といっても、これはカークと一緒に食べるときの話。
他の皆と一緒に食べる時は、相変わらず、好きに食え方式。それが段々食材の種類が減って好き嫌いなんていえなくなってきていたけどね。
これも、昨日までのこと。こちらが参加した班以外にもいくつかの従魔候補の班が野外訓練に出ていて食材収集をしたからね。基本班は契約主毎だから、だいたい魔動物種毎になる場合が多い。
「すまんかったな。では朝飯を食うか。お前はこちらに座れ。ラケルタ」
お。これでようやく朝飯にありつけられるね。
ごくりと喉が鳴る。
そう。こちらは腹が減ることはない。
だけど、旨そうな匂いにつられて唾液が出て仕方ないんだよ。
次話はこの朝食の話がメインになる予定です☆
どうぞ、お楽しみに。*^^*




