7-05 室内着のこと
お待たせいたしました。
うーんっと。
伸びをする。もちろん、いつもの形。
ふう。やっぱり伸びをするのは、気持ちがいいね。
今は自室にいる。
そう。あのあと、そのままカークと共に、この施設内の自室まで戻った。そして、外出着から室内着に着替える。室内着といっても、例のでっかいアップリケ付きの可愛い支給品のポンチョとなる。
今日のは、これでどうだとばかりに、さらにグレードアップをしていて、花のような香りまでする。それから、何ていうのかな。主に濃い紫色の集合花。それが、四角い棒状の細長い茎の上に綺麗に整列したものが束になって縫い付けてある。
何て、細かな仕事なんだろ。
その小さな花の紫色が微妙に変化をしている。こんな時間がかかりそうな手間をするんだったら、他にすることがたくさんあるだろうに。
ほんとにもう。誰なんだろ。これ。
そう。まだこれが誰の仕業で、このようになっているのかは不明。カークが犯人でないのは明らか。こちらが着替える時に吹き出すし、再びあんなに盛大に笑ったのだから。
え。あ。ん。いや。カークにそういった趣味がないことを祈りたい。
ぶるりと首を振る。何かとても嫌な方向に想像が膨らんでしまった。
とにかく、今は、こちらだけがいる。そして、ほっと一息をついているところ。カークはこちらが着替え終わったら、その外着を持って出ていった。何か、急いでいたような感じがした。
それでも、食堂はもう閉まっているから、これでも食っとけと、すでに殻を剥いた状態の魔胡桃と殻付きの魔真木魔実の種をいくつか置いていった。どうやら、これらは最初から準備をしてくれていたようだ。
魔真木魔実の種を手に取る。この種の中には、魔胡桃と同様、鬼胡桃のような形をした仁が入っている。
そして、魔真木魔実の種の殻を割る。そしてその中の仁を口に含む。
う。やっぱり、この仁の最初は渋いな。
だけど、この後のクリーミーな独特な味は、魔胡桃の仁より旨い。これはもう、次から次へと後を引く味。うん。初めて食べた時と何ら変わらないよ。
そう。魔真木魔実の種。これを最初に食べた時、ルークの怒涛のように流れ込む難解な専門用語と数字を含む講釈をバックミュージックにしていたんだっけ。あの時は検め事本番直前で不安だった。
だけど今となっては、懐かしい場面のひとつだよ。
さて。今日は、なんだかんだといって色々とあったね。結構疲れたよ。特にこんな時には、暖かい風呂に入りたい。
だけど、共有で使用する温水の風呂は時間切れ。なので、自室内にあるシャワーで身体を洗うこととする。
このシャワーも端子をかざすとちゃんと湯が出るよ。ここに赤い魔鉱石が入っているからね。外に出て冷えていた身体が温まって来た。
柔らかいベットに、ふわりとした布団。湯冷めをする前に、その中へと潜った。そして、その中でぐにゃりと寛ぐ。気持ちが良い。何気に贅沢な気分となる。
そのまま、深い眠りへと落ちていく。
あまりにも深い眠りだったので、何の夢も見ることもなかった。
否。何か夢を見た気がするのだけど、それが何だったのか忘れてしまった。
そして、自室に朝日が差し込んできた。
そう。朝が訪れた。
今日は休日だよ。なので、朝は少しゆっくり目。
そう。そして、この朝はカークに呼ばれている。この居住施設内にある契約主のプライベートな応接室。あの無駄に煌びやかな分室に来いとのこと。
その場所はもちろん知っている。分室の中に入ったことも、今まで数度ある。
今日は朝ぬきで来いとのこと。ジュライさんから送られてきた食べ物を一緒に食べるということになっている。なんせ、人間用の食材だからね。同じものを食べることができる。それを言うカークも、心なしか嬉しそうにしていたように思えた。
とにもかくにも、着替えて行こう。
いくら、時間的に余裕があるといっても、そう遅くていい訳でもない。
招待を受ける時って、準備の関係で、早くに行くのは良くないって聞く。
だけど、それはそれ。ここの時間ってかなりおおざっぱだからね。こちらの感覚としては15分単位くらいかな。これって、それなりに細かいかもだけど。それほど目くじらたてるほどでもない。
その準備といっても本当に何もない。洗面台の水で顔を洗って、従魔候補の首飾りを付けるだけで終わり。この室内着で良いと言われているんでね。
今は室内着も外着もアップリケ入りだから、外着にしたって、ただそのポンチョの生地が丈夫で厚手のものになるだけともいえる。
いいんだけどね。これでも。だけど、どうせなら、こんな可愛いのじゃなくて。もっと、なんかこう、そう。かっこうがいい服を着たいよ。
え。あれ。
んー。なんとなく、こちらの精神年齢までも若年化してきているかも。
いや。こんなことを気にしてもどうしょうもない。行こうっと。
自室の鍵のないドアを開けて、廊下に出る。
この廊下を行き来する者はいなかった。たまたまかもしれない。
カークの分室は、この居住施設と同じ建物内にあるから、こちら一体だけで行くことができる。
居住施設の緩やかで無駄に豪華な飾りがある石段を上る。そう。最上階まで。例の豪奢な扉を開ける。相変わらず軽い心理的抵抗を感じるが、毎回のように無視をして進む。
ふっかふかな絨毯。今回は素足でじっくり踏みしめて堪能をする。
はあ。気持ちがいいね。
ん。いいじゃない? 時間があるんだから。
ここへ少し早めに来たのは、この気持ちのよい絨毯を堪能するためだったりする。慣れてくると、こういった余裕もでる。
流石に何もなくて、ここには来れないからね。めったにない贅沢だよ。これは。
そして、お馴染みになった、草苺の葉と実のようなものを意匠とする彫り物が施された重厚な木の扉。その前に立つ。
さて。そろそろかな。
その扉にノックをした。
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