7-01 使役魔獣と従魔
章が変わりました。
町の門のすぐ前。
といっても、すでに町の中の側にいる。
ここは、朝に出発をした地点。そして、今は夜の帳が下りる前。
二頭立ての魔獣馬のでかいトレーラーのような馬車が停まっている。
心なしか、魔獣馬を御する鞭の音が忙しかったような気がする。
そう。あの頻回に鳴る鞭の音に驚き、戦いてしまった。
それを見ていたジュライさんが、あの鞭は音や仕草のみなのだ、しゃっきとせよという合図となる。実際に魔獣馬に鞭を当ててはおらぬと言っていた。また、休憩もほぼなく出発をした。やつらも疲れているだろうが、仕方がない。とも。
使役魔獣には、それ用のガイドラインがあったりする。なので、それなりの管理はされている。だけどこれは飽くまでもガイドライン。守るほうがより好ましいという指針となる。
だから、このガイドラインには、罰則もない。そのため、それこそ使用者の判断ひとつで、その扱いが異なって来る。それに同じ魔動物であっても、使役魔獣は、知的魔動物である従魔や従魔候補とは異なり、意思疎通がとても難しい。
なので、道具を使って指示をするのが主となるとか。そういえば、魔獣馬の手綱の先には、こちらの知る馬と同様、銜や頭絡など、しっかりと備え付けられている。
わ。すると、あの時やばかった。言語理解ができていなかったら、使役魔獣扱いだったかも。ん。あ。それ以前に即刻処分行きか。くわばら、くわばら。
そう思うと、こちらは、ほんとにラッキーだよね。うん。
んー。それにしても、尻が痛い。結構、ガタゴトと揺れたからね。
それでイエン先輩は、馬車酔いが酷かったようで失神をしている。だけど結果的には、失神をしていた方が幸せなのかもしれない。
車酔いって、目と耳との位置情報の違いから来ると聞く。そしてその目と耳との情報を処理して総合するところは、脳の高次な領域だとか。
イエン先輩は、失神をしてから、胃の内容物を吐いてもいない。混乱する情報の処理をしていた脳の機能が働いてないからかも。
そうはいっても、これがそういうことになっているかは、解らないけどね。
そうそう。エチケット袋のようなものも、あったりする。
そう。あのパイナップルのような形をした魔真水の実。この実というか茎というかの中身の水を、飲むか捨てるかした後の容器だよ。
あの特徴的な尖った葉を落としてある。だから、それがそれだとは、教えてもらうまで、こちらは気が付かなかったけど。
これはほんと。軽くて小さな樽のような形をした半透明のプラスチック容器そのもの。それに、これはびたりと嵌まる蓋もついている。
だからそんな時にも重宝をする。なので吐瀉物の臭気とかも遮断可能。馬車内での臭いもそう気になることもなかった。さらにこれは、100%魔植物製。土に返せば跡形もなく分解する。
うん。エコだね。だけど、ここではこういうのが普通みたい。
視点を変えて、停まっている馬車から窓の向こうの町の方へと見上げてみた。
この馬車の車体の窓には、木枠に少し不透明な強化ガラスのようなものがはめ込まれている。これもたぶん、何かの魔植物の素材を使用しているのだろう。そして古い列車にある窓よろしく、その窓の半分を下から上へと開けることができる。
もちろん、今、その窓は開いている。なんだかんだといっても、臭うからね。
うん。だけど元の世界の電車の車窓もこんな感じだったよね。懐かしい。
その車窓から眺めてみると夕陽がこのニサンの町の繁華街のメインストリートとその横に立ち並ぶ建物を茜色に美しく染め上げていた。
建物の壁。朱に近い色を基調に、その元の壁の色と混じって微妙に異なる色彩。その基調の色が刻々と紫から藍へと変化していく。とても優しい色。この夕陽は、この中心街へと仕事に行った帰りによく見ている。そう。これはとてもよく見慣れた風景。
そっかあ。この町に帰って来たんだ。
たった半日の野外訓練。だというのに、町を見た途端に喜びと安心感がじんわりと胸に込み上げ、ほっとしている自分がここにいる。
ほんと。住めば都とはよく言ったもの。ここに住み慣れてきたものだね。初めに感じていた不安な日々が嘘のように思える。
ん?
何かが、近づいてくる気配がする。馬車の車体へと軽やかにタンと乗り込む音。
「あー。君たち、無事だったか。良かった、良かった」
人間の男性の呼び声。これはもう、ほとんど叫び声に近い。
見れば案の定、その声の主はリザドリアン属羽毛種のパラ先輩とオルト先輩に付く担当職員だった。彼は、今にも泣きださんばかりになっているのを堪えているかのようだ。
この姉弟の先輩たちは、朝行くときにとても震えていた。それで、この担当職員の男性は、とても心配をしていたのだろう。
一方で、当のパラ先輩とオルト先輩は、担当職員の声を聞いても、そのくりっとした丸い目と縦に細い瞳をその担当職員に向けて、きょとんとしている。
そう。今では森林魔猫科のフェリスアン属種の従魔たちの傍でも全然平気。特に真っ黒な豹頭をしたグトランと一緒に狩りをしたからか、姉弟共にグトランにべったりと懐いてくっついている。
それを見た男の職員は、一瞬、驚いたような表情をした。けれども、その表情はすぐに消えた。そして顔一杯に柔和な笑みを浮かべる。
「朝とは随分と変わりましたね。これは良いことです」
そして、窘めるような、少し厳しめの顔に変化した。
「ですが、野生の森林魔猫科には、警戒をしてくださいよ。それこそ、パクリと食べられてしまいますからね。正式の従魔となるリザドリアン属羽毛種は、町の外にも出ることがある貴重な郵便要員。もうすぐ君たちは、その仲間入りをするのだから、その自覚を持っていて下さいよ。いいですね、パラ、オルト」
それを聞いたパラ先輩とオルト先輩は、神妙な顔をしてこくりと頷く。
それを見ていた彼は再び柔和な表情に戻る。そして、この姉弟の先輩を優しい手付きで両腕を差し出し誘う。
「さあ。こちらへおいで。施設へ帰りますよ」
そうして、夕闇がかかる道をパラ先輩とオルト先輩は先に出て行った。
なんかいいね。これ。
うん。従魔候補だって、悪くはない。
ここに読みに来てくれて、ありがとうございます。
これからもよろしくです。*^^*
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それだけ読んでくれているんだと思うと、純粋に嬉しい。




