7-04 宵の口の繁華街
施設へと戻る道を行く。
今は、歩いているよ。町の中では、徒歩での移動が基本。
夜道の徒歩は危険じゃないかって? この町の中では、たいした危険はないよ。むしろ、元の世界の夜の繁華街の方が、いろいろと怖いんじゃないかな。
そうはいっても、普通に人間の悪いやつもいる。でも、この町に限って言えば、その数はとても少ない。とても警備が徹底されているからね。これは、町の財政が豊かだからできることだと思う。
丁度ここに、伯爵領の紋章を付けた警備員の人間とその正式な従魔たちが巡回をしているのが見えている。とても頼もしい。
あ。向こうから挨拶をしてきた。
主であるカークと共に、こちらもペコリと軽く会釈をする。
もちろんこちらは魔術師とは思えないほど筋骨隆々としたカークと一緒だから、何も怖いものはないけどね。
今は従魔候補とはいえ、契約主に守られている従魔ってどうよ、というのはある。だけどこちらは非力なんだ。これは仕方がないよ。
そして、この中心街の大通りの幅はそれなりに広い。だけど、この町にある道の、その多くは狭い。それにここは、領主である伯爵が居住する城下町だからだろう。妙に入り組んでいる場所がある。なので、結果的には徒歩の方が楽。
この広い中心街の道でも魔獣馬の馬車は使用しない。
そのでかぶつの3対の蹄の重みで、外の街道ほど丈夫な造りではない町中の道が傷みやすくなるというのもある。だけど、その落とし物を避けるためだとのこと。
魔獣馬たちは、がまんができないからね。ところかまわず粗相をする。そして、この中心街では、食料品を扱う店も多い。道がばっちいのは、とても困る。
そう。ここは驚異的といえるほど、衛生管理が徹底されている。すでに、微生物というか、魔微生物の概念が確立している。出初めで高価なんだそうだけど、あの手を洗う洗浄魔道具も、それなりに普及をしている。
その情報発信元は、やはりというか、あの新たな魔道具を開発しているナーガラ帝国の中央都市リーン。まだ正式な許可がおりていないようだけど、こちらも一緒に行くことになっている。
そしてこの繁華街では時折、数体の力自慢で鳴らしている魔動物種の従魔たちが巨大な荷物を背負ったり荷車を押したりして、この大通りをせっせと行き交うのを見かけていたりする。
もう暗いから、そういった従魔たちに出会うのは、そう多くはないけどね。
今回の野外訓練で採集したあの多量の食材も、そうやって施設まで運ばれていくのだろう。
日が暮れて、すでに暗くはなっても、多くの者が行き交う繁華街。この町の中心部は特に飲食店が多い。楽し気に何を食べようかと話しながら出歩いている者たち。
ここの大通りには、街灯というものがない。だけど両端にひしめき合っているように建っている店の明かりが煌々と灯っている。その明かりが道のほうまで届いているため、こちらの足元も結構明るい。
そしてその明るい源である各々の店から、夕飯用に調理された料理の香りが鼻腔を擽る。そう。堪らないほどのいい匂いが、そこかしこに漂っている。
あの[ぐりる・まるべりー]の看板も間近に見えて来た。
突然、カークの歩みが止まる。
あれ。こちらの歩みが遅くなっていたかな。
そして、こちらがいる後ろを振り向いて問う。
「む。どうした、ラケルタ?」
え。あ。えと。できたら、あの店で食べたいな、と。
こちらは、そのことを示すために、その店の方向を見て、腕を伸ばし人差し指で差してみた。
カークも同じく[ぐりる・まるべりー]の看板を見てくれた。彼は、ゆっくりと頷いて納得をしたような素振りをした。
「おう。そうか。だが、ちと時間が押していてな。残念だが寄り道はできん。先を急ぐぞ」
そう言うなり、カークはすぐにその顔を前へと戻してしまった。
そのまま、先へと歩き始める。
あう。ほんとに残念。めったにない機会だったのに。
とはいえ、こちらはどんなに時間が経っても腹は減ることがない。なので、全然構わないといえば、構わない。
だけど、この口の舌は、あの店のハンクさんが作る旨い料理の味を覚えている。とても寂しい。
さらに歩き進めると、中心街の賑やかな喧噪が途絶えていく。そして段々とその道幅が狭くなり、暗くなっていく。
ここまで来ると、建物もまばらとなる。綺麗な星明かり。星降る夜というのは、こういうことをいうのだろう。
ニサンの町はどちらかといえば乾燥気味。昼の気温は丁度良いか少し暑いくらいだったけど、日の落ちた今は、涼しいそよ風が吹くので、少し寒いくらいだね。
今日はいつもより遅いけど、繁華街で仕事をした時の帰りは、こんな感じかな。思えば最近は、施設内での子守りの仕事が多いから、繁華街のところへは、ほんとに数えるくらいしか行ってない。
それからしばらく歩く。ニサン伯立従魔施設院の文字。そう施設に着いた。
そして、いつものように受付で手続きをする。町の外に出ても、すでに門でした記録がここまで伝わっている。なので、この手続きは普通に町の中での仕事をした帰りと同じ。
具体的には、この端子に、指示されたタイミングで、手をかざすだけ。
そう。シンプルそして簡単。もちろん受付の裏方のほうでは、そのための準備をするだろうから、大変かもしれないけどね。
うん。ほんと。慣れを通り越して、家に帰ったという気分。ほっとする。
あれ。まだ受付の職員が、ごそごそと何かを確認しているよ。珍しい。
「あ。そうそう、カークさん。あなた様に手紙がきていますよ。しばらくお待ちください」
「む。そうか」
そういいながらも、カークも何だというような顔をしている。
「はい。お待たせをいたしました。これになります。お確かめください。これは何か手違いがあったようですよ。差出住所は近場ですのに、かなり遅れて配達されています」
そうして、受付の職員はカークに四角い革袋のようなものを渡した。
そういえば、リザドリアン属羽毛種のパラ先輩とオルト先輩が、正式な従魔となる大事なテストを兼ねた郵便配達訓練でへまをしたっていう話を聞いた。
もしかすると、この手紙もそうだったりして。
ここに読みに来てくれて、ありがとうございます。*^^*
これを更新する前日、レビューをいただいて、とてもほくほくとしています。
そしてブックマークとかも増えています。
それだけ読んでくれている方が増えてくれているんだと思うと、
とても嬉しいです。ありがとうございます。




