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7-03 カークとジュライさん

ちょっとした誤記修正をしました。

 こちらの契約主となる魔動物召喚魔術師、カークと共に馬車から降りる。


 もうすでに日は暮れている。


 目線を上げると、透き通った濃紺の夜空に星の光が揺れてまたたいているのが見えている。


 そういえば、月というか、そういうのは見てないよ。せいぜい、小さな月見団子くらいの大きさの星がいくつか見えるのみ。もちろん、これでも普通の星よりかはでかいけどね。


 そしてその小さな月見団子には影が見える。その影には周期的な満ち欠けがあるようにも思える。


 目を水平に戻す。町のほうで、明かりがちらほらと灯っているのが見える。


 ここでの照明は、魔道具を使用しているとか。それも、魔道具を使った照明は、それなりに普及をしていたりする。これは魔鉱石採掘場の魔鉱石で潤っているからとのこと。そういう意味では、この町はとても豊かで発達をしているよ。


 ここは町の門の傍にある馬車の停留所。夜に出発をする馬車なんて、そうざらにあるわけではないから寂しいもの。先程までこちらが乗っていた、どでかい馬車の車両がポツンとひとつあるのみ。


 この車両を引いていた魔獣馬まじゅうまたちは、少々無理をさせたとのことで、早々にこの近くにある厩舎に連れていかれていた。今はすべての馬具から解放されて、馬房の中でのんびりと豆の葉に似た魔馬草ままくさを食んでいるところだろう。


 進行方向に目を向ける。ここの場所は結構暗い。


 町の門から続く壁の近くだからね。


 え。いままで、よそ見をしてたのかって? 大丈夫だよ。カークが引くその引き手のままを歩けば、それでいいからね。これは気楽なもんだよ。


 少し歩くと、ぽっと明るい場所に出た。


 そこには、待合のちょっとした小屋の様になっていて、そこからランタンのようなものが灯っていたのが見えている。カークは、何の躊躇いもなくその扉を開け、ずかずかとその中へと入っていく。


 そして、ピタリと足を止める。


 そこには、ゆったりと待合の椅子に座っているジュライさんがいた。


 そして、大型猫科のような頭をした人型魔動物、一体だけ家猫頭だが、フェリスアン属種がいた。彼らは皆、彼女の正式な従魔たち。


 精悍な彼らはどこへやら。もぬけの殻になっているというか、小さな声なき声を上げて、フニャフニャになっていた。だけど皆とても幸せそう。


 あれ。おかしいな。木魔天蓼の実って、フェリスアン属種を酩酊させるとは聞いたけど、比較的すぐに醒めるとか。なんで、こんなにへべれけになっているの?


「うむ。何だな。ジュライ。お前の従魔らの様子が変だぞ」


 同じ疑問を感じたのか、カークが問う。


 カークの問いにジュライさんは透き通るような眼差しを彼に向けた。


 この彼女の赤みが差した茶色の虹彩がある丸い瞳は、何故、そんな当然なことを聞くという疑問をていしているような感じがした。


 そしてジュライさんは、ごく自然に独特な低い声で答える。


「何てことはない。褒美をやっただけだ」


 カークは、さらに彼女に食いつく。


「だが、これは何だ? 尋常ではないぞ」


 それを聞いたジュライさんは、少しばつの悪い顔に変わって返答をした。


「何。特に珍しい薄紅木魔天蓼うすべにもくまてんりょうの若い実が中に混じっておってな。皆が欲しがるものだから与えた。確かにこれは、作用が強すぎたかもしれぬ」


 それを聞き終えたカーク。途端に彼はその筋骨隆々とした巨躯をジュライさんの方へと乗り出して、大声を出した。


「ほう。薄紅木魔天蓼の実とな。では、それの魔蠅まよう入りも手に入ったのか」


 ジュライさんは、迫るように話すカークに多少引き気味になっている。


「幸運なことにな。カーク。これと同じ場所に生っていたのを採集したのでな、その可能性が高い。お前んとこのラケルタがいて良かったぞ。他の従魔や従魔候補らでは、相当無理を強いるところだったからな」


 彼は、元の位置に戻って話す。どうやらカークは冷静さを取り戻したようだ。


「おう。生の丸魔蠅は広くリザイヤ目種の好物だ。後は、このフェリスアン属種の従魔らの様子を見れば、言わずもがなだな」


 え。やだ。そんなの、こちらは食べたくもないよ。


「ラケルタは、嫌がっているようだな」


 うん。そうそう。要らないからね。


 カークはこちらの様子を見る。そしてとても嬉しそうな顔をして、こちらの頭の毛をわしわしと乱暴に撫ぜる。


「ふむ。そうなのだ。こいつは調理したもんだったら、ものによっては喜んで食うんだが、丸のままの魔虫類マギア・インセクタリアは、そう好まんようでな。おまけに、俺ら人間が食う食い物に、とても強い興味を示すのだ」


 今度はジュライさんが、こちらをまじまじと見ている。


 うーん。なんだか、くすぐったいような気分だよ。


「ほう。それは興味深い。ならば人間が食える何か珍しい食材をラケルタの褒美に渡すか」


 お。何をくれるのかな。珍しい食材というのなら、普段手に入らない何かかも。楽しみだね。


 それから、こういうところに興味をもっているのは、彼女はごつい戦士のような恰好をしているけど、やはり魔動物召喚魔術師ということなのかな。


「ラケルタにはそうしてくれ。俺は、魔蠅入りの薄紅木魔天蓼の実が欲しいぞ」


 あ。カークさん。魔蠅入りの薄紅木魔天蓼の実に執着してる。何だろ。


「そうだな。今回で借りのひとつを返したつもりだが、いつも世話になっているからな。今は馬車の保存庫に入っている。明日の朝には、ラケルタへの褒美と一緒に、お前の居室まで届けさせるよう手配をしよう」


 え。あ。明日の朝なんだ。


「おう。そうしてくれ。楽しみだ」


 うん。そうだね。こちらも楽しみ。


「それで作った木魔天蓼の実酒と薄紅木魔天蓼酒を分けてもらえぬか」


「それは、もちろんだ。楽しみにしておけ」


 彼は満面の笑みを湛えて応答していた。


 好きなんだね。こういうの。カークさん。


「おう。俺らは、先に帰るぞ」


「そうしてくれ。私はこいつらが正常になるまで見守らねばならぬ」


 ほんと。正式な従魔も形無しってくらいに、べろんべろんだよ。これ。


ここに読みに来てくれて、ありがとうございます。


うん。ほんと。じわりじわりとですがブックマークが増えてきています。

それだけ読んでくれていると思うと、純粋に嬉しい。

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