7-02 取り残されて
日が暮れていく。
だんだん暗くなっていく馬車の中。
パラ先輩とオルト先輩の姉弟に続いて、エンタ先輩とイエン先輩。彼らに付く、それぞれの担当職員が、馬車の扉を開けて顔を出して来た。
栗鼠耳アルマジロの、エンタ先輩。
その時の彼は、こちらに向かって、大きな身振り手振りを使って、もうお馴染みになっている芝居がかったような武勇伝を語っていた。いつも相槌を打っている、相棒のイエン先輩のことは、全然構いやしないというように。
そうはいっても、イエン先輩のことが気になるようだ。ことあるごとに、小学生になりたての子供、それも先頭に立っている子くらいの背丈の身体を捩じっては、ちょくちょくとイエン先輩のほうを振り向いていた。
それでもエンタ先輩は、上手いこと胡麻化すことができていて、こちらが気づいていないと思っているようだ。
こんなにも何もないよと取り澄ました顔は、こちらが気が付いていないと思っているんじゃなければ、できないと思う。
そして彼の担当職員に来るようにと促されると、ひょいと彼女の傍らに向かう。エンタ先輩の担当職員は、とても可愛らしくて小柄な女性。だけど、こちらは彼女の名前を知らない。
馬車の中は暗くなってきているけど、外はまだ空に赤い色が残る、そんな時間。もちろん、エンタ先輩も従魔候補なので、引き手付き。だけど、担当職員の彼女と手と手で繋いで出て行った。その様は、とても微笑ましい。
んー。その。何だろね。彼は、こちらの先輩なんだけど。どう見ても可愛らしい。あの、ちょこっと振り向いた時の仕草や、心配そうに覗く栗鼠みたいな円らな瞳なんていうのはね。
一方で、エンタ先輩の相棒、ひょろ長カッパのイエン先輩。
馬車酔いが酷くて、意識もない感じ。馬車の長椅子に、長い身体を横たわらせてぐったりとしている。
そこへ、イエン先輩の担当職員が突然、ぬっと入って来た。その職員は、終始無言でちょっと気味が悪い。だけど、ひょろ長くて青白いイエン先輩の身体を労るようにして、優しく背負う。そして静かに出て行った。
その担当職員はイエン先輩と似ていて、背丈が高くて細身の人間。といっても、彼は、病的に細くはない。こちらのカークのように筋骨隆々とまでではないけど、それなりにがっしりとした体躯を有している。彼の名前もこちらは知らない。
そして、ジュライさんと彼女の正式な従魔たちは馬車の外。それもこちらの視界から外れた場所にいるらしい。
彼女はどうやら、あの木魔天蓼の実を、土産とは別途に褒美として彼らに与えているようだ。
大型猫科頭のフェリスアン属種の独特な特徴のひとつといわれる、喉を鳴らしているような音や、酔ったような甘く切ない鳴き声が漏れ聞こえていたりする。
そう。そのまま、猫にまたたびを与えた時の声。
その内の一つに、可愛らしい家猫そのもののような声がする。
たぶんこれは、シャム猫頭のノーマ氏。
あの凛と澄ました彼の顔からは、想像できないほどの甘えたような声。
ここはニサンの町の中。安全が確保されている。それでジュライさんは彼らに、あの実を与えているのだろう。
フェリスアン属種の正式な従魔たちは、ジュライさんを心の底から慕っている。これはこうして、最初に言ったことをしっかりと守ってくれているからだろう。
うーん、と。
いつものように、伸びをした。
広いと言っても馬車の中で長椅子に座っていたんだ。尻も痛いけど肩や背中も凝っているよ。
それにしても、これにも慣れたもんだ。無意識で伸びをしても全く同じ形だよ。今や、手首から腰にかかる鎖なんて、こちらの意識では自然な状態となっている。もちろん、これを見せろと言われたら、今でも嫌だけどね。恥ずかしい。
そうかあ。
でかいだけに、とてもガランとした馬車の中。まだここには、採集をした食材が入った物品はある。だけど、生きている生き物の気配は、こちらしかいない。
んー。残っている従魔候補は、こちら一体だけだよ。どうするんだろ?
待っている。
あれ、忘れられちゃったかな。
さらに、待っている。
でも、まだ荷物もある。誰かは、来てくれるよね。
ずっと、待っている。
ここは町の中。従魔候補は一体だけでは、出歩けない。
時だけが流れる。すでに馬車の中は、真っ暗。
……。
ふう。
そう思いながら、ため息をつく。
今も馬車内の長椅子に座っている。
対面にある窓を眺める。町のほうに開いているので、少しは明るい。といっても街灯とかはない。見上げると、まだ少し赤味がかってる夜空。星がとても綺麗だ。
流石にこちらも、ここにいるよと窓から叫ぼうと思った、その時。
あれ? 町の方角からかな。
だっだっだと、地面を蹴る音が響く。この音だと、かなり速い。
バタンと乱暴に馬車の扉を開ける音。そして荒い息遣いがそこにあった。
「おい。ここにいるのか? 待たせたな」
ん。あ。はい。
こちらは、精一杯の笑顔を作って、声がするほうへと振り向いた。
そう。そこには筋肉質のがっしりした巨躯の魔法使い、カークが佇んでいた。
彼は、ハアハアと息を切らせ、汗を滴らしている。
こんな状態のカークは、そう見ることはなかった。少なくとも、こちら自身は。最初の頃のあれとは違う。今のは、ただ単純に体力だけが消耗した状態。
「何だ。泣いているのか? ははは。変なやつだな。ま。良い。こっちに来い」
カークは、いつものように豪快に笑って、こちらを誘う。
そういう彼の目も、なんだか潤んでいるような気がする。
もちろん、単純に目に汗が入っただけかもしれないけど。
ほんと。じわりじわりとブックマークが増えてきているです。
それだけ読んでくれていると思うと、純粋に嬉しい。




